第11話 達成

「……確かにオオアカグマだ。きちんと討伐されているのは確認しました」

「ありがとうございます。では、依頼書の依頼完了欄にサインをお願いします」

「わかっとりますよ」


 それから、レオたちは、オオアカグマが討伐されたことを示すために、依頼者である村長にオオアカグマの死骸を見せていた。

 わざわざ村の近くにまでオオアカグマを運び、仕事をしたことを示すために死骸を見せる。

 それを確認した村長は、依頼完了欄に、自身のサインをするのであった。


「はい、ありがとうございます。ところで、死骸の方はどうしますか?」

「こちらで解体して熊肉を食べますよ。こう見えてオオアカグマの肉は美味でしてな」

「なるほど、そうですか。ではこちらで処理しなくていいですね?」

「はい」

「では僕たちはここで冒険者ギルドに戻ります」

「あぁ、その前に、一緒に宴でもどうですか?」

「宴ですか?」

「今日は厄介者であるオオアカグマも狩ることが出来たんですし、せっかくですから」

「そうしたいのは山々なんですが、こちらも依頼書の受領印を早く押してもらわないと行けないもので……」

「そうですか……。急ぎの用事があるなら仕方ないですな。ではここでお別れですね」

「はい。では、依頼は無事達成されましたので、僕たちはここで失礼します」

「ありがとうございました」


 そういって、レオたちはその村を離れる。

 その道中、シンシアが聞いてきた。


「レオ、宴に参加しなくてよかったの?」

「ん?あぁ、ああいうのはたいてい面倒ごとに巻き込まれやすいからな」

「そうかな?私はそう思わないけど」

「まぁどっちにしろ、依頼達成したら、そのまますぐに去るのが一番だよ」

「それじゃあなんか依頼者に対して失礼な気がする」

「そうかなぁ?どちらにせよ、今はすごく休みたい気分だよ」

「なら宴に参加してもよかった気がする」

「宴は宴で疲れるからヤダ」

「レオは文句ばかり、失礼な奴」

「むっ、そんなことはないぞ」


 そんなことを駄弁りつつ、レオたちは冒険者ギルドのある街へと戻っていった。

 冒険者ギルドに到着すると、真っ先にレオは受付へと向かう。


「すみません、依頼達成したので受理お願いします」

「はい。ただいま」


 そういって受付の人は依頼書を受け取り、細部まで確認する。


「はい、確認出来ました。以上で依頼は達成となります。ご苦労さまでした」


 そういって受付の人は受領印を押す。

 これで、二人は初めての依頼を達成したことになる。

 二人は依頼達成の証拠に、金品を受け取った。


「しかし、本当に魔術師二人で依頼達成できるんですね」

「え?」

「いえ、純粋に疑問に思っただけです。深い意味はないんですけど」

「彼が前衛をしてくれるおかげでなんとかなりました」

「魔術師なのに前衛を!?」

「こ、声が大きいです!」

「あ、失礼しました……。しかし前衛もこなせるなんて珍しいですね」

「そうですか?意外と魔術学校ではこうしてやっていることが多かったですから」

「へぇ、そうだったんですか。先進的ですね」

「そ、そうですか?」

「魔術師と武道家を兼任できるのは珍しいので、アリだと思いますよ」

「それはどうも」

「そろそろ後ろの方が多くなってきましたので、業務はここまでとさせていただきます」

「あ、はい」

「またのご利用、お待ちしています」


 そういってレオたちは受付を離れる。


「この後どうしよっか?」

「……お腹すいた」


 そういって、シンシアは腹に手をやる。


「あぁ、そうだよな。村出たときからなにも食べてないし、腹減るよな」


 シンシアの目線の先には、冒険者ギルドに併設されている大衆食堂があった。


「……よし、飯にするか!」


 そういって、レオが率先して食堂に入る。

 食堂は混雑していて、従業員がひっきりなしに店内を駆け回っていた。

 カウンターで空いた席を見つけると、そこに横並びで二人は座る。


「いらっしゃいませ!ご注文をどうぞ!」


 そこに目をつけた従業員がいの一番にやってきた。

