クリードの答え

 ラスピルと向かったのは、学園の外れにある小さな東屋だった。

 周りには誰もいない。近くにルーシア、レオンハルトが待機しているが、クリードとラスピルの会話を邪魔することは決してない。

 ラスピルは、東屋の椅子に座ったまま言う。


「知ってると思うけど……お母様が亡くなったの」

「…………」


 何を言えばいいのか。

 そもそも、なぜレオンハルトとルーシアではなく自分なのか。

 クリードは、慎重に考える。


「私ね、ラミエルお姉さまに……『次の女王になれ』って言われたの。お姉さま、私とお話することなんて殆どなかったのに……」

「…………受けるのか?」

「わかんない……私が、女王? ふふ、なんでだろうね」

 

 ラスピルは、クリードを見て曖昧に微笑んだ。

 何が言いたいのか? クリードには読めない。


「それに、リステルお姉さまが女王になるって言ったの。リステルお姉さまがだよ? 私なんかより強くて、カッコよくて……でも」

「……納得できない、だろ?」

「うん。たぶん……お姉さまが女王になったら、この国は暗くなる。なんとなくわかる……お姉さまは、別の方を向いている。お姉さまの眼、すごく……怖かった」

「…………」

「ラミエルお姉さまが女王に、って思ったけど……もう無理。お姉さま、私を補佐するみたいなこと言ってたし、王城内でも『ラスピル派』と『リステル派』に分かれてる。私の意志なんてない……」

「…………」

「私、どうすればいいのかな……自信、ないよ」


 クリードは、何も言わずラスピルを見た。

 ラスピルは、そんなクリードを見て微笑む。


「不思議……あなたになら、こんなことも話せちゃう。レオンハルトくんやルーシアもいろいろ気遣ってくれるけど、クリードくんとは違う……」

「…………」


 クリードの胸が、高鳴る。

 本来の目的を思い出し───口に出した。


「女王に、なれ」

「……え?」

「お前は、この国の女王になるべきだ」

「───……」


 ラスピルは、ポカンとしていた。

 そして、すぐに笑う。


「あははっ! すっごくストレートだね……できるかな?」

「できる。きっと、お前の姉が助けてくれる」

「お姉さまが……」

「ああ」

 

 ラスピルは、ふふっと微笑み立ち上がった。

 そして……クリードの前に立ち、顔を覗き込む。


「一つ、聞いていい?」

「……ああ」

「あのね、野外演習の時……私、少しだけ記憶が抜けてる時があったの。よく覚えてなかったけど、少しだけ思い出した……あの時さ、クリードくんが傍にいてくれた気がするの」

「…………」

「黒いコート、フードを被って、生徒会の人と戦ってた気がする。たぶん寝ぼけてたのかなって思ったんだけど……よく考えたら、あの時からだったかも。生徒会のメンバーが、家庭の事情で学園を辞め始めたの」

「…………」

「なぜか思ったの……昔、お母様が話してくれたこと。この世界には、『影』に潜む者がいる。って」

「…………」

「アサシン。この言葉の意味、わかる?」

「……さぁな」


 クリードはラスピルから離れ、東屋を出た。 

 すると、ラスピルがクリードの背中に向かって言う。


「私、ずっと守られてた気がする。例えば、わざと私にぶつかって食事を台無しにして、毒薬を飲ませないようにしてくれたりとか! 私の知らないところで戦ってくれたりとか!」


 クリードは、もう聴いていなかった。

 そのまま、静かに歩きだした。


「ねぇ、クリードくん! また……また、お話聞いてくれる?」

「…………ああ。でも、その前に」


 クリードは振り返る。

 その表情はクラスメイトとしてではない。アサシンとしての表情だった。


「最後の仕事を、終えてからだ」

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