第12話 地図
結局シンシアが起きるまではジッとしていたレオ。
シンシアが起きた後は、今後の予定を話し合った。
「せっかく魔術学校卒業したばっかりなんだから、頑張って依頼をこなしていくべきだと思うんだ」
「それは賛成。レオの活躍する姿が見られる」
「え、俺そんな見られるような戦闘してた?」
「ううん。見とれるような戦闘してるから」
「どんな戦闘なんだろう……」
少し心配になるレオだった。
結局この日は、まだ昼過ぎであったから、何かいい依頼がないか冒険者ギルドで探すことにした。
「うーん。何かいい依頼はないかなっと」
レオは冒険者たちの最前列で依頼書をあさってみる。
しかしどれも簡単な依頼ばかりで、役不足な感じが否めない。
一方シンシアは、冒険者の群れがいる後ろの方で、依頼書を眺めていた。
「どれも初級者向けかなぁ……」
冒険者というのは、一般に分けて初級者と中級者、そして上級者がいる。
一般的に初級者というのは、学校に通っていたわけでもなく一般人が冒険者ギルドに登録した状態のことを指す。一方で中級者は学校などに通い、冒険者としての心得や戦闘技術を身に着けた上で冒険者ギルドに登録した人や、初級者でも数年以上経験を積んだ人のことを言う。
中級者でもさらに10年以上経験や戦闘を積んだ人間のことを上級者と言い、ギルドとしては重宝される人材である。
そんな依頼書、実はある法則性に則って掲示されているのだが、レオはそれに気が付かない。
そんな中で、後ろから誰かに突かれる。
シンシアだ。
「シンシア、いい感じの依頼書ないや」
「ううん。いいのあった」
そういってシンシアは人の少ない所に移動する。
「これ」
そういって差し出されたのは、未開拓地の地図製作というものだった。
「おぉ、いい感じの奴じゃん。どこからとってきたの?」
「比較的上の方に掲示されてた」
シンシアは掲示板の掲示方法について熟知していた。
掲示は上の方に行くにつれて、達成難易度が上昇する。
シンシアはそのことを知っていて、かついい感じの依頼を探すために列の後ろから依頼書を探していたのだ。
「でも結構高いところにあっただろ?どうやって取ったんだ?」
「身体強化の応用」
身体強化には魔力を物体に触れられるようにすることができる方法がある。この方法を使えば、巨大な拳を生成し、岩さえも砕くことが可能だ。
それを応用して、伸びる手を使って高い所にある依頼書を取ったのだ。
「物は使いよう。基礎があれば応用が効く」
「はえー、すっごい……」
「とりあえずこれ、受けよ?」
そういってシンシアはレオに尋ねる。
「うーん。難易度的に見ても、いい感じだと思うし、受けてもいいかな」
早速レオたちは受付に持って行って、ハンコを押してもらう。
それと同時に、最新の地図のコピーを受付の人から受け取った。
「さ、次は準備だ」
そういって、また街を駆け回る。
地図製作に必要なものを買いに回った。今回、依頼の期間が長くなることが予想されるため、野営キットなども買っておく。
こうして買い物を終えると、また宿に戻り、荷物の整理に入る。
今回向かう場所は、冒険者ギルドの北にある山間部だ。ここはまだ未開の地であり、何があるか分からない。
いっそのこと、空でも飛べたら地図製作は楽になっただろうに、とレオは思う。
(ん?空を飛ぶ?)
この時、レオの頭に、地球の調査船のことが思い浮かぶ。
この宇宙船、基本的にこの惑星の大気圏内に停泊しているから、上空からの観測にはもってこいだ。
(いやでも、どうやって言い訳する?)
それはシンシアと調査船両者に対してだった。
シンシアを調査船に乗せるのは、余計なことを教えるようで、なんとなく気が引ける。そして調査船には、私的な利用で動かすことになるから、こちらも気が引ける。
この考えは却下せざるを得ないだろう。
(いや、待てよ……。うまくやれば地図製作がはかどるかもしれない)
そう考えたレオは、早速宇宙船とコンタクトを取る。
『こちら栗林。調査船、聞こえるか?』
『こちら調査船アポカリプス号、どうかしたか?』
『現在冒険者としてこの世界の文明を調査中。それに際して、地図製作の依頼を受領した。そこで、調査船の力を借りて、地図製作に協力してほしい』
『我々にメリットはあるのか?』
『少なくとも、自分のいる国の限界地を知ることができる。それほど広い国土ではない故、未知の国家と遭遇する可能性も否定できない』
『……しばし待て』
一度通信が切れる音がした。
数分後、通信が入る。
『司令官と協議した結果、その案に乗ることにした。詳細な座標と時刻を、当日の現場にて送れ』
『了解した』
そして通信が切れる。
(うまくやれば行けるもんだな)
そうレオは思った。
直後、マイクロチップにメッセージが飛んでくる。
差出人は遠藤からだ。
『ちょっと、なかなか派手なことしてくれるじゃない。急な調査対象変更で現場は大変よ?今後はこういうことは控えて頂戴』
(少しやりすぎたかな?)
