泣かない幼馴染と泣き虫な俺

第15話 ※希依夏視点 わたしが知ってるお姉ちゃんは

お姉ちゃんにとって、みな兄はヒーローなんだって。

それを口に何度も出してみな兄に伝えてた。

わたしは最初、そう呼ぶ意味がわからなくて、お姉ちゃんの身に何があったのかわからなかったから、聞いてみたくなったんだ。

あれは、わたしが中一の時。

お姉ちゃんの部屋は、何か探し物をしているかのように散らかっていた。

「お姉ちゃん、みな兄に何してもらったの？」

「みなにい・・・ああ、湊大のことね」

不思議なことを言う。わたしがみな兄って呼ぶのは普通のことなのに。

お姉ちゃんがなぜかこっちを見て話してくれない。何か、あったのかな？

「ねぇ、希依夏ってさ、湊大のこと、好き？」

「好きだよっ！あっ、でもね、心配しないで。みな兄の場合は家族としての好きだから。お姉ちゃんのみな兄は取ったりしないよ？」

「そっか、そんなに好きなんだね」

なんだか、話が噛み合わない。お姉ちゃんの顔が暗い。というか、辛そう。

わたしがみな兄を取っちゃうと思ったのかな？

「ちょっと、1人にしてくれる？色々考えたいんだ」

「悩みあるなら聞くよ？」

「んー、そうなんだけど、そういう話じゃないかも・・・」

「きーかで良ければ話を聞くから、話してくれない？お姉ちゃん」

「うん、ごめんね、希依夏」

やっと、少しだけ目を合わせてくれたお姉ちゃん。

「あなた、だれ？」

「え？」

「きいか、なんだよね？このノートを見る限りは、そう」

「お姉ちゃん？きーかのこと、忘れちゃったの？」

「希依夏だけじゃなくて、全部思い出せないの」

「そんなっ！？大変！病院いこっ！？」

「やだっ！！！」

首をぶんぶん振って、駄々をこねた時のわたしのような拒否をするお姉ちゃん。

「お母さんに、言おっ？」

「ダメだよ・・・きっと悲しむから」

「でも、だからって・・・！」

「希依夏、お願いがあるの」

お姉ちゃんは、できるだけ冷静でいようとしている気がした。笑おうとしても笑えてない、そんな困ったような顔をしたお姉ちゃんが言う。

「わたしのこと、聞かせて。希依夏が知ってる範囲でいいから。わたしのこと、家族のこと。そして、わたしの大好きな、湊大のことを」

そんなに苦しそうに大好きって言う人を、わたしは知らない。

最初によそよそしく、わたしのことを知っているようなフリをしていたお姉ちゃんは、きーかがたくさん話をしたおかげですぐに元に戻ってくれた。

お姉ちゃんが、お父さん、お母さんに会うのがまだ辛いって言ったから、2人で部屋に立てこもってお泊まり会をした。

次の日、学校に行くと見せかけて、きーかとお姉ちゃんは学校をサボって町を探検した。

一通り散策して帰ったら、お母さんに怒られると思った。

でも、お母さんはお姉ちゃんの顔を見て、なんだか、驚いたような顔をしてた。

「おかえり」

その一言を聞いただけで、希依夏は嬉しくて泣いちゃったんだけど、お姉ちゃんは代わりに笑顔で「ただいま」って言ったよね。

ねぇ、お姉ちゃん、まだ泣くのが怖い？

全部大切なことを忘れちゃうから？

きーかは、お姉ちゃんのずっとそばにいるからね。