第16話 到着
王都へと向かう馬車の中は非常に狭く、お互い肩をぶつけ合いながらの移動だった。
もちろん、乗合の冒険者や一般人もおり、彼らからは奇妙な目で見られることだろう。
(やっぱり珍しいものなのかな?)
レオは偽物であるものの地球時代の記憶があるため珍しい感じはするが、周りの一般人のように畏怖の念であったり恐怖の対象のようにはなったりしない。
しかし一般人にはそうはいかないようだ。
同じ人の形であるものの、何かが本質的に異なる。そういった感情を敏感に受け取っているような感じだ。
レオはこの空気を変えるために、リャッコに話を振る。
「そういえば、リャッコさん。この刀剣は特別なものであるという話をしていましたね?」
「そうですね。その刀剣の正式な名前はありませんが、人間と亜人をつなぐ架け橋ということは聞いています。冒険者ギルドで話した通り、それは王族の血縁者と、それ以外の勇気ある者にしか抜けない剣になりますから」
「しかし、200年も前のものになるんですよね?刀剣が錆びついて抜けないとかあるんじゃないですか?」
「いえ、聞いた話によれば、この刀剣は鍛錬時にある魔法がかけられていて、簡単には錆びつかないようになっていると聞いています」
「なるほど」
「また、その刀剣には装飾の類いが一切施されていません。それだけ、純粋な刀剣としての機能を追求したものになると思われます」
そういってリャッコは目を閉じる。
そのまま瞑想のような状態に入った。それは一見すると、寝ているようにも見える。
(この状態でよく寝られるな……)
そう黒島は思った。
しかし、勇気ある者しか抜けないとなると、なんとなくこの刀剣を抜きたくなる。
レオは少しだけ刀剣を鞘から抜いてみた。
すると、カチャと音が鳴り、刀剣が少しだけ抜ける感覚がする。
(やっべ)
レオはすぐに戻す。
今の音は誰にも聞かれてないか、ハラハラしたが、幸い誰にも気づかれていない。
迂闊なことはやめようとレオは思った。
馬車は道中、中継地である村々に止まっては小休憩を挟む。
そのたびに、レオは馬車の外に出て伸びをする。
「うぅん。もう少し快適な乗り物だと思ってたんだけどなぁ」
しかしそんなことをぼやいても状況が改善する訳ではない。
レオはその状況を甘んじて受け入れ、そしてその後も馬車に揺られる。
一つ問題があるとすれば、馬車に乗っている時、すぐ横でシンシアがレオに体を密着させていることだろう。
「お二人さんは恋人かい?」
同乗者の男性からそんなことを言われることもあった。
そのたびにレオは否定を入れるが、否定が入るたびにシンシアの密着度は大きくなるばかりである。
しかし、シンシアにどうして密着するかを聞くこともできないレオは、素直にその状況を受け入れざるを得なかった。
こうして数日かけて、もとの街から王都へと移動する。
「ここが王都かぁ」
「レオさんは王都に来たことはないのですか?」
「えぇ、生まれてこのかた。馬車に乗ってきた通り、遠いですからね」
「なるほど」
「ではまず、王都にある冒険者ギルドに向かいますか」
そういって一行は王都に存在する冒険者ギルドへと向かった。
元いた街の冒険者ギルドと変わらない程の大きさを誇る王都の冒険者ギルドは、大変賑わいを見せている。
そんな中、王都の冒険者ギルド長にあてた書簡を持って、レオたちは受付へと向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件ですか?」
「実はここのギルド長にお会いしたくて」
「申し訳ありませんが、そのようなことはお断りしています」
「では、この書簡をギルド長に渡してもらえませんか?」
「そういった業務も行っていませんが……」
そういって受付の人が書簡を一目見ると、少し狼狽えるのが見て取れた。
「……ちょっと待ってください。担当の者を呼んできます」
そういって受付の人は席を立ち、奥へと消える。
しばらくすると、受付の人が男性を連れて戻ってきた。
「大変お待たせしました。書簡のほうを見せていただけませんか?」
「はい。どうぞ」
そういって、レオは書簡を渡す。
男性は書簡に押された封蝋を確認する。
「この封蝋、本物のギルド長のものですね……」
「では?」
そんな話を受付の人と男性がする。
そして話がまとまったのか、レオたちに話しかけた。
「書簡が本物であることを確認しました。ただいまギルド長に送り届けてきます」
そういって男性は再び奥に消えていった。
「そういうことですので、受付付近でお待ちください」
そう受付の人がいう。
レオたちはその言葉に従い、冒険者の邪魔にならない所で待機する。
しばらく経って、先ほどの男性が出てきた。
「レオ様、使節団の皆様、ギルド長が面会を望んでいます。こちらへどうぞ」