少しだけ反省したレオであった。
余談ではあるが、この日もシンシアはレオと同じベッドに入ろうとして、結局一緒に寝ることになった。
翌日。荷物を持って宿を出たレオたちは、一路目的地に向かって歩いて行った。
目的地までは、徒歩で1日半程度かかる。レオたちは荷物を持ってゆっくりと向かっているため、2日ほどはかかるだろう。
しかし、これでも収納魔法がかけられた袋を持っているため、想定よりは少ない。
途中モンスターと遭遇しながらも、二人は疲れない程度に歩いていた。
道中、休憩をはさみつつ、目的地に向かう。目的地までにはいくつか村を経由していく。
その村で、いくつかの交流をはさみながら、二人はどんどん歩いていく。
やがて道は狭くなり、周りも森に近い林になっていった。
「ここまで来ると、歩いているだけでも結構大変だな」
レオは文句を言うように歩みを進める。
しかしシンシアは何も言わない。文句の一つも言わずに進むシンシアを見て、レオは関心する。
「シンシアはすごいな。何も言わずただ黙々と歩けるなんて。僕なんて小言を挟んでいないと気が滅入りそうだよ」
「そんなことはない。それは人それぞれ。私は無言で集中するタイプだから」
「そうなんだ」
そんな変な会話を挟みつつも、レオたちは林の奥へと進んでいく。
そして中継ポイントとなる小川へと出た。
「確か……、この辺から未到達地になるから今日は周辺の地図を埋めて野営にしよう」
「うん」
地図製作とは言っても、この世界の物は非常にお粗末である。
とにかく目に止まったオブジェクト――この場合木や岩や川など――を大まかな距離と方角の位置関係を紙に書き込んでいく。そしてその情報を持ち帰り、国が本格的な調査を行うと言うものだ。
なので、まずは未到達地直前であるこの場所をどんどん紙に記していく。
それを夜など動けない時間に、複製した地図に書き込んでいくのだ。
「とりあえず今日はこの辺までかな」
日が暮れる前に野営周辺の地図を書き込んだレオたちは、キャンプの中に入る。
そして小さなランプの火をもとに、定規やコンパスを使って地図に書き込んでいく。
「しっかし地図製作って面倒だな。もっと楽にできないものかな」
思わずレオが愚痴をこぼす。
それをシンシアが拾う。
「方法がないわけではない」
「おっ、何か考えがあると?」
「空から眺めるのが一番」
「……へぇ」
柔軟な発想をしているとレオは思う。
「空から見れば、どこに何があるか一発で分かる。それを地図に落とし込めば簡単にできる」
「なるほどねぇ、さすがは成績上位のシンシアだ」
なんとなくレオははぐらかす。
考えは現代にも通じるからだ。
「でもやっぱり、現地を歩かない限りは難しいと思う」
「そっかぁ……」
そういってひとまず地図の作成は終了する。
明日からは本格的に地図製作に入るのだ。
「とりあえず今日は寝ようか」
「うん」
そういってシンシアはナチュラルにレオの寝床に入ってくる。
「ちょっとシンシアさん。何してるんすか?」
「寝床、一つしかないから」
「買ってきてないの?」
「わざと」
レオは、してやられたという顔をする。
「そっかぁ。買ってきてないのかぁ……」
「お金の節約、大事」
「うん、大事だよね、節約」
レオは無理やり納得しようとする。
「でも、年頃の男女が同じ寝床に入るのはいかがなものかと思うんだけど」
「?宿の時はいつも同じベッドで寝てるのに?」
「うぐっ……」
これはかなり効いたようで、レオも諦める。
「シンシアさん、何もしないでね……」
シンシアは頭にクエスチョンマークをつけたような顔をする。
そしてランプの火は消された。こうして夜は更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます