第14話 キスの効果

 アンジュが恋愛と言うものに疎すぎということが判明したのだが、

 不憫なレイモンド決死のキッスには思わぬ副次効果がついてきた。


「すごいじゃないか!

 どうしたんだアンジュ?」

「これが……浄化の力」


 そう、浄化魔法が少しだけ使えるようになったのだ!


 と言っても、ほんのわずか。

 瘴気を少しだけ晴らすくらいの力しかなく、

 魔王どころか魔族を倒すなんて到底無理な弱々しさである。


 しかしみんなは喜んだ。


 少しは前進したということで、

 私も当分は理事長に嫌みを言われずに済みそうでほっとしている。




 そんなアンジュたちは今、課題に出掛けている。


 私もアンジュに誘われたのだが、恐らくイベントがあった気がして断った。

 私がイベントとして参加できる課題はそんなに多くないのだ。



 完全別行動で、ショボいダンジョンを一人でもぐりながら考える。


 私の前世の記憶はまだ曖昧なところがある。

 レイモンドのキスの時みたいに、こういう出来事が起こるとわかっているときもあれば、

その時になってああ、確かにこんなイベントだったと思い出すパターンも多い。


 逆ハールートのアンジュの覚醒方法が、いまだによく思い出せないが……。

 レイモンドのキスで少し覚醒が進んだということは、

 おそらくは他の人ともキスして、攻略対象全員とキスすれば完全覚醒になる可能性が高いと睨んでいる。



 これからアンジュは逆ハーレムルートを驀進して行くはずなので、

 何かしら恋愛イベントが今起きているはずだ。


 また誰かに唇を奪われるのかもしれないな。



 よく考えるとヤバイシナリオだよね、逆ハールート。


 残念ながら課題イベント中はシルヴィは不参加なので、もうキスシーンは拝めないかも……。

 学園内でやってくれればなぁ。こっそり見に行くんだけど。



 しかし、問題はそこじゃない。

 逆ハールートが進んでいるというのが問題だ。

 断罪が一歩一歩と近づいている。


 なんとか阻止しなければならない。


 でも、私にアンジュを覚醒させることはできない。

 そうなると世紀末というか、断罪回避しても魔王に滅ぼされちゃうことに気づいてしまった。



 それはちょっと嫌なので、私は完全に手をこまねいている状況なのであった。


 つまりは、断腸の思いで逆ハー推進し、魔王を倒してもらってからどうにか断罪を回避するか、

 もしくは今一歩リードしているレイモンドに頑張ってアンジュを勝ち取ってもらうか。

 でも後者はね……厳しいと思うんだよね……。

 レイモンドには悪いけど……。

 



 なので、逆ハーをそれなりにやってまずは覚醒してもらう。


 そこからなのだが……。




 私の記憶が頼りである。

 アンジュが覚醒して、魔王を倒す。

 それから断罪があるまでにどうにか対処ができないものか?

 今はゲームの後半に差し掛かった頃だ。

 なので、まだ時間はある。

 よく考えて、綿密な作戦を立てて実行し、何がなんでも成功させなければならない。

 しかし全く思いつかない。無理ゲー。



 あとは、万が一断罪されて追放されても一人で生きていけるように、

 私は必死に剣と魔法の習得と、金策に励んでいるのであった。


 その甲斐あって、ショボいこのダンジョンの攻略は剣だけでもできるようになった。


 アンジュの指導のお陰である。


 明日はもう少しランクを上げたダンジョンで、攻撃魔法の練習でもするか。


 追放されたら娼館なんぞに連れて行かれる前に逃げて、冒険者になるつもりなのだ。

 冒険者は経歴関係ないし、冒険者証が身分証明証にもなる。

 幸いシルヴィは珍しい治癒魔法の使い手だから、

 そこそこな強さがあれば需要はあるはずだ。

 チームを組むなり、一人で行動するなりしてこの国を出て、好きに生きる。


 そのためにとにかく腕を磨いているところだ。



 自分の強化に逆ハー阻止、というか断罪阻止作戦、

 やることは山積みだが、一つずつこなしていくしかあるまい。



 すべては可愛いシルヴィたんのために!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る