It's magic!

@orga29

第1話

目の前には美女の笑顔。周囲から向けられる羨望と期待の視線。そして、


「君だよ君、はい一万円出して。」


その口から発せられる恐ろしいセリフ。


赤坂裕二は大学の小さなマジックサークルが開催するマジックショーを見ていた。入学したてで勝手もわからず学内を一人でうろついて居たら辿り着いてしまったのだ。


ちなみに裕二に人を頼ると言う選択肢は無い。元々内気だった彼は、その鋭い目つきと威圧感のある高い身長が拍車をかけ、コミュ障となってしまっている。


そんな彼はとりあえず中川瑞希(ショーの最初にそう名乗っていた)のマジックを、人だかりの隅の方から覗くことにした。


実に見事だった。瑞希は観客が選んだトランプを束の一番上に出現させたり、ボールペンで紙を貫通し、それを元通りにしたりした。


何よりめちゃくちゃ可愛かった。女優の様な美しい見た目に加え、多少たどたどしい部分はあるが観客を楽しませる話術もある。自分とは正反対の存在だな、などと裕二はぼんやり考えていた。


で、突然彼女は一万円札を要求して来たのだ。観客の隅にいる裕二に向かってピンポイントに。


「えっ?」

「いや、だから次の手品に使うんだよ。お願い!」

「それは、千円札じゃ駄目なんですか?」

「いや、それじゃ儲けが、、、じゃなくて一万円札が一番やりやすいんだよ。頼むから!」


え、俺女の子と普通に話してる?ていうか美女の頼みは断っちゃだめだよな。いやでも「儲けが、、、」って絶対帰ってこない気が、ていうか皆こっち見てるどうしよう。


色々な感情が混ざりあい、思考がショートした結果、いつの間にか裕二は瑞希に一万円札を手渡していた。


そこからはよく記憶が無い。瑞希が手に持った一万円札にハンカチを被せた次の瞬間、もうそこには何も無かった。で、そのままショーは終了した。


次に気が付いた時には部屋にはいつの間にか他の観客は居なくなっていて、瑞希が目の前に立っていた。


「おーい大丈夫?」


その声で我に帰った僕は、すぐに彼女に抗議した。


「いや返して下さいよ!」

「えーっ、じゃあ入部してくれたら返してあげようかな。」


そう言って彼女は笑った。


その後また記憶が飛び、いつの間にか僕は入部届けにサインをしていた。


多分あれだ。あれは一目惚れさせる、とかそういうマジックをだったんだ。




中川瑞希はテンパっていた。さっきから観客の一人に目が言ってしまう。高い身長、鋭い目、の割には大人しそうな雰囲気。完全にタイプだった。


やばいやばい。いつもよりギクシャクしてしまう。ていうかあの子の名前知りたい。どうしよう。あ、そうだ、お札消すやつに協力してもらえば!で、一万円札奪っちゃえば会話出来る!


「君だよ君、はい一万円札出して。」








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