第11話 聖女様の信頼
どうしようどうしよう。
さすがにあれは、まずい。
完全に誤解された!
頭から布団をかぶり、とにかく自分の震えが収まるのを待つ。
こんなんじゃダメだ、シルヴィ。
アンジュが来たら正直に話そう。
話してもわかってもらえないかもしれないけど……。
でも私、アンジュに敵意なんて持ってないもの。
もしわかってもらえないとしたら、できる限りアンジュに近寄らないことを約束しよう。
お目付け役をつけさせてもいい。
とにかくアンジュにだけは、わかってもらいたい……。
そんなことを考えていると、少し落ち着いてきた。
そこへ、アンジュが帰ってくる……。
「あ……アンジュ!」
「シルヴィ……」
目を伏せるアンジュの方へ走り寄ると、さっと前に立ちはだかる影。
私を睨むのは、クローヴィスだ。
「また危害を加えるつもりか?」
「ち、違うんです!
本当にごめんなさい! あれは……バケツが勝手に、」
「言い訳など見苦しい」
「待て、クローヴィス。
……シルヴィ、話を聞かせてくれ」
私は必死に説明した。
たまたま入ったトイレに置いてあったバケツが、勝手に浮いて窓の外に出ようとしたので、それを止めようと手を伸ばしたこと。
アンジュが下に居たことは知らなかったし、アンジュに酷いことなんてするつもりはなかったこと。
黙って聞いていたアンジュは、俯く私の肩に手を置いた。
「私は君を信じるよ、シルヴィ」
「あ、アンジュ……! ありがとう……!」
何て心の広い! 正に、正しく貴女は聖女ですっ!!
私はアンジュに抱きついてひたすらに謝り、そして半泣きで感謝を述べた。
アンジュはそんな私の背中をポンポンと優しく叩いてくれる。
「な、なんと言う……貴女は心根まで聖女なのか……!」
クローヴィスが私と似たようなことを呟きながら感銘を受けていた。
アンジュはクローヴィスに向き直る。
「そういうことだから、さっきの話はなかったことに」
「……いや、そういうわけには。
これは理事長の決定でもある。いくら僕でも、おいそれと変更することは……」
「む。それなら私が直接行くか。
……シルヴィ、行くぞ」
「な、なに?」
むんずと手を掴まれて、そのまま連れていかれる。
さっきの話ってなんぞや?とアンジュに聞くと、私との同室を解消する話になっていたらしい。
まあ、そうだよね。
「皆が納得できないなら、仕方ないかもね……」
「私が問題ないと言っているのに?」
「だって、アンジュは聖女だもの」
この国にとっては、王族よりも立場が上なのだ。
彼女がいないと魔王に対抗はできても、その力を押さえることはできない。
つまりは国の滅亡、ひいては世界の滅亡が早いか遅いか。
アンジュが浄化魔法を使えるようになれば、滅亡を防げるのだ。
アンジュが聖女として在るだけでも、多少は魔王への力の集積を抑えられているみたいだし。
そんな聖女に対して狼藉を働いたと思われてるなら、その決定もさもありなんという心境だ……。
むしろ甘いのでは?
そうか、だからゲームのシルヴィは断罪されて追い出されてしまったってことだよね。
ここから先、本当に気を付けないと、間違いなく断罪コースになってしまうってことだろう。
もしかして、断罪されるのって本当は逆ハールートが問題じゃなくて、ゲームのシルヴィたんがやらかしたのが原因だったのかな……?
このまま逆ハーになるのをほっておいて、アンジュに変なことしたりしなければ、断罪まではされずに済んだり……?
しかし、その甘い考えは後程、打ち砕かれる。
アンジュの直訴に、理事長は渋々同室の取り消しを取り消した。
しかし、その後。
話があると残された私に、理事長はこう言ったのだった。
「聖女様があれほど言うから今回は許すが、次はないぞ」
「はい、わかっております」
「お前の仕事を忘れるな?
聖女様の覚醒の手助けをする。それがお前の仕事だ。
それができないようなら、消えてもらう」
「……」
消えてもらう。
その言葉がどういう意味を含むのか。
私にはわからない。
文字通り、存在を消されるのか、この学園から消えるということなのか。
どちらにせよ、逆ハーを放っておけば、役目放棄と思われて消されかねないと言うことだけは、確かだった。
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