第17話 アンジュの変身

 私が作戦失敗を悟り内心で落ち込んでいる中、

 アンジュはそれでも難しい顔をして私を見つめ、

 ぶつぶつと呟き続けている。


「そうか、なら良いのだが……。

 それにしても、どう言うことだ……。

 髪の色まで変わってしまったのか……。

 私もここまで1人に干渉したことなどなかったから、

何かしらの弊害が出ているということか……?」

「アンジュ……」


 私は無言でウィッグを取り、髪をもとに戻した。

 アンジュはあんぐりと顎が外れんばかりに驚いている。


「ど、ど、どうなってんだ!」

「ウィッグだよ」

「ああ、かもじか……! な、なぜ?」

「いや……。何となく、驚かせたくて?」

「驚かせたい!?」

「あー、ほら、ずっと一緒にいるとマンネリするじゃん?」

「まんねり?」

「飽きがくるって言うか」

「飽きる!?」

「ものの例えだよ! ちょっと気分を変えようとしただけ!」


 アンジュがすごい顔でいちいち反応してくるので、

 適当な言い訳を適当に流せずに適当に誤魔化さざるを得なくなってしまった。


「シルヴィ……。私に飽きたのか!?」

「いや、飽きてないよ。

 全然飽きてない」



 どうどう、とアンジュをなだめる。

 どんな倦怠期カップルの会話だよ。


 アンジュは渋い顔でなにやら真剣に考えた末、重苦しく頷いた。



「そうか、私に飽きられないようにしたいと思ってくれたということか」

「……。う、うん。そうだよ」


 もうそういうことにしておこう。

 アンジュは私の返答に満足したらしく、

 にっこりと笑ってウィッグをまた私の頭にのせた。


「そうか、それはうれしいな。

 でも気にしなくていいぞ。私はシルヴィに飽きてないからな。

 でもせっかくだから今日はこれでいこうか?」


 そう言いつつ、なにか思い付いた顔をして、

 今度はニヤリと笑った。


「私もシルヴィに飽きられないように少し工夫をしてみるか。

 さあ、目を閉じて」

「え? なに?」


「良いから」


 にんまり笑うアンジュの手に目を塞がれて、

 大人しくされるがままになる。


 そして手が離れたので目を開けると、

 そこには。



「……誰?」


「ふふ」



 恐ろしいほどの美青年が立っていた。


 え?  ちょっと待ってよ。

 いくらなんでも、アンジュの手が離れてから数秒で入れ替われるはずがない。

 と言うことはこの神々しい美青年はアンジュ……だとは思うのだが、

 いやいや待ってくれ。

 どう見ても男になってるんだけど!?


 アンジュ?が涼やかに微笑みかけてくる。

 やばい、言って良いか?



 ドストライク……!


 アンジュの面影は確かにあるけど、

 柔らかい雰囲気に涼しげな目許。

 スッと伸びた鼻梁に、形よい唇。


 アンジュだけどアンジュじゃない。

 控えめに言って死ぬほど格好いい。

 鼻血出そう……。

 え、いま乙女ゲームの隠しキャラと邂逅してるとかないよね?


「驚いた?」

「おっ、驚いた……」


 声も、イケボになっているじゃないか!


 首には喉仏。そして、私が揉んだこともあるあの巨乳は消え、

 しっかりした胸板に変わっている。


 さすがに下半身を確かめることはできないが、

 どっからどう見ても性別変わってますがなー!



「な、な、何がどうなって……」

「ふむ。まあ、私だからね」

「説明になってなーい!」



 ふふふと笑う青年の顔をまともに見られない。

 かっこよすぎる……!

 神々しいのは前からだったけどさぁ!


「まあ、良いだろう? 気分転換というやつだよ。

 シルヴィと同じ」

「私と同じなわけないでしょ!」


 プイッとするが、アンジュに顔を覗き込まれる。


「? シルヴィ、顔が赤いけど大丈夫か?」

「! だだだ、大丈夫!」

「大丈夫そうに見えないぞ。どれ……」


 アンジュが私の顔を両手で包み込み、

 おでこをくっつける。

 ヒエッ!


 息が止まりかけたが、アンジュはすぐに解放してくれた。


「熱はなさそうだな」

「ななな、ないよ!」

「辛くなったら言うんだぞ」

「あ、ありがとう……」


 言動はいつものアンジュなのに、

 顔がイケメンになっただけで心拍数がヤバイ。


 聖女は性別すらも超越するのだろうか。

 それともアンジュの魔法がすごいのだろうか。

 性別を変える魔法なんて聞いたことがない。


 私がチラチラと見とれつつ思考していると、

 アンジュが声を上げる。


「あ」

「?」

「ふむ。

 ……さすがの私も今は決め事の範疇に納められてしまうということか」


 なにやら小さく呟くアンジュ。


「ん?」

「時間切れだな」


 また目に手を当てられ、その手が離れたときにはもとのアンジュに戻っていた。


「ああ、アンジュ……」

「少しは楽しめたか?」

「うん、まあ……」


 私の返事にニヤリと笑って、

 アンジュは私の手を引いて街にくりだしたのだった。


 そのあとは楽しく遊んだ。

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