第6話 君のせいだとは言えない
さて、俺が泣くことなんて、クラスのやつらは見慣れている。
俺が泣いたら夢花に面倒を見られるのも見慣れた光景だ。
だが、今日はそれが違った。教室に戻ってきた仁也が近づいて来たのだ。
「夢花、僕に任せてもらってもいい?」
「仁也くん、どうしたの?」
「やっぱり、一旦離した方がいいかなって思うんだ」
「・・・・・・」
え?ハンカチで涙を拭き取る作業をイケメンがしてくれるのか?だったら俺が自分でやるわ。
「一回、鏡見て来なよ。その顔だよ?」
「あ、・・・うん、わかったよ。湊大のこと、お願いね?」
イケメンの一言が夢花を教室の外に追い出した。
おいおい。
「別にゆめが理由で俺が泣いてるからって、そこまでしなくてもいいだろ?」
「泣きながら言われても説得力無いなぁ。はい、ハンカチ使うかい?」
グレーのハンカチを渡され、俺は受け取ると目元にハンカチを押し付ける。
鼻水が出ないのが救いだが、こうも両目から止めどなく滴り落ちるとキツい。
何か、自分の中の大切なものを失くし続けている気分になる。
「ゆめは負い目を感じてるんだ。だから、泣いたら俺の世話をしてくれている。あいつが満足するまでやらせてあげればいいのに」
「彼女のあの顔じゃあ、君の目がカラカラに乾くほど無駄に泣くことになるよ?それでもいいのかい?」
「なんで希依夏の話をしただけで・・・」
「へぇ。妹ちゃんとお昼一緒だったこと、喋ったんだ?」
「隠す理由がねーよ」
「なるほどなるほど」
まだ涙でぼやけてる視界にいるこいつは、顎に手を当てて何か考え事をしているようだ。
「つーか、さっきの集まり、料理部関係なくて、全員おまえの追っかけみたいな女子だったじゃねぇか。騙したな?」
「妹ちゃんがいたから、意外だったよ」
「希依夏は、なんか、友達に誘われて来たんだと」
「友達?あの中にいたの?」
「いや、弁当忘れたらしくて、その子はあの場にいなかったらしい。志穂って子らしいけど、知ってるか?」
「シホ?・・・ってああ、灘(なだ)志穂のこと?」
「うん、そんな珍しい苗字だった気がする」
「灘さんとは、話したことあるよ。でも、少なくとも、僕に気がある感じでは無いんだけどね」
「そうなのか?」
「僕に気があるかどうかなんて、話してみればわかるさ。明らかに一人だけ、冷めた目をしていたから気づくよ。だから、妹ちゃんも僕に興味なんか無かったはずさ」
「希依夏は、おまえに毒味して欲しかったらしいが」
「・・・なるほどね、状況は理解したかな」
すっかり濡れてしまったハンカチを涙ケースに入れて水分を絞り落とした。
医者から、涙に血が混じり始めたら教えて欲しいと言われているので、一応、流した涙は保管しておくことにしている。
「助かった。洗って返すよ」
「そのハンカチにに僕の血が混じっていたら、大変なことになるよ?」
「え?血がついてたのか?」
「安心しなよ。それは君専用さ。そろそろ君も、自分の涙用のハンカチを買うべきだと思うよ?」
「ゆめのやつが、必要無いってさ」
「うーん」
やっと視界がクリアになった。仁也が困ったような顔をしている。
「ゆめのこと、迎えに行くか」
「ハンカチの無駄になるから、やめたほうがいいよ」
仁也に軽く肩を叩かれて、俺が動き出すのを止められた。
あーあ。ゆめ、落ち込んでなければいいが。
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