マザーグースがこちらを向いて

広い広い庭の東屋で

マザーグースが歌っている

誰でも聞ける、その園で

優しい声で歌っている


マザーグースが歌っている

この曇ることのない庭先で

塀の先まで聞こえるだろう

優しい声音で歌っている


深緑の、風が吹き抜け、葉が鳴いて

言葉が風に乗っていく

マザーグースが歌われる

自然に帰るのだと考えた


マザーグースを歌う人は

顔の見えない貴婦人で

私は塀の外の人

毎日ずっと聞こえてた

こちらが雨でも

あちらは晴れで

こちらが雪でも

あちらは晴れで

夢現のマザーグースを歌っている


きっと声をかけたら消えるのだ

そう思っては覗きに行って

甘い歌と貴婦人を見て帰る


マザーグースを歌うのは

白い貴婦人が東屋で

子に聞かせる為に零れ落ちる

胸元にある小さな袋の膨らみには

ただの布しかなかったのだけれど

それでもマザーグースは歌われた


ある日、マザーグースの人が

私を見つけて微笑んだ

美しい女性で

ゆらゆらと布赤子を揺らしたその先に

知っていたかのように笑ってた


マザーグースはいなくなる

私を見つけてしまったから

消えた東屋は古ぼけて

何年も使っていないよう

もうマザーグースは歌われない

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