第3話
「ふぅ、ごちそうさまでした!」
「ご、ごちそうさまでした・・・」
料理に対する理解が深まりほくほく顔の料理人と、お腹がいっぱいでダウンしているアルドがそこにいた
「さて、腹も膨れたことだし早速動くとするか」
「そ、そうだな。今度はどうするんだ?」
「大体料理の方向性は定まってきたんだが・・・マスター!」
料理人は離れた場所にいたマスターに声をかけ近づくとあれこれ質問を始めた
お腹が限界で会話を聞きとれずアルドがダウンしていると、話が終わったのか料理人が帰ってきた
「次は食材を確保しに行くぞ!さっきの少年がいた畑に行こう!」
「畑に?」
「ああ!あそこで育てている作物を少し分けてもらいたくてな」
「わかった。それじゃあ畑に行って作物を譲ってもらおう」
二人はさっそく畑に向かうと、そこには畑作業を手伝う少年の姿が
「あれ?さっきの変な人間だ」
「変な人間とは失礼な。彼はものすごくお人好しなだけだぞ」
「いや、俺じゃないからなっ!?あんたのほうだからな!」
「ところで少年、ここで育てている作物を少し分けてくれないか?もちろんお代は払う」
「それは良いけど、こんなのかってどうするの?」
「もちろん、料理を作るのさ!完成したら少年にも食わせてやるからな」
「本当!?楽しみ待ってるよ!」
少年は目を輝かせ、急いで作物を集め始めた
「絶対いい料理を完成させような」
「もちろんだ。人も魔獣も皆が美味いと言えるそんな料理を作り上げて見せるさ」
食材を受け取った二人はコニウムを去り中央大陸に向かって移動を開始した
次元戦艦にて再び中央大陸に戻る名かアルドは一つの疑問を料理人に投げかける
「なぁ、どうしてそこまで師匠の言葉にこだわっているんだ?」
「ああ、それか・・・。まぁ話すと長くなるしちょっと恥ずかしいことでもあるんだが」
料理人は少し考えやがて口を開いた
「ここまで協力してもらってるしあんたには話そうか。俺は実は中央大陸の生まれではないんだよな。生まれは東方ガルレア大陸なんだ」
「そうだったのか?その割にはあまりそんな雰囲気を感じないけど」
「まぁガルレア出身といっても俺が子供のころに親に連れられて移ったからなぁ。以後はずっとミグランス暮らしだから感じ取れなくてもおかしくはないさ」
昔をを思い出すように男はどこか遠くを見るような顔つきで続きをしゃべりだす
「こっちと東方は国が違うってのもあって、正直何もかもが違ったんだよな。食べ物も服装も、加えて親しかった友達とも別れちまってさ当時の俺は正直こっちに全然なじめなかったんだ」
「そうだったのか・・・」
これまでの周りを引っ張るほどのエネルギーを持っていた男からは想像もできない姿だ
「特にきつかったのが団子が食えなくなったことだな!正直あれが一番堪えた」
「そんなにか」
(そういえば俺の仲間にも団子好きがいたよな)
「何かがあればすぐ東方と比べちまってなぁ。目に映るものすべてがこう、敵に見えちまってたんだ。そんな中俺は一つの屋台に出会ったんだ」
「屋台?」
「そ。各地で料理をしながらそこで稼いだ金でまた別の地に行く。そんな行商の真似事みたいなことをしていた屋台さ」
「ちょうどリンデであんたがやってたみたいな?」
「まさしくあれだな。というかあれは俺が師匠のを引き継いでやってるからな」
料理人が目を閉じ過去に思いを向ける
「くそっ。なんで俺はこっちの大陸に来なきゃならなかったんだよ」
両親は商人であり、その活動拠点をガルレアからミグランスに移すこととなり、自分たち家族もそれについていくことに
選択肢なんかないほぼほぼ強制に近い形で連れられてきたミグランスの地は幼い少年の知る世界とは何もかもが違っていた
