第17話 王都

 レオたちは時間をつぶすために、王都を歩き回っていた。


「しかし時間をつぶすと言っても、数日やそこらかかる訳だよなぁ……」

「進言には時間がかかりますからな」


 そういってリャッコが同意する。

 いくら国王に話が行くとしても、その間に経由すべき人間はたくさんいる。

 その経由時間に相当時間が割かれることだろう。


「その間、宿に籠ってるのもいいけど、この人数では金銭的に問題があるなぁ」

「では王都で依頼をこなすのはどうでしょう?」


 そうリャッコが提案する。


「レオ、それはいい提案」

「まぁ、順当に考えればそうなるよね」


 そういって、一行は王都の冒険者ギルドに戻る。

 そして依頼ボードに何か依頼がないかを探す。


「やっぱり前の冒険者ギルドとは依頼の系統が違うな」


 基本的に人やペット探しといった、人が多いところならではの依頼が多い。

 その中でも、レオはあるものに目をつけた。


「人さらい……?」


 そう、子供がさらわれたので救ってほしいという内容のものだ。


「難易度的には難しくなさそうだし、これを受けてみるか」


 そういって受付に持っていく。


「これは少し難しい内容かと思いますが……」


 依頼書を持っていった受付の人にそういわれる。


「まぁ、多分大丈夫でしょ」

「うん」


 そうシンシアも頷いている。


「そうですか……。では頑張ってきてください」


 そういってハンコを押してもらう。

 レオはリャッコたち使節団を、冒険者ギルドに併設されている大衆食堂に待機するよう指示する。


「これお金です。僕たちが依頼をこなす間はここにいてください」

「何から何まで、本当に感謝します」


 そういって使節団は大衆食堂に入っていく。


「さて、僕たちは依頼をこなしにいくか」


 そういってレオたちは、まず依頼者に会うことにした。

 依頼主は、そこそこ裕福な家の家主であった。


「どうか、娘を取り返してきてほしい……!」


 レオたちが訪問して開口一番、そんなことを話す依頼者。


「落ち着いてください。まずはどうしてこうなったのかから教えてください」

「はい……」


 さらわれたのは12歳になる一人娘のカーラという少女。ある日、家族で出かけていた時に、人さらいにあったそうだ。さらわれた直後に家に手紙が届いていたそうで、そこには身代金として、高額な金額を要求してきたらしい。


(人さらいっていうか、身代金目的の誘拐では……)


