第3話 持たざる者

アルド達は合成人間との死闘を街中で繰り広げたが、無事撃退する事ができた。


アルド達に対し、悪態を吐くことも、断末魔を上げることもなく、

ネジの切れた玩具のように、急に事切れたのだ。

アルド達は呆気に取られたが、それでも危機が去ったことを安堵した。


浮遊街ニルヴァは一時パニックに陥ったものの、

合成人間の襲撃など慣れたもので、街はすぐに機能を回復させた。

アルド達はジェミとの約束通り、酒場に向かった。

ジェミは一同を見つけるや否や、興奮して駆け寄ってきた。

ジェミ「さっきの合成人間との戦い。ココから見てたぜ!

あんちゃんも、カエルのおじさんも、イスカさんも、すごかったな〜!」

サイラス「だから、サイラスでござる!」

ジェミ「シエル先輩も…いつもあんな戦いに参加してるの?大丈夫?」

シエル「う…うん。ボクは平気だよ。お兄ちゃん達がいるから。」

イスカ「いや、正直焦っていたよ。あれほど強い合成人間は初めてだったからね。」

アルド「実を言うと、倒してはいないんだけどな…。」

ジェミ「…でもさ、シエル先輩、あんちゃん達について行けて無かったじゃん?」

シエル「…え?」

ジェミ「あんちゃんが怪我したの?シエル先輩を庇ってたからじゃない?

大丈夫なの〜?」

シエル「…ボ、ボクの…せいで!?」

アルド「おいジェミ!そんなことないって!気にすんなよシエル?」

イスカ「我々はいつもシエルに助けてもらっているさ。」

ジェミ「ふぅん…大事な仲間か…。」




ジェミは人と話をするのが上手かった。

イスカやサイラスもジェミの話術と人の良さにすっかり気を許していた。

勿論、ジェミはシエルにも屈託無く話しかけ、シエルも少し緊張していたが、

会話におずおずと参加するようになった。

シエルは楽団時代を思い出して、ジェミに当時の話題を振ってみた。すると

シエルの話にジェミは嬉しそうに返すのだった。

シエルもまた、嬉しくなるのだった。


しかし、ジェミの話の本題が「合成人間達の襲撃」ともなれば、

呑気に世間話などしている場合じゃない。


ジェミ「合成人間の事で、あんちゃん達に話そうと思ってたんだ。

朝、宿にお邪魔しちゃったのも、そのためでね。」

アルド「合成人間の事で?」


アルド達はジェミから、合成人間の叛乱軍であったガリアードの意思を継ぐ

過激派、武闘派が集結し、エルジオンに攻め入る準備をしているという噂を聞いた。

アルド達が先程戦った合成人間もその一味だという。

アルドは天然のお人好しである。

ジェミを疑うという事をしなかった。

シエルもジェミを疑うという発想はなかった。

イスカやサイラスにも、出会ったばかりの、饒舌な少年を疑う要素は無い。

そもそもシエルの友人でもあるからだ。


もしそんな組織が存在するとしたら、エルジオン襲撃を決起する時まで

自分たちの存在は極秘情報の筈だった。

その噂はジェミの他には誰からも聴かなかった。

そしてジェミには情報網も人脈も無かった。


ただ、人間を憎むAI、知性と知性は反目しあうという

歴史的事実がその信憑性を担保した。


そして、その過激派グループは実在した。

その事をジェミは知っていた。



アルド達は明日にでも、合成人間のアジトである工業都市廃墟に

向かうという運びになった。

ジェミ「あんちゃん達に頼んで正解だったぜ!ま、しっかりやってくれよな!」

アルド「まぁ、頑張ってみるよ。」

サイラス「まかせるでござるよ!」


みんなが席を立ったので、慌ててシエルも立ち上がる。


そして、意を決したように、ジェミに話しかけた。

シエル「…ねぇ、ジェミ?あのね…」

ジェミは急に冷めた表情をシエルだけに向けて言った。

ジェミ「あ!シエル先輩、昨日実家に帰ったよね?」

シエル「ふぇ!?…あ、うん。久しぶりだったから…」

ジェミ「へぇ…ママとパパに会ってきたんだ?」

シエル「…!」

シエルは自分の幼さを指摘されて赤面した。

そして、ジェミの攻撃的な視線に息を飲んだ。


ジェミは人懐こい笑顔をアルド達に向けて、

シエルの動揺をアルド達に悟られない様に図った。

それは成功し、アルド達は酒場を出て行った。

楽団の仲間との再会に水を刺すようなことをアルド達はしなかったのだ。


1人にされて戸惑うシエルの耳元でジェミが呟いた。

「魅了の魔法…音楽の才能…パパ…ママ…愛情…仲間…先輩はなんでも持ってるよな…」

ジェミは哀しい顔をして、シエルの目を見据えて…

「おれなんてなんにもないや…」と言った。

シエルはジェミの哀しい顔と言葉に深く傷付いた。

意思に反して、涙が溢れる。

そして、その泣き顔は、ジェミ以外の誰にも見られたくなかった。

ジェミはシエルを一瞥すると、酒場を出て行ってしまい、

1人酒場に残されたシエルは静かに泣いた。

そして、既にその場にいないジェミに対して、誰にも届かない声で呟いた。

「ごめんなさ…ボクのせい…」

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