周りの環境になじめず、両親ともぶつかるようになったある日のこと。
町を一人で歩いていた少年は食欲を刺激する匂いを感じ取った
「なんだこのうまそうな匂い・・・?」
引き寄せられるように歩いていくと人だかりができていた。その中心には小さな屋台と一人の男がいた
「さぁさぁ!皆さんよってらっしゃい!各地を旅して様々な料理と触れてきた私の自信作を販売してるよ!よろしければ食べていってくれ!!」
1人、また一人と買っていきその場で食べたものからは感嘆の声が上がる
興味深そうに俺はそれを見ていたが、どうせ俺の故郷のものよりはうまくはないだろと意地を張っていた俺に男が声をかけてきた
「そこの坊主!お前さんも食ってみたいか?うまいぞお!」
「・・・腹減ってないから」
そう断った瞬間、凄まじい音量で腹が泣いた
「体は正直ってな!ほら、いいから食べてみろよ!」
男はスープを用意すると有無を言わせず俺に渡した
「ふん、どうせここの連中に合うようなもんだろ」
「お前さん、その身なりは・・・東方の出身か」
「だったらなんだよ?」
「一つ良いことを教えてやろう」
男は得意げな顔を作るとこう言い放った
「料理に境界はない!!」
「なにそれ?」
「いいから食えばわかる!さぁ!」
男の勢いに気おされ俺はしぶしぶスープを口にした
その時の衝撃は今でも覚えている
この世にこんなうまいものがあったのかと
未だ東方という国にとらわれた俺に対し、もっと広い世界を感じさせてくれたのだ
「そんなことがあってな。以後周りのことに対してもっと歩みよろうという考えが生まれて、師匠の下で料理の修業をする傍ら俺もいろいろなところを旅しながら、いろいろな価値観や文化に触れていこうと思ったわけだ」
「へぇ、今の行動力はそんなところから来てるのか」
「まぁ、そんなところだ。俺は今まで師匠の言葉をしっかりと考えて行動していたつもりだったんだがよ、今回の件で気づかされたわ。この世界に生きているのは何も人間だけじゃないんだってな」
「だから今回の件にそんなに熱が入っているんだな」
「それもあるが、あの魔獣はガキの頃の俺と同じように見えちまってなぁ。魔獣は魔獣、人間は人間って思い込んでいる感じがな」
「思い込んでいる?」
「そうだ。俺も昔はミグランスは碌なところじゃないと思い込んでたからな。あの魔獣もどうせ人間は魔獣のことを知ろうともしないだろと思い込んでやがる」
「その誤解を解いてやるってわけだな」
「ああ!俺の料理人としてのプライドと師匠の言葉にかけてな」
「さて、無事にミグランス大陸に戻ってこれたわけだけど、材料は残り何が必要なんだ?」
「そうだな、手持ちの食材と合わせて・・・。あとはカレク湿原で揃えられそうだ!」
「わかった。カレク湿原に向かおう」
カレク湿原。バルオキーと王都ユニガンの間にあるこの湿地帯は、独自の生態系が広がっておりここでしか手に入らないものも数多く存在する
「確かこの辺にっと・・・あったあった!」
料理人は何かを見つけて湿地帯に踏み込んでいく
「お、おい!大丈夫なのか!?」
「大丈夫だ。そんな深いところまではいかないって」
そういって男は何かを植物を取ってきた。足はかなりぬかるんだところまで踏み入れたのかかなりドロドロである
「だ、大丈夫か?」
「なぁに、このくらいいつものことさ。あとは」
何かを言おうとした料理人の言葉を遮るように、獣声が響き渡る
「かなり大きな声だ。近いぞ」
「こいつぁ、ちょうどいいかもな」
「え?」
アルドが首をかしげていると男は声が響いてきた方向へ走り出す
「そ、そっちは危ないんじゃないのか?」
「あと一つ食材がいるんだよ。この声の主のがな!」
