第19話 暴露
使節団一行は場所を変え、王宮内にある会議室のような場所に通される。
そこで、今後の予定や、バッヘン王国に正式に編入するための簡単な仕組みなどを説明された。
「……ということで、編入に関しては今後2年をめどに行っていきたいと考えています。まずはあなた方の住んでいる周辺を測量し、正確な地図を作成するのが先決でしょう。それから……」
そのような感じで、使節団と王国側の協議が進んでいく。
レオたちは暇だから見学しているというスタイルだが、話を聞く限りでは、レオたちに出番はないだろう。
しかし、シンシアはそれを興味深そうに、真剣に聞いていた。
「なぁ、シンシア。この話聞いてて面白いか?」
この空気になじめず、思わずレオはシンシアに小声で聞く。
「面白い。国がどうやって動いていくのが分かるから」
「さいですか……」
どういった所に面白味を感じているのか、レオにはまったく理解できなかった。
こうしてたっぷり数時間、協議を行ったところで終了した。
「お疲れ様でした、リャッコさん」
レオはひとまず使節団一行を慰労する。
「えぇ。大変でしたが、有意義ある時間でした」
「この後は宿に戻りますか?」
「いえ、今一度国王と謁見することになっています。レオさんたちもいかがでしょう?」
「ではお言葉に甘えて」
そういって、もう一度謁見するために、国王のいる場所まで移動する。
そして、そこでもう一度国王と謁見する。
「先ほどまで協議をしていたようであるな。まずはご苦労と言っておこう」
「ありがとうございます」
「さて、先ほどの協議の結果では、そなたたちの故郷、エルフ族やドワーフ族を我が王国の領土の一つとする旨を話し合っていたな。本当によろしいか?」
「はい。これは我々亜人種族長年の夢でありましたから」
「そうか……。よかろう。これから騎士団の測量隊を派遣する。未到達地の多くを我が国に治めることになろう」
そう国王は宣言する。
これにより、測量隊がエルフの里やドワーフの村に向かい、測量を行うことで、正式にバッヘン王国の領土となる。
「ふむ。これから忙しくなるな。亜人種族に対応する法律や流通の変化など、する仕事は大量にあるからな」
そういって国王はガッハッハと笑って見せる。
こうして、バッヘン王国は正式に領土拡大をして見せたのであった。
その時である。
その場にいた全員が耳をふさぐ程の騒音に見舞われる。まるで蚊の音を大きくしたような感じだ。
「な、なんだ!?」
「何事だ!?」
周囲にいた騎士団や使節団一行、シンシアも耳をふさぐ。
しかしその音に反応していない人物が一人。
レオであった。
「な、何が起きてるんだ?」
レオは状況を把握するように、あたりを見渡す。
そしてその音は急にやんだ。
「な、何だったんだ……」
誰かが呟く。
その時、国王の後ろの壁、国旗が掲げられている所に、何かが映りこんだ。
それはテレビで見る砂嵐のようなものであり、そして姿を鮮明に現す。
その姿に、レオは見覚えがあった。
「最高司令官……」
そう、調査船アポカリプス号の最高司令官ハロルド・ヴェルナー少将である。
「あー、あー。聞こえているかね?」
「な、何者だ貴様は!」
「その様子だと聞こえているようだな」
「こんな魔法見たことない……」
シンシアが驚くようにいう。
それもそうだ。レオも知らないホログラム技術が存在したのだから。
しかも驚くことに、これはレオの視覚野ホログラムではなく、直接空間に投影しているホログラムであった。
「こんなの聞いてない……」
レオは思わずたじろぐ。
「まずは、国王陛下にご挨拶を。私はこの世界とは異なる場所からやってきた異星人、その調査船の最高責任者であり、司令官であるハロルド・ヴェルナーである」
「異星人……?」
おそらくそんな概念もないだろうと思われる人間たちに、問答無用で自己紹介するハロルド・ヴェルナー。
「今回の調査の目的は、この惑星が居住可能かどうかを調べ上げ、そして我々地球人類が適合できるか、である。また、この惑星の文明を調べ、我々より惑星文明が低い星であることを確認した。これにより、我々はこの星をテラフォーミングすることとする」
「テラフォーミング、だと?」
国王はそれが何なのかはっきりと分かっていない様子であった。
「平たく言えば、この惑星を乗っ取るということだ。そのために主要都市にエージェントを配置していたのだ」
「エージェント?一体誰がそんなことを?」
「そこにいるだろう。この世界ではレオ・ロイドと呼ばれているが」
