学園祭開幕

 それからは、特に何か起こる気配はなく、学園祭の準備を進めた。

 劇の役者たちは稽古を続け、小道具係はセットを作る。一部、スキルの使用が認められているので、『木工』や『ペイント』のスキルを持つ生徒が重宝された。

 役者たちも、台本を暗記した。なので、セリフを言いながらの演技力を磨いていた。

 

「オレ、セリフないけど……」

「オレもっスよ……『木』って」


 マルセイとトウゴは『木』だ。本物の枝を持ち、舞台の影にひっそり立つ役だ。

 二人は、小道具係のクリードに言う。


「今思えば、小道具係の方が楽しそうだよな」

「そっスね……もう遅いけど」

「確かに。やってみると面白い」


 クリードは、紙吹雪用の紙テープを切りながら言う。

 チラリと教室の隅を見ると、レオンハルト、ルーシア、ラスピルがセリフ合わせをしていた。

 

「明日かぁ……」

「なんか、イベントってあっという間に始まってあっという間に終わるっスね」

「…………」


 トウゴの言う通りだとクリードは思う。

 閃光騎士団の介入。こちらも、あっという間に終わらせたい。

 

「ま、明日は楽しもうぜ!」


 マルセイの笑顔に、クリードは適当に頷いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 学園祭当日。

 役者たちは衣装合わせをして、最後のセリフチェックを始めた。

 クリードは、舞台を念入りにチェックする。ステージ、照明、小道具……舞台上では、ラスピルの単独シーンも多い。何が起きるかわからない。

 すると、通行人の衣装を着たルーシアが来た。


「ラスピル、緊張してるわ」

「そうか」

「あたしもできる限り傍にいる。あんたも警戒を」

「わかった……『英雄』は?」

「あいつなら、ラスピルの傍で笑ってる。どうやら本気で『落とし』にかかってるわね」

「…………」

「気になる?」

「何がだ? それより、さっさと配置に付け」

「はーい。ふふ、寂しいなら今夜相手してあげる。あたしも溜まってきたしね」

「…………」


 ルーシアは手を振って二人の元へ。

 最終チェックを終えたクリードは、木の衣装を着ているマルセイとトウゴの元へ。


「おいクリード、トイレ行く時ってこの衣装どうやって脱げば……手も固定されてるから殆ど動けねぇ」

「ぅ……ちょっと催してきたっス」

「お前らは立派な『木』だよ。頑張れよ」


 適当に激励し、クリードは教室内に設置された楽屋へ。

 教室内は、舞台、観客席、楽屋に分割されている。楽屋は狭く、何かを仕掛けるには目立ちすぎる。仕掛けるなら間違いなく舞台か観客席だ。

 

「…………」


 やれるものならやってみろ。

 クリードはそう思い、最大限の警戒を続ける。


 ◇◇◇◇◇◇


 生徒会室。

 ここに、二人の男女がいた。

 一人は【美】のエルピネ。もう一人は【基礎】のロレンスだ。

 ロレンスは、手に持った数枚の羊皮紙をエルピネに。


「九人まで絞った。ここにアサシンが二人……いや、三人いる」

「ふぅん?……で、どうするの? 学園祭当日の朝よ? まさか特定だけでこれほど時間がかかるなんてね」

「し、仕方ないだろう。隠密行動が生業のアサシンを特定するだけでも、並大抵の作業じゃないんだぞ」

「はいはい。で、どうすればいいのかしら?」

「……お前が主催するファッションショーがあるだろう? そこで、第四候補のルーシアを選べ。第三王女ラスピルに最も近い女生徒。アサシンの可能性は高い」

「わかったわ。毎年必ず【ゲリラモデル】を選んでいるから、拒否することはできないでしょうね」


 ゲリラモデル。

 それは、エルピネが主催するファッションショーで、エルピネが生徒の名簿から適当に選んだ女生徒を着飾り、壇上へ上げるというイベントだ。

 

「これで一人。あと一人……いえ、二人は?」

「……危険だが、『ヤツ』を使う。奴がいればアサシンは動くはずだ」


 ロレンスが顔を室内のソファへ向ける。

 

「くかぁ~~~……」


 そこにいたのは、気持ちよさげに昼寝をしている、閃光騎士団十傑の【峻巌】ことゼオンだった。

 十傑で唯一、学園に通っていない幹部。

 十傑で荒事を担当する戦闘狂だ。


「……学園祭、中止になるわよ?」


 エルピネが懸念する。ゼオンが暴れれば学園祭どころではない。

 だが、ロレンスは言う。


「……多少危険だが、これくらい危険な方が面白いだろう?」

「全く……しょうがないわねぇ」


 エルピネが、仕方なさそうに微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 劇は、順調だった。

 役者のセリフ、演技ともに完璧だった。

 ラスピルも、楽しそうに演技をしている。レオンハルトもルーシアも役になりきっていた。 

 クリードは、周囲を警戒する。もうすぐ、舞台の第一講演が終わる。

 そんな時だった。


『これより、中央広場で『ファッションショー』を行います! さて、今年の【ゲリラモデル】の発表です!』

「……?」


 突如、校内に響く声。

 スキルによる『拡声』だ。音響係の生徒だろう。

 

『今回のゲリラモデルはぁぁぁ~~~~~~ッ!! 第一クラスのルーシアちゃんだぁ!! さぁルーシアちゃん、急いで中央広場へ来てくださいっ!!』

「……なに?」


 ルーシアを見ると、役が終わり水分補給をしているようだった。

 クリードと目が合う。そして、小さく舌打ちした。

 ルーシアは、クリードの元へ。


「生徒会……まさか、あたしの正体が」

「……否定できない。このゲリラモデル、確か毎年開かれてるイベントの一つだ。校内放送で全校生徒から一人の女生徒を選び、モデルをさせる」

「っく……まずい。もしかしてもう、十傑の作戦が」


 と、ここで女生徒たちがクリードを押しのけた。


「ルーシアルーシア! 速く行かないと!」

「ゲリラモデル! いいなぁ~」

「早く! ふふ、あとで感想聞かせてね!」


 ルーシアは、女生徒たちに連れて行かれた。

 クリードは舌打ちし、気配を殺して教室を出た。

 劇の第一部はそろそろ終盤。まだ時間はある。

 急ぎ部屋に戻り、アサシン装備に着替える。


「間違いない。閃光騎士団はアサシンをある程度絞ってる……問題を起こした俺、目立つレオンハルト、第三王女ラスピルに最も近いルーシアがリストアップされてても不思議じゃない」


 両手のブレードを展開。何度かチェックする。

 アサシンとなったクリードは、学園祭の裏側へと突入した。

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