第22話 服を買ったの

 佐枝子ね。服を買ったの。

 なんか、安かったのよね。覚えてる? 

 システムに関係あること、ゲーム進行に関わりのあることの二つは「ゲームを楽しんでもらう」ためにお安い価格設定なの。

 理由はよく分からないのだけど、服とか家具みたいなコレクターアイテムだと思われるアイテムの中でもたまにお安いものがあるのよね。

 

 そんなわけで、お安い服と佐枝子らしい純白のパンツだけ入手したんだわ。これが。

 ブラジャーは必要な……布を巻いてればなんとかなる。ううん、この格好だと、サラシが似合うから。そうそう、それよそれ。

 

 色はこれしかなかった、仕方ない。

 蛍光オレンジで派手派手なの。大型肉食動物に「私ここにいるわよー」って餌アピールしているかのよう。


「朝の体操いきますー。確か工場では朝の体操から始めるとかなんとか。工事現場でもそうよ」


 おいっちにー、さんしー。

 ファフニールの作ってくれたテーブルセットの横で屈伸して、体をうーんと伸ばす。

 いいわね。さすがに動きやすいわ。

 おおっし。

 

「スコップを片手に肩からさげて、帽子が……ないわね。仕方ない麦わら帽子でいいわ」


 「おー、姉ちゃん、今日も精が出るねえ」なんて真っ黒に日焼けしたおじさんの声を妄想しつつ、佐枝子は向かう。

 現場へ。

 そうよ。事件は現場で起きている。

 

 分かったから、どんな服なんだって?

 仕方ないなあ。

 機能性抜群、何故か安かったその服とは、作業用の繋ぎである。色は蛍光オレンジ。

 ういいいっす。点検入りまーす。

 という言葉がよく似あう、作業着。これです。


「おおおいいっすうう! 八時だよ。朝だけど!」

 

 ついつい、体操でテンションがあがってしまったわ。きょろきょろと周囲を見渡し、誰もいないことにホッとする。

 蛍光オレンジの作業着と馬鹿にしてはいけない。なんとブーツまでついていたの。

 ごめんなさい。盛りました。

 可愛さの欠片もない、長靴です。黒にオレンジの線が入っていておしゃれ……なんていうと思ったの? 日焼けしたおじさん。

 

 ワンピース姿の可憐な少女はここにはいない。

 戦場に向かうJK佐枝子に隙はなくってよ。JKって女子高校生の略だからね。念のため。

 アメリカ大統領じゃないのよ。あれはJFKでしょ。えへへ。

 

「こうしちゃいられないわ。行くわよ。見ていなさいよお。一攫千金。大金持ちになるんだから」


 佐枝子はさっそうと歩きだす。

 あ、場所が分からないわ。でも、池の方かもきゃっきゃの方のどちらかにあるでしょ。

 

 ◇◇◇

 

「ありがとう。かわうそくん」

『うそはビーバーうそ!』

「はいはい。びばくん」

『分かればいいうそ』


 カワウソから魚を受け取り、アイテムボックスに仕舞い込む。

 お昼は魚の塩焼きだね。

 

 戦場は池から徒歩五分くらいのところにあったの。

 池を目指していたら、見えてきたのよね。だけど、先に池により、カワウソからお魚をもらっておこうと思って。

 彼がいると魚釣りをしなくて済むのでとってもラクチン。

 最初は騙されたビーバーじゃないと思ったけど、これはこれでよいものよ。

 ありがとう、カワウソ。ありがとう、ありがとう。

 

 感傷に浸っている場合じゃないわ。佐枝子。

 まもなく、戦いの場よ。

 

「そんなわけでやって参りました。砂場に」


 これ、砂場っていうにはちょっと。

 いえ、そんなことはないわ。これは砂場。

 見て、ちゃんと石の枠があるでしょ。枠の中が砂場なのよ。

 

「USA! USA! そうよ、これはアメリカンなサイズなだけ」


 円形の枠があってさ。

 そのサイズ、なんと半径300メートル(佐枝子の目視による)。

 砂丘みたいになっとるがな。まるでここだけ砂砂漠みたいー。

 砂砂漠って誤字じゃないのよ。

 砂漠というのは、いろいろあって礫砂漠とか……他にも……とにかくいろいろあるの!

 その中で砂砂漠というのは、きめ細かな砂でできた砂漠のこと。

 どう? 驚いた。余りの博識ぶりに。

 

「池もまあまあ広いけど、ここもなかなかね。行くわよおお」


 砂場に降り立つ。 

 スコップを振り上げ、後ろによたる。


「だって、女の子だもん。か弱いの」


 てへっと舌を出しても進まない。


「おりゃああああ!」

「サエ、どうしたんだ? そのような声を出して」


 こ、この声はファフニール。


「え、ええと。気合をですね。入れようとですね。スコップが重たくて」

「なら、俺がやろう」


 サラサラと白い砂になって風に流されたい。

 こんな声を聞かれちゃうなんて。

 茫然とする私が両手で掴んでいたスコップをファフニールが指先で挟み、クルリとスコップをその場で回転させ自分の方へ寄せた。

 

 きゃ、力持ち。男らしい仕草にきゅんとしてしまうものの、あの叫び声を聞かれてしまった事実は変わらない。

 彼は澄ました顔でトントンとスコップを指先で叩き、「ほう」と呟いている。

 私もスクワットを繰り返せば、彼のように軽々とスコップを回転させることができるんだろうか。

 練習してルルるんに自慢してやろう。きっと「もきゃもきゃ」言って悔しがるに違いない。

 

「サエ、砂を掘るのか?」

「は、はい。急ぐ作業でもないので」

「何か落としたのか?」

「いえ、砂の中に埋まっているといいますか、そんな感じです」


 要領を得ない私の返答に対してもファフニールは嫌な顔一つせず、スコップを地面に置く。

 きっと彼は手伝ってくれる気でいる。だけど、この作業は彼に秘密でと思っていたり。

 でも、せっかくの彼の好意。無碍にする佐枝子ではないわ。

 い、いえ。決して自分が楽をしようとかそんなつもりじゃないの。

 ちゃんと私なりに考えがあって、えっとね。

 

 ふわっと風が舞い、それほど髪の毛がぶわああっとなる。

 次の瞬間。

 

 砂場の砂がくるんとひっくり返った。

 変な表現だけど、地面から40センチくらい下からすくい上げられた砂がお好み焼きをひっくり返すように逆さまになって地面に落ちてきたの。

 

「あれか? 失くしたものは?」

「は、はい。探していたものです」


 砂の表面にキラキラ光る石が見える。

 親指の先くらいの大きさの色とりどりな石、いえ、宝石。

 原石じゃなく、しっかりと磨き上げられたそれらはこのままでも宝物になる。

 旧作「もふもふ牧場」でも砂場があって、そこでも掘り返せば何か発見することができたの。

 極まれに宝石類も出てきたりして。

 よい宝石が出たら、お金にかえずにお世話になっているファフニールにプレゼントしようと思っていたんだ。

 もちろん、そのままお渡しするんじゃないのよ。

 ちゃんと細工して、気持ちを込めてね。テーブルのお礼って。

 

「ニールさん。ありがとうございます。イルカくん、出てきたアイテムを全て回収して」


 イルカが尾びれを振ると、散らばった宝石類が全て忽然と消失しアイテムボックスに入った。

 

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