第9話 卒業
この日は卒業式典があった。
「諸君、卒業おめでとう。これをもって、無事に魔術学校を卒業したことを認める。これから君たちは晴れて冒険者となり、そして世界へと羽ばたいていくことだろう。冒険に困難はつきものだ。しかし君たちにはそれを乗り越える程の力がある。ぜひ頑張ってもらいたい。以上だ」
担任のエル・リードルからの言葉であった。
これでレオは晴れて冒険者となれる。
「いやはや。色々あったけど、学校卒業出来てよかったぁ」
そういって、レオは学校の正門で大きく伸びをする。
色々あったと言えば、昨日のことが思い出される。
「僕は俺じゃなかったんだなぁ」
まさに衝撃の事実とも言えるだろう。
まさか自分の記憶が作られていて、そして利用されていたなど、地球の知識がなければ与太話にされていたはずだ。
「まぁ、このマイクロチップは存分に使わせてもらうがな」
そういって、レオは不敵に笑った。
そんなレオのもとにやってくる少女の姿が一人。
「レオー!」
「マリ。そっちも卒業できた?」
「うん。おかげ様でね」
「どこに配属になったんだっけ?」
「王立騎士団の衛兵だよ。これでも頑張ったほうなんだから」
「そっか。……少し離ればなれになるね」
「そうだね。でも大丈夫だよ。レオは冒険者になったんだし、いつでも会いに来れるよ」
「……そうだな。それもそっか」
そういって二人は笑う。
「それじゃ、そろそろ王宮行きの馬車が出るから行くよ」
「うん。またどこかで」
「じゃあね!」
そういってマリは、また走って行った。
別れの時。少しさみしくなるのは、偽の記憶でも一緒のようだ。
「レオ」
「おわっ!」
急に現れたシンシアに、レオは思わず驚いた。
「シンシアか。驚かさないでくれよ」
「勝手に驚いたのはそっち」
この学校生活で、シンシアともかなり打ち解けたレオ。
「これからどうするの?」
「ん?そうだなぁ……。とりあえず冒険者ギルドに行ってみるか」
「私も行く」
「それはいいけど、他の職業の冒険者と仲良くできるのか?」
「それは大丈夫。考えがある」
「ふーん。それならいいんだけど」
そういって、レオたちは冒険者ギルドに向かう。
レオたちは街を出た。冒険者ギルドは隣街にあり、そことの馬車が往来している。
馬車に乗っている間、レオはシンシアに話をする。
「冒険者ギルドってどんな場所なんだろうな?」
「教書で習ったの忘れたの?」
「覚えているさ。その上でどんな場所か気になるからさ」
「変な所に興味持つの、レオらしい」
「そうか?俺はシンシアがどんな冒険者と組むのか気になるけどな」
「私の場合、もう組む相手は決まってる」
「へぇ、意外。誰と組むんだ?僕の知ってる人?」
「レオ」
「はい?」
「レオと組む」
「えぇ!」
思わず大声を出してしまうレオ。
「レオ、周りの迷惑」
「いや、え?俺と組むの?」
「そう。ダメ?」
「いや、ダメとかじゃなくて、お互い魔術師なんだから相性悪いでしょ」
「でも、レオって血の気が多い時があるから」
「え、何?近接戦闘役なの?」
「そう。自分に身体強化の魔法かけて戦ってるのがその証左」
「えぇ……」
レオは思わず肩を落とした。
馬車で半日程乗っていると、隣街に到着する。
そこにある冒険者ギルドは盛況していた。
「おぉ、さすが国で一番の冒険者ギルドだ。盛り上がってるねぇ」
しかし、シンシアはそんなこと気にも留めずに、冒険者ギルドの中に入っていく。
「もうちょっと風情というものを感じようや、シンシアさん」
それにつられるように、レオも中に入っていく。
そのまま受付へと流れていった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。見ない顔ですね」
「僕たち、さっき魔術学校を卒業したばかりなんですよ」
「そうなんですか!おめでとうございます!」
そういって受付の人は二人に祝福する。
「では冒険者ギルドに登録から始めましょうか。卒業時にもらった証明カードはお持ちですか?」
「はい」
そういって二人は卒業証明カードを差し出す。
「ではこれを使って冒険者カードを作りますので、少々お待ちください」
