第6話 猫パンチ

 ペチペチと何かに頬を叩かれているような気がする。

 この感触は……なんだろう。不思議な感触だ。

 柔らかいのに弾力があって、叩かれるたびに全身に快感が行き渡る。

 当たっているのは手、かな?

 まあ、いい。とりあえず目を開けてみよう。

 僕がゆっくり目を開けると、そこには……。

「おはよう。変態さん」

「……ああ、ここはきっと天国だ。じゃなきゃ、こんなに美しい黒猫様が僕の頬をフミフミしてくださるわけがない。うん、きっとそうだ」

 僕が目を閉じようとすると、黒猫様は僕の耳元でこうささやいた。

「残念ながら、ここは天国じゃないわ。ということで……」

 黒猫様は僕の首筋に猫パンチをくらわせた。

「起きなさーい!!」

「あああああああああああ!! ありがとうございます! ありがとうございます! もっと! もっと僕をいじめてくださいー!」

 黒猫様はシッポを僕の鼻にこすりつける。

 は、鼻がムズムズする。

「はっ、はっ……ハックション!」

 僕は鼻の下を指でこすりながら、目を開けた。

 体が痛い。そりゃそうだ。だって、ここは玄関なのだから。

 僕はゆっくりと上体を起こす。

 その直後、黒猫様が僕の胸に飛び込んできた。

 僕は黒猫様をキャッチする。

 ああ、柔らかい。あったかい。あと、肉球の感触が心地いい。

「はぁ……やっと起きた。気分はどう? 変態さん」

「あー、はい、最高です」

「うわっ、キッモ。あたしみたいな猫に殴られて喜んでるの? あんた、ドMなの?」

 そうではない……はず。

「ち、違います! 猫以外で興奮できないだけです!」

「えー、何それー。気持ち悪い」

 何と言われようと、その事実が変わることはない。

「褒め言葉として受け取っておきます」

「あっ、そう」

 黒猫様はしばらくの間、僕の膝の上で丸くなっていた。

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