そうハロルド・ヴェルナーがいうと、皆が一斉にレオのことを見る。
「彼は我々地球の知識を有している。いわゆる異世界転生というものだ。その記憶を呼び覚まし、様々なことを報告させてきた」
「違う!僕はレオ・ロイドだ!それ以外の何者でもない!」
「それは誰に教えてもらったのだね?」
「それは……」
「言えないのならそれでいい。しかし君はよく頑張った。我々のために調査し、そして報告してくれた。その功績は称えよう」
そういってハロルド・ヴェルナーは拍手をする。
「しかしそれもここまでだ。これから我々はこの惑星をテラフォーミングする。どのような手段を講じても無駄だ。我々に搾取されるのを楽しみに待っているがよい」
そういって、ハロルド・ヴェルナーは高笑いして消えていった。
そこに残されたのは静寂のみ。
数秒たってから、皆がゆっくりと視線をある人物に向ける。
そう、レオに視線が集中した。
「レオ・ロイド……。あの話は本当かね?」
「……はい」
周囲がざわめきだす。
「あの異星人というやつがレオ・ロイドなのか?」
「先ほどの話から推察するに、我々の敵になりうる存在となる……」
「つまりやつは我々にとっての敵?」
レオにとって最悪の状態になりつつある。
「ま、待ってください!僕は敵ではありません!それは保証します!」
「しかしどうやってその身を保証するというのだ?」
国王の指摘に、レオはたじろぐ。
でまかせでもいい。口約束でもいい。なにか良い方法で自分が味方であることを証明できる方法がないか考える。
(何か……、何かいい方法がないものか?)
そういって周囲を見渡す。
周囲の騎士団や、使節団の何人かは、レオを疑いの目で見ている。
シンシアは戸惑いの目だった。
自分の無実を証明するもの。それを探す。
その時、レオにあるものが映った。
「それだ!」
「な、何がだ?」
「国王陛下!その、使節団が持参した陛下と亜人種族を結ぶ、その刀剣を自分に渡してください!」
「な、何をいうか」
「その刀剣は、国王陛下の血筋と、勇気ある者にしか抜けないとエルフ族の長が言っていました。もしここで、私が刀剣を抜くことができれば、私が敵でない証拠になると考えます!」
「そ、そうなのか?」
国王は使節団に確認をとる。
「えぇ、そのように言い伝えられています」
「確かに、ここで刀剣が抜ければの話だが……」
「もし抜くことが出来れば、自分は敵ではなく、この国の、この星の味方であることを約束いたします!」
レオは無我夢中で説得する。
「分かった。まずは刀剣が誰でも抜けないことを調べよう」
そういってある人物を呼ぶ。
「およびになりましたか、陛下」
「うむ。話は聞いていたな?騎士団長」
「はい」
王立騎士団団長が出てきた。
そして刀剣を受け取ると、それを引き抜こうとする。
「ぐ、ぬぅ……」
力をこめて引っ張るものの、一向に抜ける気配がない。
「ほぉ、言い伝えは本当であったか……」
「まったく抜ける気配がありません」
そういって刀剣を国王に返す。
「ワシの時は簡単に抜けたのになぁ」
そういって、国王は刀剣を抜いて見せる。
騎士団長の時とは違って、簡単に抜くことが出来た。
「ではレオよ、この刀剣を抜いて見せよ」
そういって鞘に戻した国王は、その刀剣をレオの前に持って行かせた。
それを受け取ったレオは鞘とグリップを握り、精神統一する。
そして、ゆっくりと剣を引き抜いた。
その時、刀剣が白くまばゆい光を放つ。
そして刀剣はすべて引き抜かれ、その姿を現した。
「おぉ……」
「刀剣が抜かれた……?」
「何たること……。ここに勇気ある者が現れたことになるのか……」
リャッコは感嘆の声をあげる。
「これでいいでしょう。自分が皆さんの味方であることを」
「あ、あぁ。もちろんだ。これで証明された」
そういって国王は立ち上がり、レオの元に歩み寄る。
「その剣は君が持っていなさい」
「よろしいんですか?」
「うむ。そのほうが有意義に使えることだろう」
「ありがとうございます。国王陛下」
そういって深々と礼をする。
「さぁ、緊急事態だ!これより、我々は異星人とやらを相手しなければならない!戦争の準備だ!」
「はい!」
そういってそれぞれが持ち場についた。
「君たちも協力してくれるかね?」
「もちろんです」
そうレオが言う。
シンシアも状況を飲み込み、一緒にうなずいた。
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