第18話 謁見
その後、レオたちは依頼書を持って冒険者ギルドの受付へ向かう。
「依頼達成しましたので、受領印を押してください」
「はい。わかりました」
そういって受付の人は依頼書の中身を確認する。
「……はい。無事に依頼を達成されています。お疲れ様でした」
そうして依頼達成の賃金を受け取る。
そのまま、レオたちは使節団のいる大衆食堂に戻る。
「おや、ずいぶんと早かったですね。依頼は達成されたのですか?」
「えぇ、もちろん。名もない小さなギャングが起こした人さらいでしたよ」
「そうでしたか。それでもお疲れ様でした」
その後、レオたちも交じり、夕食をとる。
レオは体の節々が痛むものの、使節団との楽しいひと時を過ごしたのだった。
その夜は宿は取らず、いつも通り王都の外で野営することにする。
そして同じように、シンシアはレオと一緒に寝るのだった。
少しだけ違うのは、シンシアが今までよりもレオとの距離を詰めてきていることだろう。
「どしたのシンシア?」
「何でもない」
そうは言いつつも、いつも以上に密接しようとするそれは、まるで犬の主張のようなものを感じる。
その後数日間はそんな調子であった。
そんな王都での生活は、数日間続いた。
その間に、レオたちは王都での依頼をいくつかこなす。
依頼料としては安い分類に入るが、王都の物価が高いことや、宿に泊まらないこともあり、その日や翌日程度は問題なく過ごせる程度には稼ぐことができた。
そしてレオには重大な任務がある。
(えーと、これとこれを選択して、総括としてはどうしようかな?)
そう、調査船に報告するための報告書作りである。
とはいっても、気になったことやその日の感想を述べるような形式で、特段調査船のほうからは文句は言われない。おそらくそれで満足しているのだろう。
(よし、これでいいかな。あとはアップロードしてっと)
ファイルを送信し、ひとまずは問題なしと判断する。
そしてある日、冒険者ギルドに向かうと、受付の人から呼び出しを受ける。
「ギルド長からお話があるそうです」
もしかすると、国王のことかも知れない。
レオは使節団を伴って、ギルド長と面会する。
「実は昨日、国王直々に通達がありまして、使節団の謁見を認める旨のことが書かれていました」
「本当に国王と謁見できるんですね」
「えぇ、日時は明日。正門にいる衛兵に尋ねればよいと書いてありました」
「わかりました。そのようにします」
「しかしうまく行くものですな」
そうリャッコがいう。
「この国の長である国王陛下にお会いできるとは、長く生きてみるものですな」
「まったくです」
そういってギルドから出ると、今日の話をする。
「今日は依頼を受ける場合じゃないですし、ここは思い切って宿に泊まりましょう」
「しかしいいんですか?我々のような亜人を受け入れてくれるような場所があるとは思えませんが……」
「まぁ、この街の人々の反応を見ていれば、問題はないでしょう。とりあえず、明日に向けて体を洗ったり、しっかりした所で寝るのは大事なことです」
そういってレオはリャッコを言いくるめる。
正直な所、いい加減、宿にあるふかふかなベッドで寝たいというのが本音だ。
「しかし、これだけの人数、泊まるにはお金が足りないのでは?」
「何のために今まで依頼を受けてきたと思うんですか。比較的安い宿なら全員泊められますよ」
「そうですか。ではお言葉に甘えて」
そういって宿に泊まる。
宿の受付の人は一瞬奇妙なものを見たという顔をするものの、少額のチップをあげればちゃんと対応してくれた。
そうして、レオたちは宿に泊まることができた。
「ここ最近は働きづめだったからなぁ。体を拭きたい気分だ」
「それなら手伝う」
一緒の部屋になっているシンシアが、なぜかそう提案してきた。
「いや、一人でもできるから。大丈夫だから」
「ダメ、背中とか拭けないでしょ?」
そう屈託のない目で見つめてくる。
「はぁ、しょうがないな。背中だけだぞ?」
「うん」
そういってレオはシンシアに背中を拭いてもらう。
なんというか、そういうプレイをしているような気分で、レオとしては非常に心が痛い。
