第13話 散策
半分寝られなかったレオは、少し寝不足気味で翌朝を迎えることになった。
それもそうだろう。年頃の男女が同じ寝床で寝るなんて、よほどのことがない限りは実現しないことなのだから。
そんな感じで、シンシアのことを起こさないように、レオは慎重に寝床を抜け出し、朝日を浴びる。
「うぅん……。今日も一日頑張るかぁ」
この日は未到達地の本格的な調査だ。
そのため、秘策が生かせる時である。
『こちら栗林。調査船、聞こえるか?』
『こちら調査船アポカリプス号。感度良好。現在、君のいる場所まで飛行中だ』
『了解。これより本格的に未到達地に潜入する。上空より援護を頼む』
『了解した。指示あるまで待機する』
そんな通信を脳内で完結させると、レオはシンシアのことを起こしに行く。
「シンシア、朝だよ。そろそろ起きて未到達地の調査に行こう?」
「ぅ、んん……」
普段目覚めのよいシンシアだが、この日はなかなか起きない。
普段のベッドとは違って、地面に直接寝ているからだろうか。
「ほら、シンシア。起きないと無理やり起こすよ?」
「……ん」
そういうと、シンシアは無言で腕をレオの方に伸ばしてくる。
その言動の意図を汲むのに、レオは数秒かかった。
「……え、俺に起こせっての?」
「ん」
「あぁぁぁ……。仕方ないなぁ」
そういって、レオはシンシアの腕を取り、抱きつくようにする。
そしてそのまま寝床から引っ張り出した。
「ほら、これでいいだろ?」
レオの顔は真っ赤である。
「うん」
一方のシンシアは何か満足げな感じであった。
二人は野営していた荷物を片づけると、地図が描かれているギリギリのところまで移動する。
「えぇと……。地図によると、この辺りに巨木があって、そこまでが大まかな地図の範囲になっているのか」
そうやって確認していると、誰の目にも見て分かるような巨木であった。
地図には樹齢1000年は超えているだろうと記されているが、確かにそれだけの年月を経ている巨木がそこにはあった。
「よし、ここから本格的に未到達地の調査だ。余計な荷物は全部ここに置いていこう」
「うん」
これからどんな状況が待ち受けているか分からない未到達地の調査だ。
もし荷物が多くて身動きが取れなかったり、鈍くなって対応が遅れたりしたら命に関わる。
そのため、この巨木を中心に未到達地の地図製作を行っていくことにするのだ。
『こちら調査船アポカリプス号。現在君の上空に待機中だ。この辺は木々が鬱蒼としていて地図製作には向いてないように思える』
『了解。上空から撮影した写真を送ってもらえるだけでいい。それだけで地図製作の役に立つ』
『了解した。これより広域の写真撮影に入る』
その時、一瞬だけ一陣の風が吹く。おそらく、近くにまで調査船は降下していたのだろう。
それからレオとシンシアはまずどの方向から調査するか話し合う。
「この辺は調査されているんだったよな?」
「そう、地図にも記載がある」
「まずはその辺の確認作業から入るか?」
「結構崖があるみたい。確認には時間がかかりそう」
「身体強化の魔法を使えば、簡単に行けるんじゃないか?」
「それはアリ。確認しに行く」
そんな会話をしているうちに、脳内のマイクロチップに画像がアップロードされる。
『これが上空5000mから撮影したものだ。画像の中心に君がいるのが確認できるだろうか?』
『少し待て……。確認した』
『我々はこの周辺でしばらく調査を行う。何かあったらまた連絡してほしい』
『了解。健闘を祈る』
そういって通信が切れる。
画像を再度確認してみると、大体5km四方の地図にようだ。
これだけあれば、直近の危険などは回避できるだろう。画像も鮮明に出来ているし、確認作業にはもってこいだ。
「それじゃあ行くか」
そういって必要な物を持って調査に向かう。
地図の中でも最新とされている部分の確認作業からだ。
先ほどの巨木から見て、その方向に、オブジェクトが存在するかを確認する。
