王女暗殺計画

 クリードは、第二王女ラミエルに呼び出された。

 場所は風紀委員室。人ばらいを済ませ、さりげなくレオンハルトを教室外に配置している。

 ルーシアは、ラスピルと買い物に出かけた。先日の一件で沈みがちなラスピルを気遣い、ルーシアとその友人たちが気晴らしにと提案したのだ。

 もちろん、こんな状況で出かけるのは……とクリードは思う。

 だが、ルーシアがどうしてもというので仕方なしに許可した。

 ラミエルは、そんなクリードに言った。


「全く、こんな時にお出かけとはね」

「俺もそう思う。どうも『親友』は対象へ情が湧いているようだ」

「あなたは?」

「…………仕事だ」


 ラミエルの問いに、咄嗟に答えが出なかった。

 クリードにとってラスピルは護衛対象でしかない。だが、温かな何かをクリードは感じていた。

 ラミエルは特に気にせず、本題を言う。


「第一王女リステルの暗殺を……お願いするわ」

「……正気か」

「残念ながらね。でも、もう他に手段はない」

「間違いなく、お前が疑われるぞ」

「そうね。だからアサシンにお願いしているの。証拠の残らない事故死……これしかないわ」

「…………」

「難しいのはわかってる。でも、あちらもラスピル暗殺を企てているのは間違いない。もしかしたら、私を殺す計画もあるかも……」

「だが、あちらの手駒は薄い。十傑はほぼ壊滅状態、一般騎士はいるだろうが、隠密行動に長けた者はほぼいないはず……」

「その情報、信じるに値する?」

「ああ」


 『執事』と『貴族』と『貴婦人』が集めた情報だ。

 この三人は、貴族の立場を利用して、ジェノバ王国の入出国を管理している。

 

「……ともかく、私の結論は変わらない。第一王女リステルを暗殺する」

「…………」

 

 クリードは、プランを考える。

 だが、あの怪物相手では、得意分野の暗殺でも難しい。

 気配の隠蔽には自信がある。でも、リステルの危機感知能力は、クリードがこれまで相手にしてきたターゲットの中で間違いなく最高だった。

 

「ラスピルを女王にするなら避けては通れない道よ……アサシン」

「…………ッチ」


 クリードは舌打ち。

 こうなれば、やるしかない。


 ◇◇◇◇◇◇


 ラミエルと別れ、クリードは自室へ向かう。

 途中、レオンハルトとすれ違う。

 言葉は交わさず、一瞬だけ眼球で会話。


『後で話がある』

『了解』


 そのまますれ違い、クリードは廊下を歩いていた。

 使える手は何でも使う。それがレオンハルトだろうと、ルーシアだろうと。

 頭の中で、いくつかプランを練る。

 これまでに行った暗殺方法。第一王女リステルへ効果的な作戦。


「……あ」

「……!」


 すると、目の前から……第三王女ラスピルとルーシアが。

 ラスピルと、目が合ってしまった。

 クリードは、軽く会釈して通り過ぎようとした。


「───……待って!」

「……っ」

「え、ちょ、ラスピル!?」


 なんと、ラスピルはクリードの袖を掴んで引き留めた。

 いきなりのことに、クリードは一瞬だけアサシンとして警戒してしまう。

 これが失敗だった。


「やっぱり……あなた、あの時の」

「……何のことだ?」

「……お話、できる?」

「ら、ラスピル? あのさ、こんなのほっといてさ」

「ごめんルーシア、ちょっと静かにしてて」

「……う、うん」


 ラスピルは、クリードに言った。


「あの……少しだけ、相談に乗ってほしいの」

「…………」


 拒否権は、存在しなかった。

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