第3話 出会いの輪

『おおお!なんじゃああの城は!まっこと見事ではないか?』

「すごいはしゃぎようだな・・・・」

 アルドたちがいるのは巳の国、その港町イザナである。新鮮な海鮮が毎日水揚げされ、またこの国の主がの居城があるということもあって、東方でも一二を争う大都市になっていた。

 崖の上にそびえたつクロサギ城を見上げてはしゃぐリンちゃんだが、街中で謎のリングが飛び回ることとなり若干注目を集めていた。

「ちょっと!あんまり目立たないでよ!ただでさえ変な恰好なのに余計目立つじゃないの」

『エイミ、いじわるじゃの・・・・わしは数百年ぶりの浮世を満喫中なのじゃ』

「そんなこと言って飛び回らないの!ほら見られてるから!!」

『ああ、何をするのじゃーっ』

 ばしっと虫をキャッチするような要領でリンちゃんを捕まえてコートの内側に押し込むエイミ。騒ぐ二人を三人は慌てて追いかけた。


※※※


 アルドたちが訪れたのはイザナの酒場、その奥にいるのは東方一の情報通だ。これまでも八妖と呼ばれる魔物の情報をアルドに提供したりと、奇妙な縁があった。

「・・・・という訳なんだ。あんたは何か知らないか?」

「うーむ、破壊器、ねぇ。兄ちゃんには悪いがそんな名前聞いたこともねぇなあ」

「そうか・・・・」

 この男なら魔物のことに関しては一番だろうと考えたのだが、あてがはずれてしまった。

「せめてなにか噂ぐらいは知らないでござるか?この通りでござる」

「うおっ!しっとりした顔を近づけるなぁ!・・・・その破壊器ってのが兵器なんだとしたら、あるとしたら怨丹ヶ原だろうな。呂の国と辰・巳連合国の戦争は記憶に新しいからなぁ」

「怨丹ヶ原か・・・・」


※※※


 そこは美しい景観の多い東方でも、ひときわ浮いた土地であった。崩れ落ちた建物にぼうぼうと生い茂った背の高い草は、ここにかつて一つの国があったなどということを消し去ろうとしているようにも見える。怨丹ヶ原、いまや妖魔が跋扈するそこは強い死の香りがする。

「さて、怨丹ヶ原までやってきたけど、これからどうしようか」

「ここにハ何度も訪れていマスが、徒歩デノ捜索は、イササカ・インポッシブル、デス!」

 不意に、先ほどから黙りこくっていたリンちゃんが静かに言葉を発した。

『ここは・・・・怨丹ヶ原・・・・そのような名前ではなかったはずじゃ・・・・ここには、わしらの故郷があった』

「リンちゃん、記憶が戻ったのか!?」

『思い・・・・出せぬ・・・・じゃがここで、確かにわしは・・・・』

 リンちゃんは静かにアルドの手の中に納まった。

『すまぬ、アルド。少し疲れたのじゃ・・・・』

「リンちゃん大丈夫か!?」

「記憶が戻りかけているのが負担になっているんじゃないの?」

「それじゃあ、一度イザナに戻って・・・・」

 その時、辺りに轟音が響き渡る。奇妙な、形容しがたい、しかし4人にはそれがなにか一瞬で理解できた。

「・・・・!アルド!この音は!」

「ああ!間違いない!」

二ルヴァでも聞いた、破壊器の発する音。

「でも、リンちゃんが・・・・」

『よい!エイミ!わしのことは・・・・やつは存在するだけで脅威となる・・・・今すぐ向かわねば!』

 リンちゃんの強い意志に押されて4人は音のなる方に駆け出した。


※※※


「ひ、ひぃ、なんなのよぉ・・・・」

 アルドたちが駆け付けると、向こうに山菜でも摘みに来たのだろうか、外出の格好をした町娘が腰を抜かして倒れていた。

『・・・・・・ッッッッッッ!!』

 彼女の傍に佇んでいるのは、間違えようもない。体を構成するパーツが真新しいことを除けばほとんど未来のでの姿と変わらない。剣でできた竜、破壊器がそこにいた。

 破壊器はしばらくの間、彼女のことを吟味するようにそこにいたが、突如大口を開けて襲い掛かろうとする。

「きゃあああああっ!」

 アルドたちからの距離は、とても間に合うものではない。

「くそっ!まずい!!」

 町娘に破壊器の牙が突き立てられる・・・・その直前、緋色の炎が飛び出し、それを受け止めた。

「貴女、大丈夫ですか!」

「は、はい・・・・ありがとうございます・・・・!」

 なんとか起き上がり、駆け出す町娘。

 刺繍の施された白無垢を身にまとった白髪の少女は、手に抱えた妖刀を構えた。

「ツキハ!どうしてここに・・・・いや、助かった!」

「アルド、私もこの奇妙な音を聞きつけたのですが、何なのですかこれは」

 オオオオオオッッッと雄たけびを上げて後ろ足で立ち上がる破壊器。黒鉄の光を発しながら剣の腕が振り下ろされる。

「来るぞ!みんな!」

 飛び退いて攻撃を避けると、剣は地面に深く突き刺さった。

「喰らえっ!!」

「剣よ!私に従いなさい!」

 アルドとツキハ、二人の剣から炎がほとばしり、破壊器を貫く。炎が晴れた瞬間、エイミ、サイラス、リィカが飛び出してそれぞれの一撃を喰らわせた。

 二ルヴァでの一戦とは異なり、アルドたちに優位に戦闘が進んでいく。が、決定的な一撃を与えることができないまま時間が進んでいく。

 武器を何度も振るい、体力が底をつきそうになっていく。このままだとジリ貧で負ける―そう5人が思い始めたころ、突然に破壊器が動きを止めた。

「な、なんだ・・・・?」

 警戒するアルドの前で、破壊器がその口を静かに開く。

 そこから、意味のある単語が発せられたのに、5人ともが硬直する。

『・・・・設定目標、呂の国の守護、人民の保護、外敵の撃退・・・・』

「こ、これは・・・・!」

 アルドが呻くように言った。破壊器が言葉を話した、それはここでは重要では無かった。

『エラー、目標を確認できません。呂の国、呂の国、ロッロ呂炉呂呂呂ロrrrrrrr』

 破壊器の声が意味のない音の羅列と化す。ノイズを何度も混じらせながら、最後にこうつぶやいた。

『目標認識不可、遂行任務を変更ううううううううウウ・・・・殲滅シークエンスをジッコウ・・・・破壊破壊破壊破壊ハカイ・・・・!』

 再び雄たけびを上げながら、猛スピードで駆け抜けていく破壊器。しかしアルドも、エイミも、リィカも、サイラスも、それを追おうとはしなかった。

「み、みんな、どうしたのですか」

 ただ一人、ツキハだけは理解できずにいるようだった。

 そんな中、アルドのポケットに入っていたリンちゃんが飛び出した。

『あれは・・・・あれは・・・・』

 それを聞いたツキハも言葉を失った。

『あれは、わし、なのか・・・・?』

 発せられたその声は、先ほどの破壊器の声と同じだった。

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