第8話

 レミのサナギは両手を覆うように、対戦相手は片手持ちの剣を、プラズマで成形した。

「片手剣が人工知能の選択か」

 扱いやすさなら剣や槍などの手持ち武器。運任せなら弓や銃、操作に自信があるならステゴロ。ムスはそう分析していた。

 リーチの違いから剣が有利そうだが、レミは構うことなく接近、人工知能は間合いに入られぬよう、剣を振り下ろす。

 レミはその剣を殴りつけた。プラズマが干渉して間延びした電子音と火花が散る。

 さらに一歩踏み込んだレミはとどめの一撃を放つが、人工知能はバランスを崩しならがも体をひねってかわす。

 ステゴロの利点は速さと正確さだ。間合いに入れば手数で圧倒できる。攻めっ気の強いレミに向いていた。

「レベル三十でこの動き、すばらしい。もう制御を上限の七十五まで上げてしまいましょう」

 アナウンスがずいぶんと興奮している。

 今度は人工知能の方から仕掛ける。繰り出される斬撃にレミは拳を合わせて弾く。

 レミに格闘技の技術や知識があるわけではない。そもそも体力や学力は平均以下、いわゆるバカでノロマという奴だ。

 しかし、この世に生まれ落ちた理由、その確率を知っている。だから自分を中心に世界が回っていると思い込む。それが操作するサナギの強さに直結した。

 狂人の思い込みが、機械が機械を操る、最適化されていた動作をも凌駕する。

「少しばかりパワーアップしても機械だからな。動きにウソがない攻撃なんか当たらない」

 レミが攻撃の動作をとると人工知能は防御に備える。だが初動はフェイントで実際の攻撃はワンテンポ遅れてくる。

 機械的な反射速度で当たりはしないが、人工知能が人間に翻弄されていた。

「競技はともかく、勝負で重要なのは駆け引きだ。最善の手だけじゃ最強にはなれない」

 レミは勝ち誇り、のらりくらりとした攻めで相手を追い詰めていく。ムスもチャドも決着が近いと感じたとき、人工知能が闇雲としか見えないほど剣を大降りした。

「なんだ、怒ったのか」

 レミは仕切りなおしと隙だらけの人工知能から距離を置いた。

 計測モニターの、人工知能の状態を示す針やグラフが大幅に振れるのを見て、白衣の男は満足げな笑みを浮かべた。

 人工知能の動きが変わる。雑把で精細を欠くが、それにもまして勢いづく。

「バカがうつったみたいだな。レミに感染したのか」

「紙一重っているからな。失敗しないのも、失敗に気づかないのも本人からすれば同じだ」

 ロボット同士の戦いなのに、その様は子供のじゃれあいのようだった。

 大会の時と同じ現象だ。ぶつかり合うプラズマの粒子が弾け、放たれる光が幾重にも重なっていく中でムスは思った。 

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