そういって受付の人は奥へと消えていく。
その間、レオは疑問に思っていたことをシンシアに聞く。
「ねぇ、僕と組むって本気?」
「本気」
「さっきも言ったかもしれないけどバランス悪いよね?」
「大丈夫。レオは前衛で、私が後衛になれば、バランスばっちり」
(何がバランスばっちりなんだ……)
シンシアにツッコミたい気持ちを抑え、どうにかしようと説得する。
「なぁシンシア。このままじゃ僕たち変な二人組だと思われたまま過ごすことになっちゃうよ?」
「それでも構わない」
「僕が問題なんだけど?」
「大丈夫。何とかなる」
こう見えて、シンシアは変なところで自信家のようだ。
受付の人が戻ってくるまでシンシアのことを説得するレオだったが、結局それは叶わぬことだった。
「はい。冒険者カードが出来ました。……なんか疲れてません?」
「いえ、大丈夫です……」
「それではパーティを組めましたら、またお声をかけてください」
「それは大丈夫です」
「というと、もう組む冒険者さんがいるってことですか?」
「はい」
シンシアは迷うことなく、受付の人に言う。
「シンシア、マジでやるの……?」
「うん」
「あの、どういうことでしょう?」
「私、この人と組みます」
そういってシンシアはレオのことを指さす。
「え!?」
受付の人の反応も分かりきったものだった。
「ダメですか?」
「いや、ダメってことはないですけど……。バランス悪くないですか?」
「ほら、受付の人もそう言ってるよ?」
「大丈夫です。何とかなります」
「そ、それでしたらパーティ結成の書類にサインを……」
そういって受付の人は書面を提示する。
シンシアは迷うことなく、その書面にサインをした。
そしてレオの方を向き、疑いのない目で見る。
「はぁ、分かったよ」
そういってレオは書面にサインをした。
「はい。これで正式にパーティ結成です。おめでとうございます」
受付の人はどんなテンションで言えばいいのか分からず、微妙な感じで祝福を言う。
そのまま二人は依頼ボードの前に移動する。
さすがは国で一番栄えている冒険者ギルドだけあって、依頼ボードも大きい。
「さて、まずどれから依頼を受けていこうか……」
レオは依頼ボードを前にして悩む。
そんな中、シンシアがある依頼書を持ってくる。
「これ」
「これ?えーと、オオアカグマの討伐依頼?」
そういってシンシアは頷く。
「オオアカグマかぁ。適性としては問題ないとは思うけど……」
「大丈夫、今の私たちなら行ける」
自信家としてのシンシアの言葉である。
それを無碍にはできないだろう。
「よし、じゃあこれを受けるか」
そういうと、シンシアはコクンと頷いた。
さっきの受付の人に持っていく。
「あ、さっきの……。何か良い依頼でも見つけましたか?」
「はい。これを」
「オオアカグマの討伐ですね。難易度としては問題ないとは思いますが、一応気を付けて依頼をこなしてください」
「はい」
「では受理しました」
そういって、ハンコを押す。
そのまま冒険者ギルドを出る。
「さて、まずは下準備と行きますか」
そういって、二人は街を歩き回る。
今回討伐依頼が出ている場所を知るために地図を用意したり、地図で確認した場所から推定される日程を組み、それに合わせた食料を買い込む。
こうして日が暮れるまで準備をした二人。
この日は宿を取って休憩する。
「それじゃあ明日は出発だな」
「うん」
「それじゃあ、俺は床で寝るから」
「……ダメ」
「……なんで?」
「それじゃあ万全な準備が出来ない」
「いや、ベッドはシンシアが使うし」
「一緒に寝ればいい」
「いやいや、ダメでしょ」
「……?どうして?」
シンシアの質問。正直言ってダメな理由は言えるが言えない。
そのまま無言の圧力を食らう。
「……分かったから!ベッドで寝るから!それでいいだろ?」
「うん」
そういって二人は一緒のベッドに入って寝る。
シンシアはあっさり寝たようだが、レオはそうはいかない。
(うぅ、意識して寝れん!)
とにかく目をつむり、どうにかして寝ようとするレオであった。
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