第三章

学園祭へ向けて

 リステルとの戦いから数日後。

 クリードは、怪我も治り通常の学園生活……いや、護衛生活を送っていた。

 ラスピルの傍には常に一人は付くようにしている。女子寮ではルーシア、普段の生活ではルーシアとレオンハルト、そしてクリードはなるべく関わらず、影ながらラスピルを見守る生徒その一となる。

 最近は、特に十傑や騎士団が動いている気配はない。

 そんな中、学園祭が近づいていた。

 

「それでは、学園祭に向けて、クラスの出し物を決めます」


 いつの間にかクラス委員となっていたレオンハルトが言う。隣にはラスピルがいた。

 学園祭は、それぞれのクラスで出し物を行う。


「えっと……例年では、カフェをやったり、休憩所にしたりするみたい。場所はこの教室内でできることだから、あまり大変なことはできないかな?」


 ラスピルが過去の資料を読む。

 すると、マルセイが挙手した。


「はいはい!! 演劇やりたいです!!」

「お、マルセイ氏にしては真面目な意見っスね」


 トウゴが茶化す。

 だが、意外にも周囲の反応はよかった。


「演劇かぁ……」「面白そう」「いいね」

「どんな劇ある?」「簡単なのにしようぜ」


 クリードは、あまり目立ちたくないと考えている。

 休憩所なら、椅子テーブルを並び変えて放置するだけだから楽なのだが。当然、クリードは意見することなどない。

 そして、レオンハルトが言う。


「じゃあ、劇でいいかい?……反対意見ある?」


 反対意見……なし。

 こうして、クリードのクラスは演劇を行うことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 そして、劇の内容と配役決め。

 内容は、王子と姫の恋愛もの。悪い魔女によって二人の仲は引き裂かれるが、愛の力で再び巡り合うというベタな恋愛ものだ。女子が多いクラスなのでこういう劇になるのは仕方ない。

 当然、王子役は満場一致でレオンハルト。姫はラスピルだった。


「なんでオレが木なんだよ!!」

「……オレもっスよ」


 マルセイ、トウゴは『呪いの木』というよくわからない役で、ルーシアは通行人。そしてクリードは小道具係となった。

 舞台裏で活躍する小道具係。クリードにとっては最高の配役だ。

 それから、細かい打ち合わせは後日決めることになり、今日は解散となる。

 クリードは、部屋に一度戻ろうと寮へ。


「待ってたわ」

「…………」


 部屋の近くの植木の影に、ラミエルがいた。

 クリードは無言で自室へ。すると、ラミエルもするりと部屋に入る。

 鍵をかけると、クリードは咎めるように言った。


「どういうつもりだ……こんな目立つ真似をして、俺がアサシンだとバレたら」

「大丈夫よ。気配は感じない」

「……わかるのか?」

「ええ。『鑑定』を使えば、どこに隠れていようと情報が目に映る。たとえあなたでもね」

「…………」

「ふふ、便利って思ったでしょ?」

「用事は」

「全く……少しくらい会話しても」

「…………」


 クリードはラミエルを見る。

 ラミエルは諦め、壁に寄りかかった。


「学園祭。騎士団が動く可能性が高い……注意しなさい」

「……言われなくても」

「学園祭。私は風紀委員の仕事でほとんど動けない。ラスピルを頼むわよ」

「わかっている。といいうか、それだけか?」

「……ええ。それと、怪我の具合を」

「問題ない」

「…………そう」


 それだけ言うと、ラミエルは小さく息を吐く。


「……少し、不安なの。姉さんが本格的に動きだしたら……考えることしかできない私では、止められないかもしれない」

「…………」

「ごめんなさい……アサシンのあなたに言っても仕方ないわね」


 その通りだった。

 クリードは何も言わず、ドアノブに手をかけるラミエルを見る。


「……ごめんなさいね。勝手なことして」

「問題ない。それより、ここに来たことを悟られないようにしろ」

「はいはい。ふふ、本当に任務に忠実なアサシンね」


 そう言って、ラミエルは出ていった。

 不安だったのだろう。クリードに何かを期待していたのか。

 だが、クリードが応えることはない。


「…………」


 クリードは、ラミエルの気配が完全に消えるまで、ドアを見つめていた。

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