非常にマズい

 十傑を二名倒した。

 死体は『執事』に任せ、クリードは小道具係を続けながらラスピルの護衛へ。 

 午前の部が終わり、午後の公演まで時間ができた。

 クリードは、何食わぬ顔で小道具類をチェックする……すると、ラスピルが傍へ。


「ねぇ、さっきそこにいたよね?」

「───……さっき、とは?」

「観客席。真っ暗でよく見えなかったけど、一瞬だけクリードくんの口元が見えたんだ。何かやってたの?」

「…………」


 クリードは驚いた……が、決して表情には出さない。

 まさか、ラスピルがクリードを視認していたとは。暗殺まではバレていない。だが、ヘタに誤魔化してもラスピルは見破りそうな気がした。

 

「……舞台の外から見たくて」

「ふふ。私のソロシーンを?……ほんとにぃ?」

「…………」

「あはは。冗談冗談。それより、早く行こっ」

「……どこに?」

「セレーネさんとの約束!」

「……本気なのか?」

「もちろん! さ、行こ!」

「…………」


 ラスピルとはあまり関わるのはよろしくない。だが、頼みごとを拒否するのもよろしくない。

 護衛の面倒くささに、クリードは改めてため息を吐きたくなった。


 ◇◇◇◇◇◇


「遅い!」

「……悪かった」

「ごめんね~」


 セレーネは、遅れたクリードとラスピルをジト目で見る。だが、本気で怒ってはいない。

 そしておもむろに、クリードに言う。


「さ、エスコートしてくださいな」

「…………」

「もう! 気が利きませんわね。あなた、それでも紳士?」

「…………」


 心の中でため息を吐き、クリードはセレーネの手を取った。

 クリードは、ありとあらゆる教育を受けている。貴族や紳士のマナーも当然覚えていた。

 

「とりあえず、食事にしよう。ここに来るまでの間、何件か飲食関係の出店を見つけた」

「お、お任せしますわ」

「むぅ……ねぇクリードくん、私もエスコートしてよね!」

「…………」


 ラスピルとセレーネを連れたクリードは、非常に目立っていた。

 よろしくない。十傑は二人倒したが、どこかにゼオンがいる。

 周囲を警戒しながら、クリードのエスコートは続いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 満喫した。 

 ゼオンは、出店でたらふく肉を食べ、再び生徒会室へ戻っていた。

 アサシンに遭遇することなく、祭りを楽しんだ。


「ふぁ~ぁ……ったく、雑魚どもは何してんだぁ? アサシン……いねぇじゃんかぁ……くぁぁ」


 そのまま大あくび……ソファに寝転がり、ウトウトし始める。

 まさか、クリードがゼオンを発見するも無視し、【知恵】と【基礎】を優先するなど思いもしなかったのだ。当のゼオンはまったく戦わず、アサシンにも関わらず祭りを楽しんだ。

 十傑が二人、すでに暗殺されとは思いもしない。


「…………寝よ」


 ゼオンは大あくびし、そのまま目を閉じた。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………なるほど、な」


 学園長デミウルゴスこと『王冠』は、クリードの暗殺を『視て』いた。

 学園長室の窓から視線を外す。

 デミウルゴスの『眼』が、片方だけ金色に輝いていた。


「いい腕だ。さしずめ、『創造主』の虎の子といったところか」

 

 スキル『千里眼』

 デミウルゴスの眼で、見通せない物はない。

 デミウルゴスは、小さくため息を吐いた。


「手駒がだいぶ少なくなった……さて、どうしたものか」


 デミウルゴスは、なぜか楽し気に呟いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ファッションショーが終わり、【美】のエルピネは焦っていた。

 

「どういうことよ……」


 なぜ、第三王女ラスピルが、男子生徒と女生徒の三人で出店を満喫しているのか。

 ペイズリーとロレンスはどうしたのか。

 答えはすぐに出た。


「失敗……ヤバい。【勝利】に報告しなきゃ」


 エルピネは、ファッションショーの片付けをするフリをしながら生徒会室へ向かう。

 アサシンを侮ったわけじゃない。

 敵のが、数枚上手だった。


「やばい。このままじゃ十傑は全滅する……早急に手を打たないと。もう、なりふり構わず殺すしか」

「あ、せんぱ~い!」


 と、後ろから声をかけられた。 

 無視しようかと思ったが、エルピネは振り返る。


「あ、さっきの……」

「えへへ。モデルすっごく楽しかったです! ホントにありがとうございました!」

「え、ええ。ごめんなさい、急いでるの」

「あ、そうですか……あの、お礼がしたいんですけど」

「いいわ。楽しんでもらえたならそれで」

「先輩……ありがとうございました!」


 少女は頭を下げた。 

 エルピネは軽く手を振り、その場を後にする。

 そして、そのまま振り返り、走り出そうとした時だった。


「───……ッあ」


 呼吸が止まりそうになった。

 胸に激痛。

 振り返ることができない。 

 そして、聞こえてきた。


「先輩。大丈夫ですか? ささ、こっちこっち」

「…………あ、なた」


 少女に抱き着かれ、そのまま廊下に設置された休憩用ベンチへ座らせられた。


「ごめんなさいね。あたし、アサシンなんです」

「…………」

「聞こえる? よろしくね」


 すると、どこからか『影』が伸び、エルピネの影を拘束した。


「…………」


 エルピネは後悔した。

 正面から挑めば負けない自信はある。だが……暗殺。これに関してはアサシンが遥かに有能だ。

 これまでの戦い。ほぼ全てが暗殺。

 殺すなら真正面からしかない。こちらの土俵に引きずり込まなければ、騎士団は間違いなく敗北する。

 

「……………………ぁ」


 エルピネは、それを伝えることなく死亡した。

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