第4話 イケメンの会


茂燈(もとう)教育学園。略して茂教。


県内の公立高校の中で、最上位から3番目くらいの勉強できる集団の高校。それが茂教だ。


なのだが、文武両道はどこへやら。勉学も部活も中途半端な活躍の高校としても知られている。


バイトも週2回まで認められてるし、他の公立高校に比べて自由度が高いと思う。


そんな高校に通っている俺は、朝からクラスメイトに巻き込まれようとしていた。


「湊大、今日も泣ける曲見つけてきたよ。一緒に泣こうよ」


理系であるうちのクラス、2ーEの最前列の席に座らされている俺は、教卓に寄りかかりながら話しかけてくる男子をうんざりとした目で見つめていた。


六条仁也(じんや)。俺の中学時代からの悪友だ。


身長は軽く180超え。男だが、黒髪の襟足を女子みたいに肩まで伸ばしていた。


「朝から何泣かそうとしやがる」


「いや、湊大さ、今日まだ夢花の顔見てないよね?泣ける曲聴いたフリして挨拶ぐらいしてきなよ」


「毎回気を効かせてくれてるのは嬉しいが、余計なお節介だ。さっき、ゆめからはおはようスタンプが届いたからいいんだよ」


「そんなんでいいのか君の青春!」


「笑いあり、涙ありの青春を希望するなら、笑いがあれば俺は満足なんだよ」


涙ならもう十分だ。日常生活に支障を来たすくらいにはな。


「なんか、ちゃんと席に座って前だけ見てる君の、ぼっち臭がやばいよ」


「後ろを振り向くと涙が出るぞ」


「声出して泣くわけじゃないんだからさ、別に恥ずかしくないんじゃない?くしゃみと一緒だと思えばさ」


「くしゃみより恥ずかしいわ!じゃあ仁也は授業中にオナラできんのか?」


「朝からぼっち臭とオナラ臭はやめなよ」


なんだよ。女子みたいにまとまりやがって。つまんね。


仁也は誰からも愛されるイケメンだ。だから、そういう汚い話はしない。まるで、アイドルのような振る舞いをナチュラルにしてくるのだ。


俺にぼっち臭とか言って八つ当たりしてくるってことは、何かあったんだろうか?


「んで?今日は何かいつもより、ご機嫌斜めの王子様だな」


「その呼び方はやめてよ」


「おまえこそ、ぼっちとか言うからだろーが」


「今日のお昼、料理部に招待されているんだけど、うっかり胃薬を忘れたんだ。君は持ってない?」


「俺が持っているのはカモフラージュ用の目薬だけだ」


「目薬かぁ。腹痛で食べれませーんって言って泣きたい時に使えるかな?」


「素直に食べられないなら残せよ。なんで全部食べようとするんだ?」


「湊大よりも強烈に泣く女子がいるからだよ」


なるほどな。全部食べないと、口に合わなかったとみなされて、女子が泣くのか。地獄だな。


「わかった。じゃあ俺も行っていいか?」


「えっ?湊大、今日の昼空いてるのかい?それは良かった!」


イケメンが満面の笑みを浮かべる。なんかめっちゃムカつく。


今日は別に弁当を夢花と食べる日じゃない。

だから、昼飯を買うのが面倒だったから、食べられる物であるなら、食べてみたくなる。


女子の料理(幼馴染以外)ってやつをな。


「その代わりだ。保竹に泣く動画撮らせろと言われてるんだけど、おまえが代わりに出てくれ」


「なんだよ、そんなことか。お安い御用だ」


よし、保竹の依頼を断ると面倒臭そうだから、一旦仁也に出演してもらって様子を見よう。




ーーーーーー


調理実習室の独特のにおいが嫌いだ。


アルミの、金属の匂いなのか、それともハイターの匂いなのかはわからないが、あの食欲をかき立てるのとは真逆の匂い、どうにかならないものか。


公立高校で調理実習室があるのは珍しいらしい。だが、茂教の場合、災害が起きた時の非常食をここに備蓄しているみたいだ。


だから、教室3つ分くらいの広さがある。でかい。


まぁ、そんなことはどうでもよくて、


「キャアアアアア!!仁也さーん!!」


発狂して仁也に群がる女子達を見ながら、俺はある人物を発見した。


「なぜ、おまえがここにいる?」


肩をピクッと振るわせて、女子どもに紛れているあいつが反応する。


「・・・湊兄っ?・・・来て、くれたの?」


身長が低くても一発でわかった。俺は幼馴染マイスターなのかもしれん。2人しか幼馴染いないから知らんけど。


昨日振りの希依夏がそこにいた。


「料理部、入ったのか?」


「・・・違う。今日はイケメンが来るから、弁当を持ってここに集合しろって、・・・志穂が・・・」


「ああ、志穂っておまえの友達か。ここにいないみたいだけど」


「・・・弁当忘れて購買に行ってる」


どういうことだ?志穂ちゃんとやら、一緒にいてやれよ。


「で?イケメンにその弁当、食べさせるのか?」


「・・・お姉ちゃんみたいに、おいしく、ないよ?」


おいしいか、おいしくないかは別にいいんだよ。どれだけ頑張ったかじゃないか?


「いいか?あのイケメンは優しいイケメンだから、どんな不味くても全部食べるらしいぞ?」


希依夏に見上げられ、じーっと見つめられる俺。え?おい、おまえの目的は、あっちで女子陣にもみくちゃにされてる仁也じゃないのか?


「湊兄、来て」

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