第13話 今更ですが

「いってらっしゃい、みなと君、ふたりを宜しくね(ニコニコ)」


「任せてください。無事旅行から帰ってきたら2人をお返しますから」


「あら、返してくれなくてもいいのよ?(ニコニコ)」


草野姉妹のお母さんに見送られて、俺はどでかいボストンバッグをリュックのように背負って歩き出した。


とりあえず2日間の外泊の許可が出て、俺はホッとしていた。だからもう振り返っちゃダメな気がする。絶対今の俺の顔は疲れてる。


「キャリーケース一個しか無くてごめんね。重いでしょ?」


「いや、肩掛けじゃないからまだマシだな。背負ってしまえば軽いわ」


「・・・湊兄、わたしたちの着替えはそっちに入ってるから」


「お、おう」


それを俺に言ってどうしろと。丁寧に扱えってことか?


「責任重大だね。やっぱり湊大がいると助かるなぁ」


いつの間にか俺の両脇に姉妹がいる。右に夢花、左に希依夏。


右側を歩く夢花が車に轢かれないように、俺は夢花の手を引っ張って希夷夏のとなりに誘導する。


「危ないから、こっちにいろよ」


「別にいいのに。湊大がわたしの方見たり、希依夏の方見たりして忙しそうなのを見てるのが好きー」


「ドSかっ!?」


「なんだかんだ、突き放そうとしてるけど、わたしたち2人を大事にしてくれてるよね。ありがとう」


夕方で少し暗くなっていても、ぱっと花咲くこいつの笑顔に思わず見惚れる。


だか、こいつはいつも通りなだけだ。気にすることは無い。


「ばーか。ご機嫌取りしたってダメだぞ?」


「そんなことしてないのにな」


「・・・湊兄の機嫌が良くなったら、みんなでお風呂に入る」


「希依夏さんや。そんな約束はしてないぞ?」


「・・・今した。今約束した」


「強引すぎるだろ!」


「小学生の時はお風呂一緒に入ったよね?今更恥ずかしがること無いんじゃない?」


いや、夢花さん、あなた顔めっちゃ赤いんですけど、絶対恥ずかしいんだよな?


ここはちょっと反撃するか。


「そうだな。全然恥ずかしくないな。今更俺たちの関係で、裸を見られてもどうってこともないな」


「ぴぃっ!?」


夢花は顔面の沸点が頂点に達して、頭から煙を出しながらその場でフリーズしてしまった。


「・・・いじめすぎ。お姉、無理しちゃダメよ?戻ってきて」


「希依夏、後で・・・湊大をいじめよう?」


「・・・賛成」


希夷夏に抱きしめられた夢花がつぶやいた。


普通、こんだけ感情揺さぶられたら泣くはずなんだけどな。


ついつい、いじめたくなってしまう。


「人のことドSって言うけど、湊大にだけは言われたくないよ」


「・・・くすぐりの刑」


2人がかりでくすぐってくるのやばいんだよ。膀胱が緩みきっておしっこ漏れそうになる。


「なぁ、おまえら、ちょっといいか」


2人に同時に振り向かれる。だいぶ暗くなってきたのに、2人の眼が吸い込んだ光を反射していてとても綺麗だ。


「どうしたの?やっぱり泊まりは無しにしようってこと?」


いや、そんなんじゃ無いんだが。


「いつもいじめてごめんな」


どうしても、泣かない2人を泣かせたくなってしまう。もう俺の癖と言ってもいい。ついつい本気になって泣かせようとする俺を許してくれるなら、もし、受け入れてくれるなら。


「・・・慣れた。好きにして」


「急に謝ったからびっくりしたー。らしくないよ。どうしたの?」


「俺は人に謝れないクソ野郎だと!?」


「・・・否定はしない」


なんだ、そんなこと?みたいな顔して興味をなくしたようにくるっと前を向いてしまう姉妹。


クソ野郎と自分で言って自己嫌悪に陥るかなと思いきや、意外と笑って流せるような気持ちになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る