オブジェクトには巨大な岩や山の山頂、もしくは特徴的な木々など、様々である。
半日ほど時間をかけて、それらがほぼ正確であることを確認した。
「よし、次は本格的に未到達地に足を踏み入れるか」
先ほどの確認作業と同様に、今度は未到達地方向のオブジェクトを確認する。
そして実際にそのオブジェクトまでの距離と方角を記し、今後の地図製作の基準とするのだ。
「この周辺のオブジェクトはあらかた記入し終えたから、次は奥まで入ってみるか」
そういって、レオたちは奥のほうへと入っていく。
先ほど記入を終えたオブジェクトを基準に、さらに別のオブジェクトを測定する。
こうして相互的にオブジェクト同士をつなぎ合わせて、簡単な地図を製作するのだ。
その際、調査船が撮った航空写真も参考になる。次のオブジェクトの当たりをつけることができるからである。
「じゃあ次はこっちの方かな?」
地図とにらめっこし合いながらも、どんどん地図の概略を埋めていくレオたち。
次なる目的地のために移動しているときだった。
レオが足を滑らせる。
「おっと」
もう片方の足で踏ん張りをつけて、態勢を立て直そうとした時だった。
不運なことに両足とも滑ってしまい、そのまま転んでしまう。
そして転んだときに、レオはあるものを見てしまった。
「あっ……」
そこには渓谷があった。レオの足はそこ渓谷に踏み入れてしまっているのだ。
しかしレオは滑ってしまっている。簡単には戻ることはできない。
そのまま滑って、渓谷に落ちてしまうだろう。
「うぉぉぉ!」
何とか周辺の草木につかまろうとするも、手頃なものにつかむことができない。
そのまま渓谷に落下してしまった。
「レオ!」
珍しくシンシアが慌てて、渓谷の方に顔を出す。
しかし慎重に行かなければシンシアも落ちてしまうだろう。
シンシアが慎重に渓谷を覗いてみると、そこには宙にぶら下がったようなレオの姿があった。
レオはとっさに身体強化の魔法を発動し、魔法の腕によって近くの木の幹にしがみついていたのだ。
「あっぶねぇ……」
レオは絞りだすように言う。心臓はバクバクだ。
何とか渓谷から脱出したレオは、顔面が真っ青になっていた。
「レオ、大丈夫?」
「あ、あぁ。荷物とか落としてないみたいだし、不幸中の幸いって感じだな」
レオはあくまで冷静を保っているものの、内心ヒヤヒヤしていた。
航空写真では川のように映っていたが、周辺に生えている草木のせいで、渓谷のように見えてなかったのが原因だろう。
レオは一瞬調査船のことを憎んだが、そんなことをしても意味ないと思って冷静になる。
「とりあえず、ここには渓谷があることを地図に書き込んでいかないとな」
そういってレオとシンシアは今描いている地図に渓谷の情報を書き込む。
その後の測定によって、渓谷の高さは20m以上、落ちたらまず助からない高さであることが判明した。
「あそこで落ちなかったのが奇跡だな」
そんなことをレオは呟く。シンシアもそれに同意した。
そのまま渓谷周辺の調査を行っていると、気になるものを発見する。
それは航空写真でも確認できた。
「あれ何だろう?」
それは渓谷の狭くなった所に合わせて作られた橋のような構造物である。
いたって簡素な縄と木の板で構成されている吊り橋のようだ。
「こんな所を人が通るとは思えないけど……」
この橋を通ってみたい気分でもあるが、安全性に問題がないか疑問だ。
もしこれが作られて相当の年数が立っているなら、崩壊の可能性もある。
うかつに近づくこともできない。
「とりあえず地図に書き込んでおいたほうがいいな」
そんなことを話している時だった。
「誰!」
そんな声が聞こえてくる。
二人は思わず、その声のする方向を向く。
すると、その声の主は橋の反対側にいた。
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