第24話 ハチミツちょうだい

 随分と木が増えたわね。

 途中リンゴを回収し、みんなで一個ずつかじることに。

 リンゴもしゃもしゃタイムが終わった後、ルルるんに先導してもらい、噂の敵対組織なる巣窟に到着した我らが一行。

 

 うん、予想通りの展開だったわ。

 砂糖は注文できるのにハチミツが無かった理由はここにある。

 ぶんぶんとハチが防衛するハチの巣こそ、我らが宿敵なのだわさ。

 何匹いるのか数えるのも大変ね。

 数える気もないけれど。

 

「ストゥルルソン。数が多い敵とはこの子虫どものことか?」

『そうもきゃ』


 初めてファフニールのため息を聞いたわ。レアよ、超レアよ。

 やるじゃない。ルルるん。もきゃもきゃしているだけじゃなかった。

 両手を組んだファフニールはぐるりと首を回し、呆れた様子でルルるんを睨む。

 

「ルルるん。ぶんぶんしているのはハチだって知っている?」

『もきゃ?』

「あの巣の中にあまーいハチミツを溜め込んでいるのよ。だから、ハチミツを採られないようにハチが護っているの」

『ほほおおう、もきゃ。俺様は悪い奴もきゃ。魔王だからもきゃ』


 ご機嫌な様子でピンク色の鼻をヒクヒクさせるルルるん。

 ぬいぐるみにしか見えないわよ。抱きしめたい系ね。

 何を思ったのか、ルルるんは白猫の首元を撫で木の方へ向きなおった。

 

『行くもきゃ。スレイプニル。ハチミーツとやらを奪い取るもきゃあああ。奴らの屍を築いてくれるもきゃ』

「にゃーん」


 ところが、走り始めた白猫の尻尾をファフニールが摘まんでしまう。

 ジタバタとする白猫だったけど、床をひっかくばかりで前には進まない。


「待て。ストゥルルソン。お前、何をしようとしている?」

『炎か毒のブレスしか吐けないドラゴンは黙っているもきゃあああ』

「何か手を考えているのだな? ハチミツとやらを傷つけないような手を」

『スレイプニルならば余裕もっきゃ』

「分かった」


 納得したらしいファフニールが手を離す。

 そして、白猫が走り出す。

 颯爽と木の幹を直角に登った白猫は、枝の根元辺りで立ち止まり、ぶるぶると身を震わせる。

 

「にゃーん」


 気の抜けた鳴き声と共に、空気がピンと張りつめ凍てつく波動が見えた気がした。

 白猫がブレス? を吐き出したのだろうけど、目には見えないの。

 だけど、ぶんぶんしていたハチが動きを止めボタボタと地面に落ちていく。

 それに構うことなく白猫がハチの巣の元まで辿り着き、猫パンチを繰り出した。

 

『ファフニール。ちゃんと受け止めるもきゃ』

「分かった」


 すとーんと落ちてきたハチの巣をファフニールが片手で受け止める。

 

「ふむ。スレイプニルはフェンリルの技も使うことができるのか」

『こっちがオリジナルもきゃ。フェンリルなんぞと同じにしないで欲しいもきゃ』


 白猫に乗って地面まで降りてきたルルるんが両手を広げてファフニールに抗議した。

 ファフニールはルルるんのことをスルーして、ハチの巣をこちらに向けてくる。

 ん、んん。

 何だろうこのハチの巣。

 

「触れてもいいですか?」

「問題ない。だが、驚くかもしれぬ。俺がこのまま持っておく」

「はい。では……冷た! 冷たいですこれ」

「そうだ。だから、驚くかもと言っただろう?」

「ビックリしました。すごいね、スレイ」


 おっかなびっくり手の平をハチの巣に当ててみる。

 かっちんこっちんに凍っているわね。これ。

 すごーい。冷蔵庫がまだないから、白猫にお願いしたら氷が手にはいるじゃないの。

 砕くのが大変そうだけど。ううん、凍らせる前に工夫すれば大丈夫よね。

 今度、白猫のスレイに頼んでみようっと。

 

「ルルるん、スレイ。ハチの巣を持って帰ってもいいかな?」

『俺様もハチミーツとやらをもしゃりたいもきゃ』

「もちろんよ。みんなで家に戻りましょう」

『もっきゃもっきゃ』

「にゃーん」


 ハチの巣を回収した後はすぐに家にトンボ帰りする私たちなのであった。まる。

 

 ◇◇◇

 

 ハチの巣を砕いて(ファフニールが)、かっちんこっちんのハチミツとその他により分ける。

 中にハチが沢山いて……以下自主規制。

 「やだあ。佐枝子、虫こわーい」

 何て言っておくべきだった。

 ここで女子力を見せておくべきだったわ。

 普通にファフニールと一緒になって新に購入した小さなハンマーで砕いちゃった。

 虫は特に苦手じゃないのよね。怖がったふりをしてファフニールに縋りつく佐枝子なんて演出もできたはず。

 でもたぶん、変な動きになって失敗するだろうから、やらなくて正解よ。

 佐枝子は佐枝子のままがいい。ね、隊長?

 脳内の隊長に呼び掛けたら、彼はぐっと親指を突き出して白い歯を見せる。

 人間、素直にありのままでいるのが一番よ。駆け引きなんて知らないの。

 ほら、キャンディも言ってたじゃない。

 何て言ってたっけ? そばかすがどうしか覚えていないわよ。

 「それを言うなら、おてんばだぜ。さえちゃん」

 そっか、そうだったっけ。おてんばって今日び言わないね。隊長。

 でも、全くもってかすりもしていなかったわ。めんごめんご。キャンディちゃん。

 

「それでどうするのだ?」

「カチコチのままだと、常温になっても固まったままなんです。ハチミツって」

「飴のように食すのか?」

「いえ、湯煎します」


 鍋に水を張り、あ、湯煎しようにも他の器が。

 マグカップでいいかー。よおし、湯煎しちゃうぞお。

 ええっとさっきまで何を考えていたんだっけ。

 ステアがお空に旅立った? 違う違う。もういいのキャンディは。

 イライザだっていい子なのよ、たぶん。

 ファフニールとルルるん、白猫を待たせているんだから、ちゃんとしないとね。

 

 待つことしばし、ぐつぐつしているとハチミツがいい感じに溶けてきたわ。

 あ、そうだ。このハチミツを使って、お菓子を作っちゃおう。

 でも、先に昼食にしたいな。

 ルルるんがいたから、ハチミツの巣を取りに行っちゃったけど、元々ファフニールとお昼にするつもりだったんだもの。

 

 溶けたハチミツを小瓶(さっき購入した)に入れて、蓋をする。

 お皿にハチミツを少し垂らし、白猫の前に置く。ルルるんにも同じく小皿に垂らしたハチミツを渡した。


「ニールさんも舐めてみますか?」

「そうだな。一口頂くとしよう」


 スプーンでハチミツをすくい、ファフニール、私と順にハチミツを口にする。

 お、おおお。食べなれたハチミツの味だ。

 ハチの巣からちゃんとハチミツになるのねえ。

 ううん、これは「もふもふ牧場」だから簡単に市販のハチミツの味になるんだと思う。

 普通はこうはいかない、はず。

 でもいいの。このハチミツがおいしければ。佐枝子、細かいことは気にしないわ。

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