第15話 模索
エルフの村で一晩明かしたレオたちは、そのまま帰宅の途につくため、準備をしていた。
そんな中、わざわざ村長が部屋までやってきて、見送りに来てくれる。
「わざわざ見送りまでしてもらうなんて、なんと言えばいいのやら……」
「別に構わぬよ。本来なら、我々が出向かなくてはいけないはずなのだからな」
「すべてが順調に行くとは限りませんが、最善を尽くします」
そういって、レオは腰に添えた刀剣に手をやる。
「頼んだぞ、人の子らよ」
外では、村長が用意した使節団がいた。
一晩で用意したという割には、彼らは立派な顔つきをしていた。
「我々が村長より選ばれた使節団です。そして、私が団長のリャッコです」
「エルフだけではないようですが……」
「はい。周辺のドワーフ族や、より人間の見た目に似ているリザード族にも協力を得まして、こうして使節団を結成したわけです」
「へぇ。それに、あなたは僕たちの言葉に対して流暢ですね」
「私は使節団の団長であると同時に通訳を兼任しています。もちろん、彼ら個人でも人間の意味のある言葉を話すことは可能ですが、文章としてはおかしな所があります。それを私が翻訳してあげるのです」
「そうなんですか」
「これも人間と亜人が長い間、関係がなかった弊害なのかもしれません」
そういってリャッコは遠い目をして言う。
「それでは、遅くならないうちに出発しましょう」
そうリャッコは先陣を切る。
レオたちもそれに遅れまいと、ついていく。
しばらく歩いていくと、例の渓谷と吊り橋につく。
安全のため人数を制限して、ゆっくりと渡っていった。
レオの最初の目的地であった巨木に到達すると、そこで一度休憩となる。
「これは、我々が住処にしている木とはまた趣が違った樹木であるな……」
そういってリャッコが木に手をやる。森とともに生きるエルフのことだから、木の声でも聞いているのだろうか。
休憩が終わると、そのまま街に戻るため森の中を南下した。
獣道からちょっとした通りになり、そして街道となる。
その道中にある村々を通ると、リャッコたち使節団は物珍しそうな視線を浴びるのだった。
そして冒険者ギルドのある街まで戻ってくる。
「ここが人間の街……。にぎやかな所ですね」
そうリャッコが感想を残す。
静かな森の中では、人間の街の喧噪はうるさすぎるほどだろうか。
レオはリャッコたち使節団を連れて、冒険者ギルドへと戻る。
「いらっしゃいませ……」
「あ、どうも」
「こんにちは。その後ろの人たちは?」
「ちょっと訳アリでしてね。ギルド長とか呼べますか?」
「後で相談してみます……。それで本日はどのような要件で?」
「あぁ、以前受けた地図製作の依頼ですが、それの報告に上がりました」
「それでは、地図のほうを預からせていただきます」
そういって、今回製作した地図の概要を受付の人に渡す。
「では、数日は依頼を受けないようにお願いします」
「と、言うと?」
「概要とは言っても、地図は正確性が必要です。そのため、不鮮明な部分があると、呼び出しをして確認させてもらうことがあります。場合によっては再調査を依頼することもあります」
「そうなんですか」
「なので、呼び出しを受けてもすぐに対応できる場所にいてくださいね」
「分かりました」
「では、これを専門家に届けてくるのと、ギルド長に相談してきますね」
そういって受付の人は奥のほうへ消えていく。
その間にも、使節団は注目の的であった。
「これもどうにかしないとな……」
とりあえず、併設されている大衆食堂に連れていくことにした。
そこで、料理を注文しつつ、今後の話について語り合う。
「まずは王都に向かわないと話にならないですね」
「ここから王都まではどれくらいかかるものなんですか?」
「そうですねぇ……。馬で3日程度ですかね」
「3日……」
「歩いても行けなくはないですが、これだけの人数を連れて歩いていくと、最低でも1週間は覚悟しないと行けないですね」
「では、馬車を用意しないと行けないですね」
「でも多分大丈夫ですよ。王都に向かう定期便が出ているはずです。それに商人に同乗させてもらえれば、王都はすぐだと思いますよ」
