第10話 依頼

 翌朝。寝ることに成功したレオは、すっきりとした表情で起き上がる。


「うぅん……。何とかなった……」


 このように、女の子と一緒に寝るなんて、幼いころマリと一緒に寝ていた時以来であるからだ。

 その時に比べれば、体つきや知識もまったく別物になっている。


「とりあえず準備をして……」


 ベッドから起き上がったレオは、そのまま荷物の整理に入る。


「ん……」

「あ、シンシア。おはよう」

「うん……、おはよ」


 そういってシンシアも起き上がる。

 そして準備を済ませた二人はそのまま宿を出た。

 そのまま依頼をこなすことにする。


「オオアカグマの討伐依頼はここから南に10キロの所だったな」

「そう、歩いても結構かかる」

「でも僕たち馬車とか持ってないからなぁ」

「それは仕方ない。歩いていくしかない」

「だよね」


 そういって、二人は街を出て、徒歩で目的地まで行くことにした。

 道中、特に何か起きるというわけではなかった。

 たまに弱いモンスターが道を塞いでくることもあったが、さすがは魔術師の二人。いとも簡単に撃破することに成功する。

 そして数時間後、目的の場所に到着する。

 そこには村があった。早速レオたちは依頼人を探すことにする。

 依頼人は村長であった。


「すいません」

「おや、どちらさまかな?」

「僕たち冒険者です。依頼の件でやってきました」

「おぉ。それは遠路はるばる……。どうぞ中に入ってくだせぇ」


 そういって村長は家の中に案内する。


「失礼します」


 質素ながら、村長としての威厳を保つために、装飾品がいくつか置いてある。

 そんな部屋の中央にあるソファに座ると、村長は早速切り出してくる。


「オオアカグマの被害にあったのは、つい先月のことです。朝の農作業をしようとしていた所、畑にオオアカグマの親子がいたんです」

「親子ですか……」

「はい。オオアカグマに限らず、熊というのは、親子でいると殺気立っているというのは常識です。そのため、村人に被害が出ないように、畑の一部を封鎖したのです。そのままオオアカグマは森の方へと去っていきましたが、それでもいつまた畑に戻ってくるかも分からない。それに村人のことを襲うようになったら、それこそ一大事です。だからお願いです。オオアカグマを狩っていただけませんか?」


 村長からの切実な願い。それを無碍にすることはできない。


「もちろんです。僕たちが何とかしましょう」

「あぁ、ありがとうございます。オオアカグマを見た村人を紹介しましょう。詳しい話は彼から聞いてください」


 そういって、オオアカグマを目撃した男性の家を訪れることにした。


「おぉ、冒険者の方ですか。どうぞお入りください」


 そういって家の中に通される。


「早速ですが、オオアカグマのことについて教えていただけませんか?」

「詳細は村長の方から聞いたでしょうし、オオアカグマが逃げていった方向を教えましょう。オオアカグマは森のある西側からやってきました。そこにある畑を荒らしていった後、同じ方角へと戻っていったのです。おそらく、西側にある森に、オオアカグマの寝床があるに違いありません」