慌ててアルドも追いかけると、その声の主はすぐに見つかった
「こ、こいつはリチャード・・・!?それもかなり大きい個体だ!」
「リチャードは大きければ大きいほど肉の品質がいいって聞くからな。さっきの声からある程度は予想で来てたがこれほどとは」
二人に気づいたのだろう、リチャードは殺気だった目を二人に向ける
「あんたは下がっててくれ!こいつは俺が何とかする!」
「すまんが任せた!倒すのは良いが、あんまり肉を傷つけないように頼むぜ!」
「わかった!なるべくそうするように心がける!」
そういうとアルドは剣を構えたままリチャードに突撃。
アルドを敵と感じ取ったのか、手にした大ぶりの剣でリチャードが迎え撃つ
刃と刃がぶつかり合い甲高い音と主に火花を散らす
腕力ではリチャードに分があるのか、そのままアルドを力任せに押しつぶそうとする
それを察知したアルドは剣を受け止めたまま攻撃をそらし、生じたすきにすかさず攻撃を叩き込む
「エックス斬り!」
素早く敵を交差に斬るアルドの得意技だが、うろこにはじかれる
「そういえばリチャードは大型になればなるほど鱗の強度も上がるぞ!」
「そういうことはもっと早くいってくれ!」
ふざけているとリ、チャードが横なぎに刃を振るってきたのをしゃがんでかわす
間髪入れずに今度はけりを放たれるがそれを何とか剣で防御
だが衝撃までは殺せずそのまま勢いよく吹っ飛ばされる
地面を何度も回転し、攻撃を受け止めた衝撃に腕が若干しびれているが、戦闘には問題ないと判断
にしても、あの鱗の方さは厄介だぞ・・・
通常の個体であればあれで十分ダメージを与えられていたが、あいつにはうろこにはじかれてしまっていた
あの鱗の守りを突破するにはもっと強力な一撃を放たないとだめだ・・・
つい先日であった竜神のことを思い出す
あそこで授かった力ならもしかしたら
アルドは剣を構え、今度は突撃せずに相手の出方をうかがう
そんなアルドの姿を恐れをなしたととらえたのか、リチャードは剣を振りかぶり一息で間合いを詰める
空気を揺らしながら、強力と共に一閃
地面を砕き、斬撃面は衝撃で陥没していた
だが、そこにアルドの姿はなかった
困惑するリチャードが周囲を見渡すが誰もいない。ふと何かの影があるのに気づき上を見るとそこに空中で剣を振りかぶったアルドがいた
「これでどうだ!竜神斬!」
落下しながら全体重を乗せて放たれた渾身の一撃はリチャードの鱗の守りを貫き、致命傷を与えた
リチャードがひときわ大きな悲鳴をあげると、やがて動かなくなりその場に倒れた
「ふぅ、何とかなったか」
「だ、大丈夫か!おい」
先ほどまで戦いを見ていた料理人が慌ててアルドに駆け寄る
「このくらいは大したことないよ。こう見えて結構修羅場を潜り抜けてきたからな」
「みたいだな。人は見かけによらないとはこのことだ」
料理人はリチャードの死体に近づき状態を確認する
「大丈夫そうなのか?」
「ああ、おかげさまでかなりいい感じの状態で手に入った!あんたのおかげだ」
「いや、力になれたなら俺もうれしいよ」
そこであることに気づいたアルドは口に出す
「ところでどうやって持ち帰るんだこれ?」
「・・・頼んだ!」
「いやいや!さすがにこの大きさは俺一人では無理だからな!?」
「かといって死体は残すわけにいかないからな。残しておくと魔物を呼び寄せかねない」
「・・・バルオキーが近いから人手を狩りに行こう。肉を少し分ければ協力してくれると思う」
という結論を出した二人は大慌てでバルオキーに向かうのであった
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