第2話 仲間の輪

「その昔、とある国が滅びようとしていた。国土は焼かれ、歴史は失われていく。そんな絶望の中、追い詰められた人々が生み出したのがあやつ・・・・破壊器、じゃ」

 神妙な顔をして話を聞く四人。リンちゃんは一つ一つ、思い出すように語っていく。

 ここは曙光都市エルジオン、天空に建つ鉄と石の城。その一区画、シータ地区の一室はアルドたち一行にとってはなじみ深い場所だった。肝心の部屋の主はいかにも、『面倒くさい』という顔をしていたが。

「はぁ、あなた達、また面倒ごとを持ってきてくれたみたいね」

「うっ・・・・ごめんセバスちゃん」

「セバスちゃんだけが頼りなの!お願い!」

 顔に出ていた不快感を言葉にも表した、ピンク髪の小柄な少女。こう見えてKMS社会長の孫であり、自身も天才技術者のセバスちゃん。アルド達は彼女に何度も助けられてきた。

「で、今回も頼り切りってわけ?」

「お願い!今度お礼するから!」

「・・・・そのしゃべる輪っかに教えてもらえばいいんじゃないの」

 そう言ってリンちゃんを睨む視線は冷ややかだ。

 二ルヴァからなんとかエルジオンに戻ってきた4人は、リンちゃんをここまで連れてきたのはいいのだが、彼女もいくつか問題を抱えていた。

 彼女曰く、あれは破壊器と呼ばれる兵器らしく、あらゆるものを破壊しつくすために造られたという。ただ、彼女が持っていたのは漠然としたイメージだけで、これまで何を自分がしていたのかは覚えていないようだった。彼女自身が一体何者なのか、なぜ破壊器と一緒にいたのかは分からないということだ。

 そこで本来の目的の通り、セバスちゃんに破壊器の破片の分析を頼むことにしたのだった。

「頼まれたからにはやったわよ。エイミ、今度奢ってもらうからね」

 そう言って薄型のタブレットを指でなぞる。

「とは言っても、分析なんてするまでもなかったかもね。これ、博物館の展示品でしょ?イージアの物よ。パンフレットにも書かれていたわよ」

「そうなのか?なにか特別な素材が使われているとか・・・・」

「無いわね。どうやらとある大富豪が倉の中から出てきたものを博物館に売り渡したみたいよ」

『む!あれを売り渡すとはどうなっとるんじゃこの時代は!封印の伝承はいったいどうなっとるんじゃ!』

「さっきから言ってるその封印って何なのよ・・・・」

 セバスちゃんの質問にリンちゃんが応える。

『まず、破壊器がかつて健在だったころ、あやつは破壊の限りを尽くしたのだが、なぜかある日突然に動かなくなっての・・・・その時の封印が今日まで続いていたのだが・・・・』

「・・・・それ、封印じゃなくて電池切れなんじゃないの?」

「いや、大昔の兵器だって言ってたじゃない・・・・」

 セバスちゃんの未来人的考えに突っ込むエイミ。

 ぴりりり、と呼び出し音が鳴りセバスちゃんが着信に出る。「ええ・・・・うん・・・・えっ?」と返答し、若干表情をこわばらせて通信を切った。

「あなた達の破壊器、だったかしら。見つかったわよ」

「え?本当か!」

『あやつはどこにいるのじゃ!?』

「それなんだけど・・・・どうやらエルジオン付近の浮島の一つを何かが爆破、したみたい。今その報告が来たわ」

 リンちゃんが呻くように言った。

「ああ、始まった・・・・あやつの破壊が再び・・・・」

「本当なのかセバスちゃん!」

「ええ・・・・以前、レオが浮島の一つを破壊したことがあったでしょ。あの時の一件があるから、司政官もKMSまで問い合わせてきたみたい。でも・・・・今回は少人数だけど人の住んでいる居住区画よ。KMSも何もわからなくて私のところまで連絡してきたってわけね」

「確かに!ワタシの高性能GPSによると、浮島の一つがタシカに消失しているようデス」

 ツインテールをぐるぐる回転させながら、少し外れた調子の機械音で分析の結果を言うリィカ。

「今回は島全体に被害が出る前に住民が避難したから良かったけど、もうCOAも動いているでしょうね。二ルヴァでの件もニュースになってたし」

「そんな・・・・俺たちも何かできることはないのか?」

 セバスちゃんが今度はアルドを睨む。

「あなた、本当にお人好しなのね」

「残念ながらこれがアルドでござる。それにあれと剣を交えたものとしては放ってはおけんでござる」

 サイラスに続いてリィカとエイミも頷く。どのみち、エルジオンに危機が迫っていることは変わりがない。

「セバスちゃん、破壊器の現在位置はわからないの?」

「それがわかったら苦労しないわね。高速で飛行して消えてったみたいよ」

 その情報はエルジオン中の求めるところだろう。しかしエルジオンの政府機関が見つけられないということは天才セバスちゃんにもどうしようもなかった。

「全く!普段のあなた達なら時空を超えてはい、解決!ってところなのに、お手上げね」

「セバスちゃん・・・・その言い方だといささか語弊があるでござるよ・・・・」

 完全に他人目線のセバスちゃん。しかし、時空を超える冒険者はその言葉にはっとする。

「そうだわ!封印ってのが解かれたからなら、それをもう一度かけなおせばいいのよ!」

「そうか!時空を超えて封印した本人を連れてくればいいのか!」

「いい考えでござるなエイミ!」

「・・・・それでその封印した張本人がいつの時代にどこにいたのか分かってるの?」

 的確なところを突かれて何も言えなくなる4人。セバスちゃんはそんな中、リンちゃんの方に向き直った。

「この記憶喪失リングは結局何なのかもわかんないしね。正直なとこ、これがその破壊器ってやつの元凶な気もするし」

『なっっっ!わしを疑うのか!?』

「でもずいぶんと破壊器について詳しい割には自分がいつの時代にいたのかもわかってないみたいじゃない」

『う・・・・』

 黙り込んだ後、絞り出すように話す。

『覚えているのは・・・・あやつが生まれたところじゃ。燃える町、逃げる人・・・・その憎しみの中でわしは・・・・』

「リンちゃん・・・・」

「・・・・ま、いつの時代のものかは大体の予想がつけれたわ。AD300年の東方からの遺物と同じような構造だったから」

 AD300年、アルドの故郷バルオキーやミグランス王朝が存在する時代。このエルジオンのある時代からは800年前だ。

「ということは・・・・巳の国や辰の国か。そこに行けばリンちゃんの記憶も戻るかもしれないな」

 四人は過去へ、東方ガルレア大陸へと向かうこととなる。


※※※


 部屋を出る直前のこと。

「ねぇ、ちょっとリィカ・・・・」

「ン?なんデスカ、セバスちゃん」

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