「ではそうしましょう」
そういってレオはエールをあおる。
「しかし問題はどうやって国王にお会いするかだなぁ……」
「国王が外出する際に、直談判するのはどうでしょう?」
リャッコの意見に、レオは想像する。
国王の外出時に、国王の馬車に向かって突撃するレオたちの図。
レオは地球時代の記憶に似たような物があったことを思い出す。
しかしこの方法では、明らかに衛兵に取り押さえられてしまう。
「ん?衛兵?」
その時、レオの脳内にある人物が思い出される。
「そうだ!マリがいるじゃないか!」
そういって立ち上がる。
「マ、マリ?」
「僕の幼馴染で、王立騎士団の衛兵をしている女の子ですよ。彼女から人づてに国王の耳に届けば、謁見できるかもしれません」
「だいぶおおざっぱな計画かもしれませんが、他に案がないのなら、それに乗るしかありませんね」
そういってリャッコはレオのことを見る。
こうしてこの日は更けていく。
彼らは使節団であるものの、人間ではないため宿の従業員には変な目で見られることだろう。そのため、彼らは街の外で野営することにした。
「大丈夫ですか?チップを払えば何とかなると思いますけど……」
「えぇ、大丈夫です。我々にはこの国で流通している通貨を持ち合わせていませんからね。それにいつまでもレオさんたちにお世話になる訳にはいきませんから」
「それなら僕たちも野営しますよ」
「……いいんですか?」
「大丈夫だよな、シンシア」
そういってシンシアは小さく頷いた。
こうして街の外で使節団は野営をすることになった。もちろん、レオはシンシアとともに寝床を共有することになったが。
翌日、冒険者ギルドに顔を出したレオたちは、受付の人に呼ばれていた。
「昨日ギルド長と話をしたんですが、詳しく話を聞きたいとのことです」
「今ですか?」
受付の人は頷く。
絶好のチャンスだ。これで王都に行く口実もできるかもしれない。
早速レオたちは冒険者ギルドの裏に案内された。
2階の事務室の奥、ギルド長室に連れていかれる。
中に入ると、だいぶ年の行った男性が座っていた。
「ようこそ、私がギルド長のゴルバです」
そういってソファに座るように誘導される。
「レオでしたかな?昨日作成された地図を拝見しました。未到達地にあのような場所があるとは予想もしなかったですぞ」
「僕も同じ気持ちです」
「それでリャッコ殿でしたな。あなたがその未到達地の住人と」
「そうです」
こうしてリャッコはこれまでの自分たちの境遇と国の関係について話した。
「そういうわけですか……。いやはや、これは参った。歴史であったことが、こうして実現するとは……」
ゴルバは困ったようにいう。
「しかしこれは逆に見れば好機でもあるということ。この際、亜人とも共生する国家として国王陛下に進言するのもありですな」
そういってテーブルに出された紅茶を飲む。
「それで、今レオが持っている刀剣が、人間と亜人をつなぐ鍵になるということですか」
「そのようです」
「一度鑑定してみてはいかがでしょう。その刀剣が持つ力を見てみれば、何か分かるかもしれませんな」
「しかしながら、この刀剣は国王の子孫と、勇気ある者しか抜けないという逸話があります。おいそれと刀剣を調べるのはやめていただきたい」
「そうか……。そういうことなら、そっとしておこう」
そういってゴルバはまた紅茶を飲む。
「では私の人脈から、国王陛下に会えるか、模索してみましょう。まずはこの書簡を王都にある冒険者ギルド長に渡してくだされ」
「ありがとうございます。こちらからも人脈を使って、国王陛下に謁見できるか試してみます」
そういって、今後しばらくの方針が決まった。
まずは王都を目指すのだ。
調べた所、幸いにして王都への定期便はあった。
それに同乗して、王都を目指すことにする。
「では行きますか、王都へ」
レオたちは王都行きの馬車に乗り込み、王都へと向かった。
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