 そんなことを思ったレオであった。


「お願いします!どうか、どうか娘を助けてください」


 そういって依頼主の男性は、目に涙を浮かべながら言った。


「分かりました。とりあえず、要求通りの身代金を用意してもらってもいいですか?」

「人さらいの言う通りにするってことですか!?」

「人さらいの情報が足りないのです。ひとまずは要求通りに事を運んで、足を捕まえます」

「……分かりました」


 そういって男性はバッグに指示通りのお金を詰める。


「それで、人さらいは今日の夕方に近くの大通りで待つように指示しているんですね?」

「はい、そうです」

「では、お父さんは人さらいの要求通り、その通りで待っていてください。僕たちは付近で監視しています」

「分かりました」


 そういって夕方に、人さらいの指示通りの場所で待つ。

 レオたちは通りを見通せる屋根の上で待機していた。

 その時、全身をローブで覆った人が男性に近づいていく。

 レオはマイクロチップの力を使って、聴力を増幅させる。そして静かに耳を済ませた。


『動くな、要求通りの金は用意したんだろうな?』

『あ、あぁもちろんだ。娘を返してくれ』

『先に金を渡してからだ』


 そういうと、男性はお金の入ったバッグをローブの男に渡す。


『ちゃんと金は用意したようだな。俺が視界から消えるまで絶対に動くんじゃねぇぞ』

『それで、娘は返してくれるんだろうな?』

『もちろんだ。明日の朝には返してやろう』


 そういってローブの男はその通りを去る。


「シンシア、追いかけるぞ」

「うん」


 そういってレオたちは身体強化の魔法を使いながら、屋根伝いにローブの男を追いかける。

 しばらく追いかけると、次第に通りが密集している場所に来る。


「不味いな、スラム街のほうに向かっている……」


 王都には、小さいながらもスラム街が存在する。そんな中に行かれてしまっては、追跡するのが困難になる。


「仕方ない」


 そういってレオはローブの男に先回りするように移動し、そしてローブの男の前に現れる。


「光の精霊よ、いまこそ敵の目を眩ませんとす。フラッシュ」


 そういうと、辺り一体にまぶしい程の閃光が輝く。

 その光をもろに食らったローブの男は、思わず座り込む。

 その時に、シンシアが後ろから魔法をかけた。


「光の精霊よ、この者の罪を白状させよ。ハプノーサス」


 その魔法にかかったローブの男はぐったりと地面に横たわった。

 レオはローブの男を近くの壁に寄りかからせると、いくつか質問をする。


「お前の所属は?」

「名前もないギャング集団だ……」

「本拠地は?」

「この先にある地下の部屋だ……」

「そこにカーラという少女がいるんだな?」

「あぁ……」

「よし、このままその本拠地に連れていけ」

「分かった……」


 そういってローブの男は立ち上がると、フラフラとした足取りでギャングの本拠地へ向かう。

 レオたちはローブの男についていく。

 すると、ローブの男はある場所で地下に降りる。


「ここが本拠地なのか?」

「かもしれない」


 そういうと、シンシアはローブの男にかけていた魔法を解く。

 するとローブの男は、ハッとした表情で周りを見渡す。

 その隙にレオたちは隠れる。どうにかして姿は分からなかったようだ。

 そのままローブの男は、地下にある部屋に入っていった。

 レオは部屋に入ったのを確認すると、扉の前に行き、マイクロチップで聴覚を研ぎ澄まし、中の様子を聞く。


『少し遅かったんじゃないか?』

『そうか?』

『まぁとにかく、目的の物は手に入ったんだろうな?』

『もちろんだ。見てみろ』

『どれどれ……、確かに本物の金だ』

『はっは、俺たちは成功したんだ!』

『それで、この女はどうする?』

『そんなの一つしかないだろ。ここで慰め者にしてやる』


 それを聞いたレオは思わずドアをノックする。

 それに気が付いた中の人間がこっちにやってくるのが聞こえた。


「レオ、どうするの?」

「ここで奴らをやっつける」


 そして扉が開いた。


「あー、どちらさん?」

「すいません、この辺で少女が人さらいにあったと聞きまして、調査をしているんです」


 レオは適当なことを言ってごまかす。


「人さらい?うちには関係ないな」

「ですが、念のため、中を見せてもらってもいいですか?」

「ダメダメ。そんな他人の家の中を簡単に見せるようなものではないよ」

「もしかして見せられないようなものでもあるんですか?」

「そんなわけないだろ。純粋に家の物なんか見せねぇって話だ」

「そうですか。それは残念です」


 そういってレオは拳を握る。

 そしてそのまま、応対した男性を下からぶん殴った。

 マイクロチップのおかげで身体を強化していることで、男性の体は数センチ浮き、そのまま後頭部から落ちていった。


「なんだてめぇ!」


 その様子を見ていた他のギャングたちが一斉に襲い掛かってくる。


「光の精霊よ、今敵にその導きを。フラッシュ」


 後ろからシンシアが光を焚いて目を奪う。


「大地よ、そのエネルギーを我に与えたまえ」


 その隙にレオが身体強化の魔法を使う。

 そしてそのまま室内での戦闘になった。しかしほとんどのギャングは、先ほどのフラッシュの影響で目が見えていない。

 まずは一番近くにいた男に向かって、飛び蹴りを食らわす。

 そのまま隣に立っていた男に裏拳をする。

 こうして2人を無力化したところで、少し奥のほうにいるギャングに向かって走る。

 途中にあった簡素な椅子を手に取り、そのままの勢いで頭に椅子を叩きこむ。

 壊れた椅子を、奥の扉の前に立っていたギャングに向けて投擲。見事命中する。

 これで見える範囲のギャングは無力化した。

 奥の扉に向かい、そのまま慎重に開ける。そこには数人のギャングと、椅子に縛られた少女が一人いた。

 こちらに注意を引かせるため、わざと扉を蹴っ飛ばして粉砕する。

 すると、予想通り、ギャングがこっちに注意をそらす。

 その瞬間、魔法を発動する。


「水の精霊よ、加護を受けない敵に今こそ決死の魔法を。ウォーターバブル」


 するとギャング数人だけに、顔に覆いかぶさるように水の玉が生成される。

 ギャング数人は突然のことで何もできない。それどころか、水によって呼吸が阻害されている。

 これによって、ギャングたちは水に溺れるような形となり、そして十数秒後にはたちまち倒れた。

 それを確認したレオは魔法を解除し、少女の元に駆け寄る。


「大丈夫か?」


 そういって少女を拘束していた縄を解く。

 その瞬間、少女はレオに抱きつき、大きな声で泣き始めた。

 そこにシンシアがやってきて、少女の頭をなでる。


「怖かったね」


 ただ一言、そういった。

 ただこうしている場合ではない。

 ここはスラム街、どのような危険が待っているか分からない。

 レオたちは少女と金を確保すると、そのままスラム街を出た。


「あぁ!カーラ!よかった……」


 無事依頼主のもとに戻ったカーラ。

 その様子をレオたちは見届けた。


「ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいのか……」

「いえ、仕事ですので」


 そういってると、カーラがレオの元にやってくる。

 そして耳を貸すように指示する。

 レオはその通りにすると、少女はレオの頬にキスをした。


「なっ……」

「ありがと、お兄ちゃんっ」


 そういってカーラは家に入っていく。

 レオは少し、ポカンとしてしまった。しかしそれが彼女なりの精一杯の感謝であることに気が付く。

 すると背中に何か叩かれる感覚を覚える。

 そこには、頬を大きくしてレオのことを叩くシンシアの姿があった。


「な、なんだよシンシア」

「別に……」


 そういってそっぽを向く。

 こうして無事に依頼を達成することに成功した。

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