第23話 敵

「サエの魔法は何というか……変だな」

「そ、そうでしょうか」


 ファフニールが迷うそぶりをみせ、出て来た言葉にガクリとしちゃったわ。

 彼は「もふもふ牧場」システムを使うことを魔法だと思っているの。

 自分で宝石や食べ物を作っておいてわざわざ掘り返したり、なんてこと普通はしない。


「そうか、サエの魔法はこの『結界そのもの』なのか」

「ニールさん、それです結界というものについてお聞きしようと思っていたんです」


 そうだ。最初に出会った時、彼は勝手に自分の領域に結界をなんてことを言っていた。

 あの時、巨大なドラゴンに対して気が動転していて、ハッキリと覚えていなかったの。

 だけど、今ハッキリと彼は「結界」という言葉を口にしたわ。

 

「その言いよう。サエの魔法は結界ではないのか?」

「分かりません。結界というものかもしれないんです。私、自分がどうしてこういう魔法を使えるのかも分かってないんです」

「ほう。制約か。知ったからといってお前の結界が綻ぶわけではないか。結界にはいくつか種類がある」

「はい」


 ファフニールは指を三本たてる。

 彼の指って長いのね。人間って指の長さと手のひらの長さって手の平の方が長いくらいじゃない。

 だけど、彼の場合は指の方が長かったの。

 おっとっと。彼の指に気を取られていたら、せっかくの説明を聞き逃しちゃう。

 

 佐枝子の聡明な頭脳で理解したところによると、結界の種類はこんな感じ。

 一つは私が結界と聞いて想像するものに近かった。

 この結界は何者もの侵入を防いでくれる。どんな危険地帯であっても、その中で昼寝をすることができるだって。

 いいわね。この結界。ライオンの群れの真ん中でステーキを貪りたいわ。

 二つ目は罠ね。

 敵を誘い込んで、結界内に入ったところでどおどどおおおん。敵は死んだ。

 きゃー、こわいいい。助けてえ。隊長ーってやつね。

 三つ目がたぶんファフニールが最初に結界だといったことに繋がる。

 結界内に新たな法則を書きこむ……難しいので佐枝子的に言うと結界の中に新しい世界を作るってことね。

 結界が構築され「もふもふ牧場」的な世界が広がっているというわけなのさ。

 だから、私はイルカにお願いしたり、作物を育てたりといったことができる。

 小人族の村に行った時、もしトッピーに梨を渡していなかったらと思うとゾッとするわ。

 村ではイルカを呼び出せないかもしれない。

 うーん。でも、梨とかは結界の外に持っていってもそのままだったわけよね。


「お前がどのようにして『物質』を生成しているのかは分からない。しかし、物質化したものは永続的にその形を保つ」

「梨とか服とかを外に持ち出しても、大丈夫ということでしょうか?」

「そうだ」


 ファフニールがちょうど疑問に思っていることに対する回答をくれた。

 あ。そっか。

 

「よかったです」

「小人族のことか?」

「それもありますけど、ニールさんと食べたものもそのままちゃんと食べ物としてちゃんと消化されたんですよね。幻になって消えちゃったらと」

「そんなことか。問題ない。お前が振舞ってくれた料理は全て俺の血肉となっている」


 初めてファフニールがくすりとしたところを見た気がする。

 そっか、彼はこんな顔で笑うんだ。むすっとしているより素敵。もっと彼が微笑んでくれるように、佐枝子は頑張る所存です。

 砂のことだって、彼にやってもらいっぱなしだもの。

 少しでも彼に楽しんでもらいたい。


「ニールさん、似たようなものになっちゃいますが、お食事ご一緒しませんか?」

「いつも悪いな」

「いえ、砂をどどーんとしてくださいましたし。ほんのお礼です」

「俺はそういうつもりでやったわけじゃないんだが」

「もし、砂のことがなかったとしても、私、ニールさんをお食事に誘っちゃってます。一人より二人の方が楽しいですし、おいしいです」

「そうか。友とはよいものだな」

「はい! 一人きりじゃなくて本当に良かったと思ってます」


 フクロモモンガと白猫はいるけど、あいつらはちょっと違うのよね。

 ペット枠? とでも言ったらいいのかしら。

 こう、考え方が動物的過ぎて人間と接しているような気持ちにはならないわ。

 ファフニールも人間じゃなくてドラゴンだけど、彼は人と考え方が近い。

 人間やっぱり独りぼっちじゃ辛いものなのよ。

 トッピーやラナにもまた会いたいな。彼らも私にとっては大事なお友達だもの。


「どうした? 突然笑って」

「嬉しいなと思いまして」

「お前はすぐに顔に出るな」

「そうですか。えへへ」

「はは。家に向かうのか?」

「はい!」


 ファフニールと横に並んで家路に向かう。

 

 ◇◇◇

 

 家に帰ると、中に白猫に乗ったルルるんが待ち構えていた。

 梨をお届けしてくれたらしく、ベッドの上に梨が転がっていたわ。

 

「わざわざ持ってきてくれたの?」

『ついでもきゃ。敵がいたもきゃ。倒すかもきゃ?』

「敵?」

『そうもきゃ。奴ら数が多いもきゃ』

 

 ルルるんが忌々しそうに万歳して、大きなお目目をぐるぐるさせる。きゃわいい。

 って、そこじゃなくって……数が多いですってええ。

 どうしましょう、隊長。マシンガンを斉射でありますか?

 しかし、自分、マシンガンどころか拳銃の一つも持っていません。

 変なことをぐるぐる妄想していると、ファフニールが口端をあげふんと顎をあげる。

 

「サエにとって真の敵ならば、いいがな。お前の見間違いじゃないのか?」

『そんなことないもきゃ』

「なら、俺が滅してこよう。魔王といってもその程度だというわけだ」

『もっきゃあああ! 余裕もきゃ。勝手に抹殺したらと思ってサエコに確認しに来ただけもきゃ。あんなやつらスレイプニルのにゃーんで一発もきゃ』


 きゃあああ。私を挟んで喧嘩しないでえ。

 私は一人しかないの。取り合うなんて不毛だわあ。

 いやんいやん。モテる女って辛い。

 と、妄想はここまでにして、事情をもきゃから聞かないと。

 

「ルルるん。その敵というのはどこにいるの?」

『木の中もきゃ。奴ら巣を作っているもきゃ。昨日までは影も形もなかったのに』

「木がポップして、そこに巣があったのかな」

『朝になったら突然生えてきたもきゃあああ!』


 だいたい分かったわ。そうか、ようやく出て来たわね。

 虫取り網がプレゼントされた時からいずれ来るとは思っていたの。

 でも、刺されたら痛いので放置しようかなあ、なんて気でいた。


「サエ、敵か?」

「いえ、たぶん私たちに敵意があるってわけじゃないと思うんですが、その何というか、行ってみましょう」

「分かった。ストゥルルソン。案内しろ。サエは俺の後ろからついてこい」

「はい!」


 フクロモモンガと白猫はともかく、ドラゴンはさすがにオーバーキル過ぎると思うわよ。

 消し炭になっちゃうかも。

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