 レオはメニュー表を広げ、何があるか確認する。


「えーと……。じゃあ、豚の角焼きください。あとエールをジョッキで」

「私もそれで」


 そういって、レオは少額のチップを従業員に渡す。


「ありがとうございまーす!」


 そういって従業員は料理を厨房に伝えに行く。


「なんかこういう所初めてだな」


 レオがそう呟く。


「なんというか、そこかしこで盛り上がっていて、雰囲気はいい感じだな」

「レオはこういう所が好きなの?」

「好きっていうか、落ち着くっていうか……」

「……だったらさっきの村の宴の件、受ければよかったのに」

「あぁいうのとはまた少し違うんだよなぁ。なんて言えばいいのか……」

「私は、レオと一緒にいれば、なんでも楽しいけど」

「え?」


 思わぬ告白に、レオはシンシアのことを見る。

 一方のシンシアは、自分の帽子を深くかぶり、その様子を見せないようにしていた。


「お待たせしました!豚の角焼きとエールです!」


 空気を読まない従業員が食事を運んでくる。

 料理が目の前に出されると、レオは少しためらいながらも口をつけた。

 柔らかく煮込まれた豚の肉が、ホロホロと口の中でほぐれていく。

 しばらくは料理に舌鼓を打っていた。

 しかし、そこに会話はない。

 先ほどのシンシアの一言である。その真意について、レオはずっと考えていた。


(もしかすると、シンシアは僕のことを……?)


 そんな邪なことを考えてしまう。

 しかしさっきの発言はそれに類する発言であったことには間違いないだろう。

 だがその真意を聞くことは出来なかった。この変はヘタレと言わざるを得ないだろう。

 食事を終えた二人は、そのまま宿へと直行した。

 この日はもう休むことにしたのだ。


「僕はもう疲れたから、先に寝るよ」


 そういってレオはベッドに入る。

 シンシアは静かに頷くだけだった。

 そのままレオは入眠する。相当疲れていたのだろう。少し体の節々が痛むのを忘れ、ぐっすりと眠りこんでしまった。

 その時であった。

 レオの脳内に何かが映りこんでくる。

 その姿に、レオは見覚えがあった。


「確か……、遠藤ノノさんでしたっけ?」

『あら、覚えてくれてうれしいわ』

「それで、寝込みを襲ってまで来た理由はなんですか?」

『ただの現状報告よ。最近は栗林からのファイルアップロードがないものだから、革命軍の連中は少し不振がっているわ。なるべく私たちのことを悟られないようにして頂戴』

「あぁ、分かりました。ここ最近あったことをまとめて報告しておきます」

『それでいいわ。それと、少し話すことがあるの』

「何でしょう?」

『これから革命軍と対立するのよ。少し仲間が乏しいんじゃないかしら』

「仕方ないじゃないですか。まだ駆け出しの冒険者なんですから」

『異世界の生活を楽しむのもいいけど、本当の目的を忘れないようにね。私たちの本当の目的は、革命軍による惑星入植計画を断念させることなんだから』

「はいはい。分かってますよ」

『それじゃあ、よろしくね』


 そういって声は遠のいていく。

 そしてレオは目覚める。どうやら体の節々は治っているようだった。


(シンシアが魔法をかけてくれたのかな?)


 そう思って起き上がろうとした時だった。

 腕に重さを感じる。レオがそっちを見ると、なんとそこにはシンシアが腕を組んで寝ていたのだった。


「っ!」


 思わず声に出そうになったが、こらえることに成功する。


(なんでシンシアが横で寝ているんだ!?)


 そういえば先日も一緒のベッドで寝たことをレオは思い出す。何か寝る時に執着しているようにも見える。

 レオはシンシアを起こさないように、そっと腕をどけようとする。

 しかし、それを拒むように、シンシアの腕はきつくなった。


「どうしよう……」


 これでは、シンシアが起きるまで何も出来ない。

 しかし、女の子に積極的に迫られるのも悪くない。レオは仕方なく、このまま過ごすことにした。

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