第4話
試合開始が近づく操作室。ヘッドギアを装着してシートで同期待ちをしているレミにムスが歩み寄った。そしてひざを曲げ、視線の高さを合わせて問いかけた。
「いくつもの災害や戦争を超えて、人間の進化は肉体を必要としない未来を見ている。神の領域に挑む中で、生物として必要なものは何だと思う」
レミは真剣なまなざしで握りこぶしを作ると静かに力強く、パワーと答えた。
「よし、同期開始だ。チャド、準備は良いな」
一息ついて号令をかけるムスをチャドが手招きする。
「どうする。こういうものを用意したけど」
チャドはこっそりとムスにだけ見えるように端末の画面を向けた。そこには小型の粒子ピストルのデータが表示されている。
「サルに道具が使えると思うか」
シートで足をばたつかせているレミを横目に、ムスが小声で耳打ちした。その言葉で納得したチャドはピストルのデータを消去する。レッドシグナルの点灯とともに観客席が沸きあがった。
同期を終えてプラズマコーティングが施される。
片や手足に、片や巨大な剣に粒子を集中させて正中線は剥き身のまま、その異様な緊張感が静けさをもたらし、試合開始の合図が高らかに鳴り響いた。
大剣はその切っ先を後ろに引きずり、レミの出方を警戒しながら間合いをつめていく。前二試合の動きを見る限り、いきなり斬りかかってはこない。持ち手の部分でけん制、もしくは相手の初手を崩しに来る。
先に仕掛けたのはレミ。走るよりは跳ねるよう、距離を確かめならが接近し、軽く飛んで蹴りの体勢に入る。
その飛び蹴りに合わせて、持ち手を突き出して防ぐ。相手の攻撃をいなしたところで大剣を振りかぶる。レミの狙い通りであった。持ち手を足場にして後方へ飛び退き、大剣の間合いから外れる。
一連の動作を止めることはできず、大剣は空を斬り、舞台を叩きつける。その上をレミのロボットが飛び越えて、剥き身の頭部を狙う。その飛び蹴りを強引に引き寄せ大剣の腹で受ける。
粒子が弾ける。二体のロボットは内蔵のジャイロと操縦士のバランス感覚が反発して、よろめく。
「うーん。今ので足のコーティングがはがれている」
チャドがモニターを眺めて顔をしかめた。
「硬度は一緒なんだろ。だったら相手も同じで」
「機動力上げるために小細工したからなぁ」
頭をかくチャドを見て、ムスは事態の不利を感じた。
「レミ、足での攻撃は控えろ。打ち負けてる」
二体は体勢を戻して向き合う。大剣のロボットはその刃を水平に、背を前面にひねって力をためる。
「まぁ、見てな。蝿のように舞い、蚊のように刺す」
レミのロボットは両手で自重を支える前傾姿勢を取って地を蹴る。コーティング剥離で以前ほどの速力はない。なぎ払いで待ち構る、その間合いに駆け込む。
迎え撃つロボットはインパクトのタイミングを計り、一歩踏み出した足から大剣の切っ先に回転運動を伝えて攻撃力を上げていく。
レミは迫る刃を両手のコーティングで受ける。斬撃の勢いに逆らわず、身体を浮かす。高密度プラズマの接触がまばゆい明滅を繰り返し、振りぬく剣の軌道を描く。
そして飽和点に達したプラズマコーティングがそのものが破裂し、闘技場全体が光に包まれた。
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