第4話 雨

アルド達は4人で工業都市廃墟を訪れた。

そして、最奥部エリアQと呼ばれる場所にその組織は存在した。

合成人間の兵士十数名からなる小部隊だった。

彼等はまず「何故ここが分かったのだ?」とアルド達に言った。

「漏れるわけがない。内通者などいない筈だ!」と…。


イスカがまず、違和感に気づいた。そういえば

どうしてジェミは彼等の事を知っていたのか?

それを確認するためにイスカはジェミの名を彼等の前で口にしてみた。だが…

彼等はジェミを知らなかった。


アルド「ニルヴァを襲ったのはお前達だな!」

イスカ「……」

合成人間「ニルヴァ…だと?」

イスカ「お前達の目的は曙光都市エルジオンの襲撃だろう?」

合成人間「誰だ!誰から聞いた!!」

合成人間「我等の中に、裏切り者が?」

イスカのジェミに対する違和感が頂点に達した。

イスカ「シエル!あのジェミという少年は何者だ!?」

シエル「えっ!?」

アルドは横目でイスカ達を見て、思い返してみる。

なるほど…と合点がいった。

しかし、分からないことがある。

アルド「イスカ…この合成人間達も、ジェミの事を知らないみたいだ…」

イスカ「そうだね。ではジェミはなぜ彼等の事を知っていたんだ?

ジェミは何者なんだ?シエル!」

シエル「えっ!えっ!?ボク…知らない!」

合成人間「何をごちゃごちゃと。まぁいい。コイツらを消し去れば済む話だ!」

アルド「ちょっと待て!」

サイラス「問答は戦いの後でござる!」

イスカ「…来るよ。みんな!」


合成人間の一個師団は統制が乱れていた。

彼等は動揺していた。

《我等の中に裏切り者がいる。曙光都市エルジオン襲撃という目的を

人間側に漏らした者がいる。ガリアードの意思を継ぐ筈の我等の内部にエラーが生じた。

それは何だ?誰だ?どうしてだ?》


本来の力を発揮できずに、合成人間達はアルド達に斃された。

アルドは鎮圧に成功したが、胸騒ぎが治らない。


アルド「…急いで戻ろう。嫌な予感がする。」

サイラスとイスカもアルドに続き、少し遅れてシエルが後を追うが…。


―――「シエル先輩」―――


どこからか声がした…気がした。


―――「こっちへおいで」―――



アルドは途中シエルがいないことに気がついて、急いで踵を返した。


エリアQにはどこにもシエルの姿が見当たらない。

さっきまで一緒にいたのに…

アルド「奥か…」


アルド達が向かったのは炉内中心部。

その奥にシエルが1人、佇んでいるのが見えた。

アルド「シエル!」

イスカ「大丈夫かい?」

サイラス「よかったでござる。心配したでござるよ。」


シエルは急に我に返ってアルド達に言う。


シエル「…お兄ちゃん…みんな…あ、あのね。声がしたの。…だから!」

アルドは安堵し、シエルを落ち着かせようとした…。その時。


ピシッ ピシッ


青いスパークが周囲に縦横無尽に走り、空間が歪み、時空の穴が出現する。


「けけけけけ…」

その穴の中から人影が見えた。それは見覚えのある姿だった。

アルド「どうして、ここにいる?どうやって時空の穴を?」

シエル「…ジェミ…」


ジェミの背後の時空の穴は閉じないまま、固定されている。


ジェミ「ふぅ。何度やっても、慣れないなぁ。」


イスカ「さすがに…驚いているよ。ジェミ。」

ジェミ「いつも冷静なイスカでも

そんな鳩みたいに目を丸くすることがあるんだな。けっけっけっ。」


アルド「ジェミ…あいつらは?合成人間の過激派は、お前の…?」

サイラス「アルド、彼奴らはジェミの事を知らなかったでござる。」


ジェミ「お前らが倒さなくとも、エルジオンは堕とされてはいないさ。ただ、

少しばかり被害が出ていたがな。

エルジオン襲撃に失敗したバカな合成人間を一匹ニルヴァに転送してやったのさ。

間抜けな馬鹿どもの目を覚まさせてやろうと思って…。」


ジェミは思い出すように「未来に起こった」事を語っていた。

アルド「ジェミ、お前…未来を?」

ジェミ「あんちゃん達はエルジオンの未来を助け、合成人間どもの未来を殺した。

そうだ…。助けるには殺す必要がある。何も変わらないさ。

時間なんか飛び越えなくても、人は、いや生き物はいつでもそうしてきたのさ。」


ジェミは得意げに手に持っているものを掲げた。

ジェミ「そこでだ!俺の助けたい未来の為の生贄があんちゃん達ってことさ!」

アルド「む…!」

ジェミが持っているものは黄金の林檎だった。

そして黄金の林檎から緑色の光が溢れる。

先のニルヴァで相対した合成人間が包まれた光と同じ物だった。

それが周囲のあらゆる合成人間や、兵器に降り注ぐ。

ジェミ「恨むなよ。お前等だっていつでもこうしてきたろ?ある未来を選ぶ時、それ以外の可能性を殺す。そして、人に出来るのはそれだけさ。」

シエル「ジェミ!キミは…一体、何をしようとしてるの?」

ジェミ「お前らはコイツらの餌になるだけさ。けけ…あばよ。」

ジェミは笑いながら時空の穴に消えていった。

シエル「待って!!」

シエルも追って穴に飛び込もうとするが、穴は閉じてしまっていた。

時空の穴が閉じて、周囲は一瞬静寂に包まれた。

そして次の瞬間、

ジェミの黄金の林檎から発した光を浴びた兵器群が動き出した。

アルドはジェミの言葉の意味を考えた。

アルド「ジェミ…お前の助けたい未来って何だ?」

シエル「お兄ちゃん!来るよ!!」

シエルの叫び声に合わせるように、緑色の光が周囲の兵器群達から発せられた。

イスカ「まずい。廃道まで走り抜けよう。」

アルド「分かった!」


廃道にたどり着くまでに、合成人間と、サーチビットに襲われた。

そこでの戦いは死闘とも言うべきものだった。

こいつらは…残党なのか?


彼等は強かった…。先に斃した《本隊》とは比較にならない戦力を有していた。

しかし、なんとか撃退し、廃道に辿り着いた。


そこには無数の時空の穴が開いて、大量の合成人間とサーチビット、そして

数体のアガートラムがどこからともなく転送されていた。


アルド達を死へと追いやるために。


廃道ルート99には、重々しい雨が降り注いでいた。

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