第6話 楽団と孤児

シエルの所属していた楽団は福祉事業の一環で、

恵まれない人達の前で公演をするという事を度々行なっていた。

恵まれない人達とはAD1100年で言えば、大量にいる孤児達のことだ。

シエルはある孤児院にボランティアとして派遣されたのだ。

そこは孤児の育成、教育が全てAIで管理されていた。

AD1100年においても、子育ては親かもしくは人の手が

必要なのは言うまでもないことだが、AIの進化は目覚ましく、

不確定要素は人が育てた場合よりも少なく、何よりも、人手がないことはコスト面で

魅力的だった。だが、人の手による育成を受けられなかった子供達を「恵まれない子供」と差別するのが、人の心の常だった。


そこにシエルが派遣されて、歌を披露したのだった。

孤児達の前で歌っているとざわめきが起こった。

シエルの歌のせいじゃなく、遠くにいた孤児の1人が

他の孤児達をかき分けて、ぐいぐいとシエルの目の前に来た。

それがジェミだった。

ジェミ「君は…なんなんだ。どうして僕の心を壊すんだ?」

シエル「心を、壊す?」

シエルは動揺した。

シエル「ボク、壊してなんかない。そんなことしないよ…」

シエルは悲しくなった。

ジェミは泣いていた…。

ジェミ「壊したな。僕の心を…なんでこんなに苦しいんだ?

なんでこんなに涙が出るんだ?返せよ。僕の心返せよ!!」

シエルはジェミと一緒に泣き出した…。

それがシエルとジェミとの出会いだった。

シエルの楽団の団長はジェミに教えた。

「それは感動というものなんだ。シエルの声は人の心を震わせるんだ。

壊したんじゃないよ。その震えはね、

人として生きる上で大事にしなきゃいけないんだ。」


ジェミは歌や音楽に関心はなかったが、魔法というものに関心があった。

そして、これは魔法の様な物だと考えた。

ジェミは魔法使いのシエルに弟子入りすれば、自分を変える事が出来ると考えた。


そして、その場で、楽団へ入団したのだった。

シエルにとっての、はじめての後輩だった。


アルド達にジェミの事を話すシエルと、ジェミがアルド達に

話すシエルの姿が重なった。

共に、自分の大切なものを語るかの様だった。


だが、シエルの名声が轟くに連れて、シエルの周りが変わった。

シエルを妬む子供達がシエルを攻撃した。所謂「いじめ」だった。

それはどんどんエスカレートした。

大勢に取り囲まれて、暴行を受けているシエルを助けたのはジェミだった。


傷だらけになっていたシエルを泣きそうな顔で見たジェミは、

いじめに参加していた楽団の子供達を殴り倒した。

それを境にシエルを虐めるものはいなくなった。

ジェミ「気にするなよ。こんな奴らの為に、歌を辞めるなよ!」

そう言ったジェミに感謝して、これまで以上に歌を歌い続けようとシエルは考えた。


ジェミの為に、シエルが出来る事は歌を大勢に届ける事。

シエルはジェミの為に、歌い続け、ニルヴァ楽団でもトップクラスの才能と評される様になった。

ある時、久しぶりに、シエルはジェミと会った。シエルとジェミが目があった時、

ジェミは大勢に蹴りつけられていた。

何度も何度も蹴られ、殴られていた。

シエルの足は硬直した。体が動かなくなった。

虐められた恐怖が蘇り、唯一出来た事は…。


―――ジェミから目をそらすことだった。―――


ジェミは数日後に楽団を去っていき…シエルの歌う理由もなくなった。

シエルはアルド達に辞めた理由をこう言った。

「なんとなく飽きちゃった」と。


そして、アルド達と一緒にニルヴァに立ち寄った時に、ジェミに再会したのだ。


アルドは辛そうに話してくれたシエルに礼を言った。

シエルとジェミの関係は分かったが、他には何も分からないままだった。


イスカ「ダメだね。これでは何も分からない。」

アルド「オレ、頭冷やしてくるよ…。」


アルドとフィーネ。サイラスとイスカの4人は

夜の帳の降りたバルオキーの静寂に包まれた。


ジェミ…お前はシエルに歌を続けて欲しいんだよな…


アルドは夜空に向かって、呟いた。

その時…


ビシ…ビシ…


青いスパークがバルオキーの闇を切り裂いた。


そして、大きく空間が口を開いた。

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