第19話 おともだち

 佐枝子サービスシーンのお風呂を済ませ、ドライヤーを。

 あれ、そうだったわ。ドライヤーは妄想の中でしか注文してなかったことを思い出す。

 てっきり、ドライヤーがある物だと思ってた、めんごめんご。

 え? サービスシーンを見たい? えへ、えへへ。ファフニールにも秘密なんだから。

 むふ、むふふ。

 ……我ながら気持ち悪さがやばいわね。

 むふふが許されるキャラってどんな子だろう。

 私? そうね、私ならなんでもいけるわよおお。

 きゃっきゃ。


「ダメ。佐枝子。もう耐えられない」


 ベッドで四つん這いになり、そのまま顔を枕に沈めた。

 お尻だけあがった姿はこの上なく間抜けである。

 間抜けって言うなあ。誰だよ、そんなこと言ったの。

 

「私だよ!」


 何だかこのノリ、久しぶりね。

 でもこんなことをしていたら、眠くなってきていつの間にかすやあっとして朝になっちゃう。

 いろいろチェックしたいこともあるし、あ、そうだそうだ。

 

「イルカくん、リンゴを出して」


 すとんとベッドの上に真っ赤なリンゴが落ちてくる。

 梨には思わぬ効果があったけど、リンゴはどうなんだろうね。

 男らしく服の裾……はないからワンピースの裾をたくし上げてきゅっきゅとリンゴをふきふきする。

 あ、パンツ丸見え。

 でも誰も見てないし、問題ないわ。


「下着、寝る時は外して洗っちゃうほうがよくない?」


 いえ、いっそのこと全裸で寝れば、ワンピースも洗えるじゃないのお。

 そうと決まれば、裸族佐枝子、爆誕ね。

 

「ちょっと待ってええ。ダメよ。それはダメ」


 ぐーすか寝てて、ピンポーンとファフニールが来たとする。

 寝ぼけて思考力が赤ちゃん以下になっている佐枝子は、そのまま扉を開けるだろう。

 きゃー。えっちいい。

 な展開になっちゃうじゃない。

 

「さて、冗談はこれくらいにしておいて。ぱふぱふー。きゃー。本日の清算を始めます」


 しゃりっとリンゴをかじりながらアイテムボックスをじーっと見つめる。

 ふむむ。リンゴの価格は梨と同じなのね。

 果樹からとれる果物の価格は全部同じってことかな。旧「もふもふ牧場」とここは同じ仕様みたい。

 作物も含めて全部どーん。

 やったー。ゴルダが増えたよ。

 世の中やはりお金なの。お金がないと何も買えないんだから。

 

 おや、何だかお金がいつもより多い気がする。リンゴを売ったからかなと思ったけど、梨を売っていないから昨日までと収入はそれほど変わらないはず?

 

「佐枝子おお。大事なことを忘れていたでしょお」


 誰に言ってんのよ、って話だけど、もちろん佐枝子が佐枝子に向けてである。

 言わせないでよ。恥ずかしい。

 痛い子とか思っているでしょ。そんなことないもん。ないんだからね。

 

 賢い佐枝子は思い出した。

 ミッションとイベントを同時にクリアしていたんだった。

 

 注目はこの二つ。

<地形:砂場 が解放されました。

 「おともだち」が解放されました。>

 

 「砂場」と「おともだち」かな。

 あとはプレゼントが届いているってことだから、そっちから見ようかしら。

 

「ええっと。どれどれ。スコップと虫取り網に麦わら帽子だって。び、微妙過ぎない?」


 この私に小学校低学年の男の子のような虫取りをやれとでも。

 波打ち際の砂浜で優雅にくつろぐ麦わら帽子の美少女なら、似合う。うん、似合う。

 美少女万歳。

 

「それで、美少女はどこに? ここだー」


 本日二度目の四つん這いになる。

 ずぶずぶと枕に顔を沈め、その動きに合わせて膝も真っ直ぐに伸ばす。

 

 しばらくそうしていたら、いつの間にか眠っていた。

 

 ――翌朝。

「……むにゃー。あと五分。あと五分で佐枝子再起動するから、ね」


 憎き朝の光が襲い掛かる。

 学校に行きたくないよお。私のお友達は布団なの。だから、一緒にいるんだー。

 

「……っは! またしても寝てしまったのね」


 確かプレゼントされたアイテムをチェックしていたところだったっけ。

 最後の方は記憶があいまいなんだけど、うつ伏せのまま寝てしまったようだった。

 

「すぐに動きたいところだけど、ちゃんと最後まで見ておこう」


 一つ目。地形が追加されたいるとのこと。

 砂場かあ。プレゼントに入っていたスコップで砂を掘って遊べと? いやいや、そんなわけないってばさ。

 砂場を掘るとたぶん、何らかのアイテムとかそんなものを掘り当てるに違いないわ。「もふもふ牧場」的に。

 お城を作って、容赦なくホースで水攻めして崩すなんて遊びをするためだけじゃ断じてない……よね?

 地形と言えば、池もファフニールと一緒に訪れて以来行ってなかった。

 肉も魚も食べてないぞ。

 魚釣りしないと、だよね。

 

「砂場は、暇なときに見学ってことで。次、『おともだち』ね」


 コマンド一覧の中に「おともだち」という項目が増えている。

 「おともだち」を選ぶと、懐かしのシステムメッセージが現れたの。

 

<おともだちを一人選ぶことができるよ。おともだちはキミの生活を手伝ってくれるんだ>

「ふーん。悪くないわね。お掃除洗濯、いろいろ……」


 ワクワクしながらメッセージを進める。

<この中から選んでね。今後はイベントかミッションクリアでおともだちが増えることもあるよ>

「ふむむん」

<カワウソ、ビーバー、カラス、ハト、猫、シロクマ、パンダ、カンガルー、ワニ、モグラ、ハシビロコウ、キリン>

「何この統一感なさすぎな、おどもだちくんたち……」


 うーん。どの子も家事のお手伝いは難しそうよね。

 何を手伝ってくれるのか想像しやすいおともだちとそうじゃないおともだちがいる。

 たとえばキリンだと、高いところに成った木の実とか果実を取ってくれる、とかじゃないかな。

 イルカに頼めば即回収できるし、必要ない、たぶん。

 ゲームとして楽しむなら、見た目で選ぶところなんだろう。お手伝いしてくれる動物の姿を楽しむってところが「おともだち」システムだよね。

 しかし、しかししかし。

 私の場合は現実なんだ。

 だから、自分でできないことやめんどくさいこと、時間がかかることを手伝ってくれるおともだちがいい。

 

「モグラくん。砂場で自動堀かなあ。食べ物の方が私向けよね。となると、池のお魚を確保してくれそうな子がいいわ」


 となれば、カワウソかビーバーね。


「カワウソくんかビーバーくんなら、どちらにするかは迷わないわよ。ビーバーくん、君に決めた」


 ビーバーは藁とかを使って自分のお家を作る。

 そこが拡大解釈され「もふもふ牧場」だったら、生け簀みたいなものを作ってくれるかもしれない。

 カワウソでも魚をとってきてくれそうだけどね。

 

「イルカくん、ビーバーを選んで」

<おともだちにビーバーが追加されました>


 追加されました、はいいけど、目の前に現れるわけじゃないのね。

 池にいるのかな?

 行ってみよう。

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