第2話

 スタジアムの地下は商業施設になっている。一角の飲食店で三人は次戦までの猶予を過ごしていた。

「この大会には最先端の技術が使われているんだ。それをあんな曲芸で」

「南国に居ながらホッキョクグマと戦おうって技術だろ」

 まるで言葉が通じない。そんなレミとの会話に、ムスはため息をつく。 

「あのジャンプ、ロボット跳躍高の新記録らしい」

 あちこちに設置されたモニターが大会の様子を伝え、チャドが指差した画面にはレミたちの初戦が解説されていた。

「技術も暴力も変わらない。相手を打ち負かすためのものさ。誰よりも速く、誰よりも強く。スピードアンドパワー」

「ロボット壊して、出場停止になる間抜けな結果が見えるよ」 

 気分良く高らかに宣言するレミの横でチャドがケタケタ笑う。こうも派手に取り上げられたら、次の相手は対策を取ってくるだろう。ムスはトーナメント表を確認した。

 そんなこんなで二回戦が間近になり、レミたちは操作室に向かう。ほどなくしてメンテナンスを終えたロボットが舞台に運び込まれる。

 次の相手はプラズマの弾丸を撃ち出す遠距離タイプ、一回戦は威力重視のライフル型で、対戦相手が同期酔いしているところを撃ち抜いていた。

 プラズマの形成は試合毎に変更できるが、大きく戦闘スタイルを変えてくることはないだろう。とムスは予想した。

 同期を済ませ、レッドシグナルが点灯すればプラナズマコーティングがロボットを包み込む。レミのロボットは前試合と同じ、手足に粒子が施される。

 やっぱり、対応してきた。ムスが対戦相手の武装を確認する。今回は身の丈ほどのライフルではなく、取り回しの利くピストルを装備していた。弾丸も粒子密度を減らして、残数を多くしているだろう。

 ロボットは機体バランスに最低限のリミッターがついているだけで、ほとんどの制御は操縦士の技量が反映される。ゆえにロボットでありながら精度は生身の人間より低い。

 今回ばかりはスピードとパワーが正解か。不本意ながらもムスはそう確信した。ロボットの拘束が解け、カウントダウンが始まる。相手はピストルを構えて狙いを定めていた。

 高速戦闘が行われると観客の誰もが思っていた。ところが試合開始のグリーンシグナルが点灯しても、レミのロボットは立ち尽くす。そんな動かない的に不穏を感じて射撃体勢のまま、お互いこう着状態になった。

「同期不良でも起きたのか」

 ムスは慌ててモニターの覗き込むが、すべての数値は正常を示す。舞台に目を向ければ、レミのロボットが手招きをして対戦相手を挑発しはじめた。

 何をやっているんだ、あのマヌケは。シートの操縦士に振り向いて、投げつけるものはないか手元を探るムスと同調したように対戦相手が発砲した。プラズマ同士の接触で間延びした電子音が鳴る。

 ロボットに大きな動きはない。背後から見ているムスに弾丸が命中したのか把握できていないが、試合続行されていることから直撃してないことだけはわかる。

 続けざまに三回の発砲、電子音が二回、三発目は外れて観客席へ向かう。プラズマの弾丸は形成限界距離に到達したところで消失した。

「面白いな。手ではじいているよ」

 口元を緩めるチャド、言葉なく口を開くムス、発砲はさらに続いた。

 レミのロボットは胸の前で片手の平を小刻みに動かし、銃弾を受ける。二体のロボットはその場から動かない。練習風景のような単調さ、発砲した側は、やけっぱちになって撃ち続けていた。

「掴むのって難しいぞ」

 レミがつぶやく。不真面目とも真剣とも図りかねるその行動は事態を予想以上期待未満に持っていく。容量分のプラズマ弾丸を撃ちつくしたところで対戦相手が降参し、レミたちの勝利が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る