背中を拭き終わると、そのままシンシアが脱ぎ始める。
「ちょっ、何やってるの!」
「私も背中を拭いてほしい」
「いや、自分で拭けばいいんじゃないですか……?」
「自分じゃ拭けない。それにレオにやってもらいたい」
同じように穢れのない目で見つめてくる。
レオは苦渋の決断で、シンシアの背中を拭くことにした。
シンシアの背中を見てみると、自分とは違って非常に小さく見える。
あまりに強い力を入れてしまうと、壊れてしまうような感じだ。
レオは慎重に、優しくシンシアの背中を拭く。
シンシアの柔らかい肌は、簡単に傷を作ってしまいそうでもあった。
こうして、無事に背中を拭き終わると、レオは服を持って部屋の外に向かう。
「あとは自分でできるよな?終わるまで外で待ってるから」
若干早口になりながらも、部屋を出る。
そしてそのまま溜息をつきつつ、部屋の前に座り込んだ。
「なんかヘタレっぽいじゃん……」
結局その日もシンシアはレオにくっつきながら眠ることになった。
翌日。朝日が昇る中で、レオたち一行は王宮に向かう。
そして衛兵の一人に話しかける。
「すいません。亜人種族の使節団なんですが」
「君たちがそうか。ちょっと待っててくれ」
そういって衛兵は誰かを呼びに向かう。
すると、きっちりとしたスーツ姿の男性を伴って戻ってきた。
「お待ちしていました。どうぞこちらへ」
そういってレオたちは男性についていく。
男性は王宮の裏口のような場所から入るように案内してくれた。
「どうぞ、こちらからお入りください」
そういって比較的小さな門から入る。
そこを通ると、王宮の中に入れた。
王宮は絢爛な装飾が施されており、まるでミュージアムのようにも思えるほどである。
(ノイシュヴァンシュタイン城かよ)
そんな心の突っ込みをしつつ、レオたちは奥へと進んでいく。
そしてある部屋の前で止まった。
「こちらで国王陛下がお待ちです」
そういって扉を開く。
そこは大きな空間だった。きらびやかな装飾が施された空間は、その威厳を保つのにふさわしい。
そしてその奥中央に鎮座する男性と女性がいた。
「ようこそ我が城へ。我こそがこの国、バッヘン王国の国王、パトリック・ボーダー・バッヘンである」
そういうと、使節団は前に出て、国王と対峙する。
「初めまして、国王陛下。我々が亜人種族の代表であり、私が団長のリャッコです」
「うむ。話には聞いている。それに騎士団の中でも噂になっていたからな」
それは、騎士団の中でマリが噂を広めてくれたのだろう。
(ありがとう、マリ。感謝するぜ)
レオは心の中で感謝をする。
「さて、リャッコと言ったか。諸君らはどのような要件でここに参ったのだ?」
「はい。我々は皆さんのいう未到達地にて暮らしています。現在より200年前に、第14代国王陛下より、その地で生きることを許されたのです。つきましては、我々をバッヘン王国の一員として認めさせていただきたいのです」
「ふむ。それについて、何か認められるものを持っていると聞いたが?」
「はい。こちらに」
そういって、レオは国王の前にたち、あの刀剣を渡す。
「こちらになります」
「ほう。素晴らしい。質素ながらも、何か力のようなものを感じる」
そういって国王を刀剣を鞘から抜いた。
それは純白にも似た光を放ち、そして輝く。
「おぉ。これは……」
「第14代国王陛下の血を継ぐもの、そして勇気ある者にしか抜けない刀剣が、今抜かれた……」
驚くように、リャッコは解説する。
(ずいぶんと冷静だな)
リャッコの解説にレオは思った。
しばらく国王はその刀剣に魅せられると、満足したのか鞘に収める。
「ここに、亜人種族を我が王国の一員として認めよう」
使節団からは感嘆の声が上がる。
「ついては、使節団の諸君にはこれから国が派遣する調査員とともにその場所に案内してほしい」
「わかりました」
そういって国王の前から下がる。
そのまま使節団は今後の協議のために別室へ連れていかれる。
レオたちも暇であるため、その使節団の協議に参加するのであった。
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