第14話 中二のある日
「なんでヘラヘラ笑ってんだよ!」
「だって、湊大はわたしの王子様で、助けてくれる人だよね?」
「俺が、いつ、そんなもんになった!?」
振り上げた右手の拳が横に飛んで机の棚が壊れた。小学生の時に親に買ってもらった学習机だ。
夢花は床に正座をしていて動かない。驚きもしない。目をパチリと閉じたりもしない。表情を、変えない。
それが何よりも腹立たしかった。
「手、血が出てるよ?」
「心配するんじゃねーよ!」
今度は振り上げた拳を夢花の近くに振り下ろす。俺は夢花を殴れない。痛めつけられない。でも、怖がらせることはできるはず。
だけど、こいつは全然堪えてなくて、
「わたしが泣かない理由は、教えない。絶対泣かないから、無駄なことはやめて」
「無駄かどうかは、俺が決めるんだよッ!!」
「みな兄、やめてっ!?」
部屋に飛び込んできた希依夏が俺を見る。ああ、そうだ。恐れてくれ。そして、みんないなくなっちまえ!
「おまえは関係ないのに来るんじゃねーよ!!」
「どうすれば止まってくれるの?苦しいの?」
「何でもいいからもう関わらないでくれよ!喋らないでくれ!!」
「!!!」
ムカつく。希依夏のオーバーリアクションもムカつく。感情的になれば、姉より声を大にすれば何でも人が言うこと聞いてくれると考えてるのがムカつく。
おまえのいつもやってることは俺と対して変わらないんだよ。暴力的になって言うこと聞かせれば勝ちだろ?
そして泣けよ。ふたりして、諦めて泣いてしまえ!
「・・・喋らなければいいって言うなら、そうするから、・・・みな兄っ、ごめんなさい」
「なんでおまえが謝るんだよ!意味わかんねーよ!」
「いつもわたしが一緒にいて、ずっと話聞いてくれて辛くなったんでしょ?きーかは自分勝手だから・・・」
「湊大、泣くのはあなたのせいじゃないよ」
「ああ!おめーのせいだよ!なーにが王子様だ。ヒーローだ。全部おまえが作ったデタラメなんだよ!役に立って良かったな?だが、それだけだ。ここから先に、役に立つ未来なんてねーんだよ!泣き虫に成り下がった俺にはなぁ!!」
「役に立つから一緒にいるわけじゃないよ。泣かせちゃうからそばにいるわけじゃないの。わたしがいたいから一緒にいるの。それがどんなあなたでも」
「・・・五月蝿いのやめるから、捨てないで・・・きーかのそばにいて・・・」
叫びすぎて喉が痛い。顔が熱い。脳が支配されているようになって、怒りの感情が取れない。
「だから、なんでだよ。そんな風に、2人して泣いてなくて、心配そうな顔して・・・」
「救急箱、探してくるね」
夢花が立ち上がって部屋を出て行った。
ドア脇で怯えてる希依夏が1人。こっちをじっと見ていた。
「なぁ、なんで泣かないのか教えてくれよ」
「言わない。お姉ちゃんと約束したから」
「そんなに、俺をからかって、楽しいのか?」
「からかってないよ。みな兄が苦しんでるのも、辛いのも知ってるもん」
「なんでてめーら、見捨てないんだよ、俺のこと・・・」
「お姉ちゃんも、きーかも、みな兄が大好き」
だい、すき?
嘘だろ?こんな弱虫を、泣いてばかりになっている俺を好きになるわけないだろ。
「嘘つくなよ!」
「恥ずかしいから、一回しか言いたく無い」
「は?」
顔を真っ赤にして逃げるように部屋を出た希依夏。
「なんなんだよ・・・いってぇ・・・」
いつの間にか怒りが収まった俺に、右手の痛みが急にきた。
誰もいない部屋。木の破片。俺の独り言に誰も返事をしない空間で、俺は初めて後悔の涙を流した。
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