学園長

 ジェノバ王立学園の学園長。

 齢七十を超えた老人だが、その眼力と活力は二十代としか思えないほど若々しい。生徒からはもちろん、教師からも好かれている人格者だ。

 名前は、デミウルゴス。

 閃光騎士団第二十八代目【王冠ケテル】であり、ジェノバ王国を閃光騎士団の拠点、そして王国にしようとしている。

 学園長に戻ったデミウルゴスは、柔らかな肘掛け椅子に座り、写真を取り出す。


「もうすぐだ……【王国マルクト】よ」


 そこに写っていた女性は、デミウルゴスに笑いかけているようだった。

 だが、デミウルゴスは辛そうに顔を歪める。


「騎士団の真なる故郷。このジェノバ王国が手に入るのは時間の問題。【王国】よ……どれだけ血が流れようとも、私はやるぞ」


 写真を懐にしまい、デミウルゴスは目を閉じる。

 写真の女性はデミウルゴスの妻。閃光騎士団『十傑』の【王国マルクト】だ。今はもう永久欠番となっており、十傑は九人しかいない。

 

 デミウルゴスは、何を想い何を考えているのか。


 ◇◇◇◇◇◇


 クリード、レオンハルト、ルーシアの三人は、地下秘密部屋に集まっていた。

 ここに集まれる時間は十分。クリードはさっさと話をする。


「学園祭……面倒だが、仕方ない。お前たち、いつも以上に気を配れよ」

「わかってるさ。オレは演劇のこともあるし、ラスピルには常についている」

「あたしも。それより、当日だけど……」


 ルーシアの懸念。それは、やはり閃光騎士団の介入だろうか。

 だが、クリードは言う。


「いつも通りだ。とにかく、第三王女ラスピルの周囲に気を配れ。生徒会役員が近づくようなら警戒しろ」

「言うと思った……やっぱり。生徒会が《十傑》ってのは?」

「真実だろうな。だが、あちらはまだ俺たちの正体まで掴めていないだろう。掴めていたとしても、三十~四十名のうちにアサシンが数人いる、くらいのはず」

「つまり、オレらのクラスに何人かアサシンがいる、ってくらいか」

「ああ。残りの十傑を始末して、最後に第一王女リステルを事故死させる。そうすれば第三王女ラスピルが次期女王だ」

「……ねぇ、第二王女は安心なの?」

「……恐らくな」


 クリードは、やや確信に欠けたが《安心》だと言った。

 第二王女ラミエル。もしかしたら、リステル暗殺後に動くかもしれない。第二王女はレオンハルトとクリードの存在を知られている。

 念のため、ルーシアの存在は隠しておいた。いざという時の切り札だ。


「第二王女は保留。まずは、第三王女ラスピルの護衛と生徒会への警戒を。それと、自然な学生としてふるまえるように、学園祭の準備も気を抜くな」

「それ、そのまま返すわ」

「うんうん。オレら、クリードよりしっかりと学生やってるしな」

「…………」


 クリードは、なぜか言い返せなかった。

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