第6話 友なのだからな
「ごちそうさまでした!」
「久しく調理した料理など食べていなかった。感謝する。サエ」
手を合わせてごちそうさまの礼をすると、ファフニールも見様見真似で同じように手を合わせていた。
儀式か何かだと思われちゃったのかも? 神妙な顔をしていたし。
「手を合わせるのは習慣というか、そんなもので」
「祈りを捧げているのだろう? 俺は祈る神など持たぬが、お前の神に感謝を伝えたい」
「食事の、ですか」
「そうだ」
自分のためには祈らないけど、私が用意した食材だからということだったのね。
鋭い目つきの彼はぶっきらぼうで怖い人に見えるかもしれないけど、彼の在りようはすごく清らかで真っ直ぐでとても眩しい。
私もこうなれたらいいな。
「長居してしまったな」
食後のコーヒーを飲み干したファフニールがすっと立ち上がる。
そうだよね、うん。ずっとここにいてくれるわけじゃないのは分かっていた。
彼にだって住む家があるんだし。
「ファフニールさん、絶対、絶対、また来てくださいね!」
「何を言ってるんだ?」
「だ、駄目ですか……」
「そもそも、この地は『俺の領域』だと言っただろう? 自分の庭を訪れぬ家主がいるものか」
「ファフニールさん!」
スラッとした腕を伸ばしベンチにコップを置いたファフニールは、独り言なのかボソっと呟いた。
「……友なのだしな」
「ファフニールさん? 今なんて?」
「世迷い事だ。気にするな」
「は、はい」
強い目線で睨まれ、しゅんとなる。
「そんな顔をするな。お前は本当に表情がよく変わる」
「ファフニールさんが変わらなすぎなんです……」
ぶすうとすると、彼は僅かばかり口端をあげ呆れたように首を回す。
な、何よお。子供扱いされたような気がするぞ。
私、子供のようなワンピースを着ているけど、子供なんじゃないんだからね。
「次会う時までに、俺の呼び方を考えておけ。ファフニールという名は口にするのは憚られる」
「ニールさん、でもいいですか?」
「それでいい。じゃあな」
軽く足先だけで跳躍したファフニールは、屋根の上を悠々と超える高さまで到達し、そこでドラゴンの姿に転じた。
ほええ。と彼がばっさばっさと翼を羽ばたかせ飛んでいく姿を眺める。
彼の姿が見えなくなってから、彼の使っていたカップを拾い上げぎゅっと胸に抱きしめた。
「ニールさん! ありがとうございます!」
もう見えなくなってしまった彼の飛んで行った方向を見上げ、声を張り上げお礼を述べる。
さ、まだまだ日は高いし、「地形」の散策に行こうかな!
昨日は確か、家が見えなくならないようにぐるっと周回したんだっけ。
追加されたのは「地形:池」と「家畜:牛」の二つ。
「家畜かあ。うしさんがいれば、牛乳にチーズ……う、うふふ。いいわよ! 佐枝子、乳製品ゲットよ」
家の右側が畑だから、左側に牧場を作ってみようか。
てくてくと家の左側に回り込み、んーと伸びをする。
あれ? 一面の野原にポツンと木が立っているのが見えた。
「一日経過したから、『ポップ』したのかも。う、うーん。いいや、先に牧場からやろう!」
よおし。順番にこなしていけばいいんだ。
ゆっくり焦らず。食糧は種を植えてさえいれば、尽きることはない。
野菜とパンだけになっちゃうけどね……。でも、食べられないことに比べれば、贅沢っていうものよ。
「イルカさん、ここに牧場を作って」
両手を広げ、場所を示すと意図した場所に木の柵が出現した。
ぐるりと取り囲んだ木の柵と、小さな厩舎。
これが牧場の全容だった。
牧場も最初に作成するときは、畑と同じでイルカにお願いするだけでどどーんと作成できるんだ。
コマンドから家畜一覧を表示させ、愕然となる。
「牛、結構お高いのね……」
家畜はゴルダで「購入」しなきゃ、手に入れることができないの。
種が無限仕様なのだから、家畜も同じでいいじゃない。
……愚痴をこぼしても仕様は仕様。変更することは叶わない。
乳牛は一頭1000ゴルダでした。肉牛だと800ゴルダだけど、肉牛は……私の気持ち的に辛い。
さっきまで可愛がっていた牛を肉にして食べることなんて、想像しただけで背筋がゾワゾワして血の気が引いちゃったんだもの。
他に選ぶことができる家畜はいないから、家畜は明日まで保留にしよう。
作物を売れば、ゴルダが手に入ることだし、ね。
一日の食事量を見てから、余裕を持たせて作物を売っていけばすぐに牛を購入できる!
「待っててね。うしさん!」
もし私が今1000ゴルダ持っていたら、即使っていたかもしれない。
でもこれはきっと、あればあるだけお金を使うなと誰かが言ってくれていると思うことにしたの。
楽天家で後先を考えないことが多々ある私だけど、ちゃんと考えて使わなきゃって。
それで「余裕を持たせて」なんて考えることができた。
ん? お金が足らなくなったのってファフニールと食事をするために粉ひき(石臼タイプ)とかを購入したから?
「ありがとう、ファフニールさん」もう何度目だろう。彼にお礼を言うのは。
ここで先に牛を購入していたとしたら、粉ひき(石臼タイプ)やパン焼き機を買えなくなっていたかもしれない。
そうなると……ひええ。青い顔でぶんぶん首を振る。
これ以上考えないようにしよう。うんうん。
「よっし、あの木をチェックよ!」
気持ちを切りかえ、ポップしたと思われる木のところまでダッシュする。
……はあはあ。
ちょ、ダメ。
「う、うう。体力が落ちてない? こんな距離で息があがっちゃうなんて」
木の根元で両手を地面につき、肩で息をする。
そのまま顔だけを上にあげ、緑の葉っぱをつける気の枝へ目をやった。
木がポップして……確か翌日には果実をつけたはず。
果実が実る種類の木だったら、だけどね。
「もしかしたら、身体能力が落ちているのかも? もふもふ牧場のキャラクターのようになっちゃったから? だったら、このワンピースを脱げば」
そうか。全部脱いじゃえば、元の私みたいにカモシカのように走ることができるかも?
ごめんなさい。かなり、盛りました。めんごめんご。
こんな私ですが、トラック一周くらいならジョギング余裕です。二周は無理です。だって500メートル以上あるんだもの。
「よし、脱ごう。そうすれば、元のグレート佐枝子になるわ」
ワンピースに手をかけ……。
待って、待って、ちょっと、佐枝子。それはおかしい。
何で私が大草原の真っただ中で全裸にならなきゃならないのよ。どんな罰ゲームなのさ。
誰? 脱げなんて言ったの?
「私じゃない!」
一人乗り突っ込みをして頭を抱える。
……ま、まあいいわ。結構、気持ちが前向きになった気がするもの。
でも、もう少しで全裸ダッシュするところだったわ。危ない危ない。
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