そういって一行は受付の裏へと入り、そのまま2階へと上がっていく。
そして通されたのは比較的簡素な部屋だった。
「こちらがギルド長のお部屋になります」
そういって通される。
そこには、もとのギルド長ゴルバよりも若い男性であった。
「どうも、私がここのギルド長、ウェンリーです」
そういって、ソファに座るように促す。
「いやはや、ゴルバ殿から書簡とは一体何事かと思いましたが、中を読んで納得しました」
そういって、レオたちに対面するようにソファに座る。
「それで、あなたたちが亜人種族の使節団ですか」
「えぇ。人間の世界では異様かもしれませんが」
「そんなことはありませんよ。繰り返しになるかもしれませんが、あなた方亜人種族と我が国の関係について今一度詳しくお聞かせ願えれば」
「もちろん、構いませんよ」
そういって、リャッコは再びこの国との関係と自分たちの境遇について話す。
「なるほど……。かつて冒険者を目指していたころを思い出しますな。そういった事実があったことを」
「この国はいいところです。私たちの姿を見ても、迫害などしないのですから」
「しかし200年前はそうではなかった。当時は過激な思想も受け入れられていた時代でもあったわけです。当時の人間を代表してお詫びします」
「そんな。過去の、しかも赤の他人のしたことにお詫びを入れるなんて、いくら時間があっても足りませんよ」
「それもそうですな。それで本題に入るのですが、国王とお会いしたいと?」
「えぇ。可能であれば謁見し、我々との関係を持ってもらえればいいと考えています」
「しかし国王もお忙しい身であるため、使節団の皆さんと謁見してもらえるか……」
「無茶なお願いではありますが、どうかよろしくお願いします」
「分かりました。可能な限り善処を尽くしてみます」
そういって、ひとまず時間を置くことになった。
「レオさん、ギルド長から国王への謁見の申し込みは可能だと思いますか?」
「それは僕に言われても仕方ないことだと思いますよ」
「そうですか……」
「まぁ、僕からの人脈を使ってみる価値はありそうですがね」
そういって、ひとまずレオたち一行は王宮を目指す。
王宮の前には衛兵が立っており、門は固く閉じられている。
目の前の通りは人でにぎわっているものの、この門の周りだけは人がいない。
そんな衛兵の一人に話しかける。
「すいません、少しお聞きしたいことがあるんですが」
「なんだ貴様らは?ここは王宮だぞ?場合によっては貴様らを排除することもできるぞ?」
「別に僕たちは怪しいものではありません。それより、マリ・テレアという人物を知りませんか?」
「マリか?知ってはいるが、それがなんだ?」
「少し話がしたいんです」
「しかしだな。王宮に不審人物を入れるわけにもいかん」
そんなことを話しているときだった。
遠くから王立騎士団の集団がやってくる。
「ほれ、騎士団の交代の時間だ。部外者は帰ってくれ」
そう言われて追い払われそうになっていたときだった。
「あ!レオ!」
なんと偶然にも、マリが登場したのだった。
「マリ、久しぶり」
「どうしたの?こんな大所帯で」
「少し訳アリでさ。マリ、今から話できる?」
「これから交代だから時間はあるけど……」
「それじゃあ、ここで待っているから出てこられる?」
「分かった。ちょっと待っててね」
そういってマリは交代の衛兵と入れ替わって、王宮の中に入っていく。
しばらくして、マリが別のほうから出てきた。
「お待たせ。それで話って何?」
「実はさ……」
そういって、レオはこれまでの経緯をマリに話す。
「……そういう訳で、今国王と謁見できないか模索している所なんだ」
「そんなことがあったんだ……」
そういって、マリは考える。
「うーん、王立騎士団だからって、誰でも国王と会えるわけじゃないから……」
「噂程度でもいいんだ。国王の耳に届かないかな?」
「どうだろう……」
そういってマリはうなる。
そして一つの考えを提示する。
「不審人物がいたといって、彼らの特徴を上げるのは比較的効果があるんじゃないかな?」
「というと?」
「とにかく国王の耳に聞かせるには、報告をしなきゃいけないの。そうなると、不審人物として、使節団の人がいたって報告をすれば、いずれか騎士団長の耳に届いて、それが国王に届く、かもしれない」
「そっかぁ」
可能性は薄いが、それでもないわけではない。
「それじゃあ、それでお願いするよ。こっちも冒険者ギルドのギルド長から国王に進言しているからさ」
「分かった。そうしてみる」
そうしてしばらくは時間が空くことになった。
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