生徒会と十傑

 生徒会室。

 ここに、四人が集まっていた。

 机の上には学園祭関係の資料が積み重ねてあり、書きかけの書類には各クラスの出し物の内容や、飲食関係に渡す火気使用の許可書などがある。

 四人のうちの一人、生徒会長リステルは言った。


「そろそろ、ラスピルには事故死してもらわねば。後の計画に修正が必要となる」


 学園祭の話ではない。閃光騎士団『十傑』の【勝利】としての言葉だ。怪しまれないように、学園祭関係の仕事をある程度した後に、自然に話し始める。

 それに反応したのは【ティファレト】の称号を持つ女生徒エルピネ。リステルの同級生であり親友というポジションで、生徒会会計を務めている。


「でもぉ? アサシンはどうするの? 私たち、真正面からなら絶対に勝てると思うけどぉ……全員、暗殺されちゃってるわ。アサシンの暗殺技術は超一流~……イベント関係で事故死してもらうって考えはいいけどぉ……そうなると、自然と暗殺になっちゃう。アサシン相手に騎士団が暗殺の真似ごとなんて、向こうからしたらやりやすいに決まってるわぁ」


 もっともである。

 すると、生徒会顧問である男性教師ペイズリーは、メガネをくいっと上げる。長身、細身で侯爵家三男という肩書を持つ教師で、女生徒からの人気も高い。

 ペイズリーは、【知識ダアト】としての意見を言う。


「ならば、アサシンを特定すればいいでしょう。第三王女ラスピルの周囲に常に張り付いている生徒なら、相当な数に絞り込める」


 それに同意するように、長髪を束ねた生徒会庶務の男子ロレンスが言った。


「先生の意見に賛成。そういう調査ならボクに任せてよ……というか、独自に調査して十八人にまで絞ってる。あとは、この十八人の中からアサシンを見つけるだけだ。ね、いいよねリステル」

「ああ。少なくとも二人、多くて四人はアサシンが潜んでいるはずだ」

「了解。じゃ、そっちの調査は任せて」


 ロレンスは、【基礎イェソド】としての顔でニヤリと笑う。

 全員が、個人で騎士百名を圧倒できる戦闘能力を持つ閃光騎士団の『十傑』だ。真正面からならクリードでは絶対に勝てない。

 だが、真正面から戦う必要はない。これまではアサシンの戦闘だった。


「よし。学園祭でラスピルを仕留める。ロレンス、お前はアサシンの特定を急げ」

「了解」


 生徒会メンバーは頷き、それぞれの仕事を始めようとした。

 すると、生徒会室のドアがノックされる。

 四人の表情が引き締まり、エルピネがゆっくりドアを開ける。

 そこにいたのは。


「あ……け、【王冠ケテル】」


 閃光騎士団のトップ、【王冠ケテル】が立っていた。

 四人は姿勢を正す。だが、【王冠】はそれを手で制した。あまり仰々しいと目立つ。室内とはいえ、普段通りにと言うことだ。

 【王冠】は、リステルに言った。


「いろいろ大変だろう。だが、頼むぞ」

「は、はい!」


 たった一言だけ。

 リステルは、頭を下げた。


「お任せください。学園長・・・!! 学園祭を成功に導きます!!」

「うむ。お前たちも、頼むぞ」

「「「はっ!!」」」


 【王冠】は、にっこりと笑って退室した。

 ただの激励なのに、その存在感に圧倒された。

 リステルは、改めて気合を入れなおした。


 ◇◇◇◇◇◇


 【王冠】は、一人廊下をゆっくり歩いていた。

 途中、生徒たちとすれ違えば挨拶し、何気なく窓を開けて空を眺める。

 そして、ポケットから一枚の写真を取り出した。


「……もうすぐだ」


 その写真に描かれていた女性は、とても優しい笑みを浮かべていた。

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