第7話 恵まれない子供

ジェミは自分を「恵まれない子供」だと考えていた。

ジェミは問題児だった。

孤児院のフェンスを登って逃亡を試みたり、他の孤児を理由もなく殴ったり、

癇癪を起こしたりして、他の孤児から恐れられた。

その記録はAIにリストアップされ、「しつけ」に使われた。

自分の問題行動を逐一見せられ、その時にどんな思考でこの行動に至ったのかを言語化させられた。だがジェミには、それすらも出来なかった。

ジェミは自分が「異常があり、問題である」という事を認識した。

そして、自分を否定した。



ジェミは時空の穴を通り抜けて、AD300年のバルオキーに降り立った。

そこに、アルド達がいた。カエルとイスカ…、あと見慣れない少女…。

ジェミは細かいことはどうでもいいと思った。

ジェミ「見間違えじゃないよな?黄金の林檎のプリズマを浴びた筈の兵器はシエルを攻撃した?そうだな。あんちゃん?」

アルド「ああ、フィーネが…妹がいなかったらどうなっていたか…」

ジェミ「そうか…けけけ。とんだ番狂わせだな。」

アルド「どういう事だ?」

ジェミは黄金の林檎を取り出した。

ジェミ「御察しの通り、俺はこの林檎によるプリズマの力で時空を超えたり、

あらゆる合成人間やあらゆる兵器。無論人間も、意のままに操る事が出来る。

人の場合は脳のニューラルネットワークに空間を超えて、

あらゆる感情を誘発させる物質を生成するんだ。

応用で、傷を癒したり、傷つけたり思いのままさ。

俺は魔法を信じていたが、これは科学だ。

原理があって誰にでも出来てしまう、つまらないものさ。」


ジェミは怒りが爆発して地団駄を踏んだ。

ジェミ「だが俺は、シエルを傷つけろなんて命令は出しちゃいない。

アルド、お前を殺せと命令したんだ!!」

アルド「…ジェミ…そうか…シエルがやられた後、開いた時空の穴はお前が…。」

ジェミ「黄金の林檎はある命令を脳で思い描く。その時のニューラルネットワークを

読み取り、プリズマに反映するって代物さ。そのプリズマが他の物質や事象に反映する。時の共振も同じ原理だ。だが、俺の手には余るってことがハッキリした。

シエル先輩をお前から取り返したかった。歌って欲しかった…なのに、なんでアルドが生きていて、シエルが死にかけている?!」

アルド「ジェミ…その力は人に使えこなせなかったんじゃないのか?

そんな大それた力は…」

ジェミ「扱うものの代償ってか?そんなんじゃないんだよ…。

この力はあんちゃんが考えるほど制御不能じゃないんだ。むしろ完全制御が出来るんだ。つまり…俺が、あはは。林檎の駒だったというわけさ。あはあはあはははは…。」


黄金の林檎は緑色の光を仄かに発した。

そして、その光はゆっくりとジェミを取り囲んだ。


どこからともなく、声が聞こえた。

「…エ…デン…もうすぐ…だよ」


ジェミの肉体が変化していく。

声がどんどん変わっていく。それなのにジェミは自分を嘲笑っていた。

「あははははは…。こんな…もんだよなぁ。俺なんて!」

そして、声は意味の無い、怒りと慟哭に変わった。

その姿を見たアルドは涙した。

クロノス・メナスに酷似していたからだ。


アルド「ジェミ…帰って来い!シエルは死んじゃいないんだぞ!」

イスカ「お前がした事を、シエルの前で謝罪してもらおう。その後で

たっぷりと叱ってやる。」

サイラス「難しい話はなしでござる。さっさと謝ればいいでござるよ!」

フィーネ「お兄ちゃん。私もお手伝いするよ!」


ジェミとの死闘が幕を開けた。

ジェミは黄金の林檎からの力に完全にコントロールされていた。

アルドがそう確信したのは、ジェミの攻撃は全て、イスカとサイラスに集中した。

なぜかアルドとフィーネは攻撃対象として除外されていた。

だが、フィーネのジオ・プリズマを持ってしても、黄金の林檎は同調する波の様な

プリズマを放って、相殺してしまう。それは、黄金の林檎の力がジオ・プリズマに他ならない事を意味していた。


ジェミの変化した体躯は自在だった。大きくはないが、素早く、

アルド達を苦しめた。また、合成人間と同様に、

プリズマによる圧倒的防御力を誇っていた。

イスカとサイラスは成すすべなく倒され、

イスカにトドメを刺すべく、ジェミはイスカの首を掴み上げた。



その時…


「ジェミ!!」


鳩尾を押さえ、片方の手には竪琴の様な弓を持ったシエルが

立っていた。


シエル「今度は…ボクは目を逸らさない!大切な仲間を見捨てない!!」


シエルは弓を構えた。

弓の弦が震え、張り詰めた。

シエル「ジェミ…イスカさんを離せ。ボクの仲間だ!

これ以上傷つけることは許さない!!」


ジェミは何かを思い出そうとしている…。


シエル「ジェミ…ボクは弱かった。あの時、怖かった。また虐められるのが…。

だから、君から目を逸らしてしまった…。

でも…その後、ジェミが居なくなって、ボクの歌う意味も無くなった!!

もう、そんなのはゴメンだ!今度は絶対に護る!!」


シエル「ボクは…君のために、歌いたいんだ!ジェミ!!」

ジェミはうっすらとある人の影を思い浮かんだが、

プリズマの光により、かき消えてしまった。何も見えなくなった。

脳を満たすプリズマからの命令を肉体が実行した…。


だが…淡く優しいプリズマの光を一寸の強烈な光が切り裂いた。

そして、ハープの音色が響いた…。

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