第5話

 レミは暗闇の中で目を覚ました。なにかが覆いかぶさっている。そんな違和感を払いのけようとしたが、手足は動かない。

 全身麻痺、もしくは死んでしまったのか。最悪がよぎったとき、まぶたが開く。薄暗いどこかの部屋が見え、レミの意志に関係なく起き上がった。

 なにが、どうなっているんだよ。

 レミは叫んだつもりだったが、声にならない。

「お、来たね」

 それはレミの口から発せられた言葉だった。つまり自分の声、混乱をよそに身体は勝手に動く。部屋に明かりを灯し、姿見鏡の前に立った。

 そこに映ったのは紛れもないレミ自身。両手を広げて歓迎を示している。

「ここは誰、私はどこってところかな。順を追って説明するよ。ロボット武道大会の三回戦、覚えているよね。大剣の上に乗ろうとしたところ」

 鏡に映る自分が語りだす。何もかもを見透かすような笑みに、レミは殴りたい衝動にかられるが、こぶしを握ることさえできない。

「高密度粒子の接触と反発、剣先の遠心力、加速度、いろんな要素が重なって、そのときの意識と記憶が脳裏に焼きついてしまった。それが五年経った今、覚醒したのさ」

 なんことやらレミには理解できない。無性に腹が立つだけだった。

「簡単に言えば、五年先にタイムスリップしたってことだよ」

 鏡のレミが得意げに言う。なるほど、五年も経てばムスみたいになってしまうのか。なんてつまらない。

「気持ちが高ぶってきたところで、お願いしたいことがある」

 部屋を出て、光源の遠い洞窟みたいな廊下を歩いていく。好き勝手に連れまわされる居心地の悪さ。レミはこれ以上ない惨めさを感じていた。

 天井が暗闇にかすんで見えない広いホールに入った。その中央に一体のロボットが鎮座する。

 あれはサナギじゃないか。

「そのプロトタイプだ。こいつで破壊工作をしてほしい」

 魅力的な申し出だった。姿形こそ似ているが、近づけば、人の背丈を優に越え、表面は灰色の鉄で覆われ、頑丈な作りはそういうことに向いている。

 背後に設置された階段を上り、サナギの首筋に鍵を差し込んでひねると、背中が二つに割れた。

 搭乗型なのか。自由の利かない視線でその内部を確認した。着ぐるみ構造の操縦席に足から潜り込ませると全身をクッションが程よく圧迫する。

 背面が閉じてサナギが起動する。身体に感じる振動にレミは高揚した。これは化石燃料だ。

「気に入ると思ったよ。それじゃあ同期開始だ」

 背もたれからヘルメットが立ち上がり、頭部を包み込む。いつかの色が点滅すると視界が真っ白になった。

 数回の瞬きでレミは自身の変化に気づく。自らの意志で視線を動かせる。そして鉄になった手も。驚きと喜びで走り出したくなったが、足のほうは硬直していた。

「つながったようだな。もうしばらくは辛抱しておくれ」

 もう一人、つまり体のほうが機体から降りたけど、意識はサナギと同期したままだ。

「さぁ、地上にでるよ」 

 サナギを乗せた台座が上昇を始める。

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