「なるほど。とりあえず、現地に向かってみてもいいですか?」

「もちろん、案内しますよ」


 そういってレオたちは、畑のある所まで案内される。そこから、オオアカグマの出現した場所、そして逃げていった方向を教えてもらう。


「……こんな所ですかね」

「なるほど、大体分かりました。それでは、これから仕事に入ります」

「どうぞよろしくお願いします」


 そういって男性は去っていく。


「さて、これからオオアカグマの討伐に入るわけだけども、シンシアは大丈夫か?」

「まったく問題ない」

「よし、それじゃあ行くか」


 そういって二人は森の中へと入っていく。

 森の中は鬱蒼としており、気を付けて歩かないとすぐに迷子になりそうだ。

 レオはマイクロチップの距離測定機能を使って、森に入って歩いた場所と距離を記録していく。これで帰りは問題なく帰ることができるだろう。

 すると、二人はあるものを見つける。


「これは……」


 それは、表皮がはがれた木である。そのはがれ方も、何か引っ掻いたような跡だ。


「これ、オオアカグマが木に登って木の実を食べた痕跡」


 そうシンシアが解説する。


「となると、この辺にオオアカグマがいるってわけか」


 レオは気を引き締める。もしかしたら、この辺りにオオアカグマがいる可能性があるからだ。

 オオアカグマは獰猛な生き物だ。ろくな装備なしに出会ってしまったら、まず助かることは少ない。

 それでも対処方法はいくつかある。それは基本的な熊の対処法と変わらない。

 しかし獰猛故に、オオアカグマはなんでも飛びついてくる。それが危険なのだ。


「よし、ここからは慎重に進んでいこう」


 レオは痕跡一つ逃さないように、集中して森の中を進んでいく。

 途中獣道を発見したり、オオアカグマの糞と思われるものを発見したりと、少しずつオオアカグマに近づいていく。

 そして発見した。

 オオアカグマは遠くから見ても分かるように、全身が赤い毛によって覆われている。

 自分自身が赤くなることで、警戒色となり、周辺に動物を近寄らせないという研究もされている程だ。この辺はレオが図書館で読んだ本に書いてあった。

 レオたちは、静かにオオアカグマに接近する。

 そして、レオは詠唱を開始する。


「風の精霊よ、今こそ害獣の息の根を止めよ。ウィングスピア」


 そういうと、杖の先端から空気の槍が生成され、それがオオアカグマの巨体に命中する。

 しかしオオアカグマは分厚い毛によって覆われている。簡単な魔法程度では攻撃を貫通させることは困難である。

 そして攻撃されて初めてレオたちのことに気が付いたのか、オオアカグマは咆哮を上げる。


「うわヤバッ」

「レオ、今こそ身体強化の使いどころ」

「え、あそこに突っ込めっていうの!?」

「うん」


 レオは少し考えた。しかしその余裕すらもオオアカグマは与えてくれない。

 オオアカグマはレオたちに向かって突進してきた。

 レオは思い切って決断する。


「マナよ、その力を我に与えんとす!」


 そうして自分自身に身体強化の魔法をかけると、そのまま杖を使ってぶん殴りに行く。


「おりゃあ!」


 レオの殴りに合わせるように、オオアカグマも前足を使って振りかかる。

 そして衝突した。

 身体強化のおかげで、レオの持っているものにはバフがかかっている。そのため、全力でぶん殴っても、杖が折れる心配はない。

 そして衝突する。その瞬間弾かれた。

 それもそうだろう。お互い勢いよく殴りにかかっているのだ。弾かれもするだろう。

 そうしてレオが距離を取ったときである。


「大地の精霊よ、今こそ力を示し、敵を打ち砕かんとせん。ストーンハンマー!」


 そういうと、地面が盛り上がり、そしてトラばさみのようにオオアカグマをはさんでしまう。

 その衝撃たるや、オオアカグマを数秒だけ脳震盪させることに成功する。

 レオはこの瞬間を逃さなかった。


「うぉぉぉ!」


 マイクロチップから、筋肉の各組織に、リミッターを外すように指示を出す。

 これにより、身体強化の魔法と合わさって、とんでもない力が発揮される。


「風の精霊よ!この手に力を宿し、万物を貫かんとせん!エアーランス!」


 手に空気の槍を纏わせ、そのままオオアカグマの胴体を貫く。

 そのスピードは、音速近くにまで加速していた。その勢いをもって、レオはオオアカグマの体を貫くことに成功する。

 さらにラッキーなことに、レオの突いた場所はオオアカグマの心臓であった。一緒に心臓を破壊することで、オオアカグマはその生命活動を停止した。

 そして、その巨体は地面に落ちる。


「……ナイス、レオ」


 そういってシンシアはレオのことを称える。

 レオは身体強化の魔法を解くと、そのまま地面に伏せるように倒れた。


「い、いてぇ……」


 体のリミッターを外したことで、全身が痛みに襲われる。そこをシンシアが魔法で治癒してくれる。

 これにより、オオアカグマ討伐の依頼は完了した。かのように見えた。

 しかしそこに、オオアカグマの子供が近寄ってくる。


「あぁ、どうしよう。子供まで討伐対象に入ってなかったよな?」

「このまま放置しては、また被害が増えることになる。今ここでとどめを刺す」

「シンシア、時々冷酷になるよね」

「これは当然の判断。違う?」

「いや、違わないかもしれないけど……」


 そういうと、シンシアはそのままオオアカグマの子供に一撃を加える。

 こうして、実質的に依頼は達成されたのだ。

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