次なるイベント

「やられたわね」

「…………」


 クリードは、全身に包帯を巻き、痛み止めを飲んで処置をした。

 幸い、内臓には傷がない。胃に穴が空いた程度で、教団の秘薬を飲んで『膜』を貼った。これなら、数時間後にはふさがる。もし他の臓器だったら手術が必要になるところだった。

 現在、クリードはラミエルと倉庫にいる。

 アサシン装備を身に着け、何事もなかったように言った。


「強い。真正面からではレオンハルトでも難しい」

「姉さんは学園最強……いえ、『閃光騎士団』でも最強格よ。閃光騎士団のトップ『王冠ケテル』も一目置いてるんじゃないかしら?」

「……知っているのか?」

「知らないわ。でも、そんな気がしただけ」


 ラミエルはつまらなそうに言った。

 閃光騎士団のトップ『王冠』……存在しているというだけで、『創造主』も知らない情報だ。もし、閃光騎士団がこのジェノバ王国を拠点にするつもりなら、いずれ会うかもしれない。

 それよりも、今の状況だ。


「【理解ビナー】と【栄光ホド】は始末した。【峻巌ケブラー】には逃げられたが」

「上出来よ。というか……閃光騎士団最強の『十傑』を、たった一人で……」

「俺の土俵だからだ。真正面からでは難しい」


 そう、クリードは本来、暗殺者なのだ。

 これまでの全てが暗殺だった。真正面からではなく、背後、真横、上空からの奇襲。

 今回のリステルのように、真正面からでは『十傑』を相手にできない。


「残りは……【知識ダアト】と【ティファレト】と【基礎イェソド】か。【勝利ネツァク】は姉さん、【王冠ケテル】はどう出るかわからないわね」

「やはり、全員を相手にするしかないのか」

「それが確実ね。ラスピルを女王にするには、閃光騎士団はどうあっても邪魔。それに、アサシン教団にとっても、邪魔な組織でしょう?」

「否定はしない」

「なら、暗殺を阻止しつつ、『十傑』を始末する。十傑を全員始末すれば、組織は崩壊するでしょうね」

「…………」

「あら、『実の姉を始末するのか?』とか言うのかと思った」

「興味ない」


 クリードは立ち上がる。

 薬が効いてきたのか、痛みもマシになってきた。

 ラミエルは話を続ける。


「しばらくは普通の学園生活ね。それと、次のイベントは……学園祭」

「……学園祭?」

「そう。学園主催のお祭りよ。生徒が出店をやったり、劇なんかの出し物をやったりするの。あなたのお友達に詳しく聞いてみたら?」

「……それはいつだ?」

「2ヵ月後。それともう一つ……母上の容体があまり芳しくない。恐らく、あと1年持つかどうかってところね」

「……」

「姉上は、1年以内にラスピルを暗殺するわね」

「……疑問に思ったが、なぜリステルはお前を狙わない?」

「そんなの決まってるわ。私は女王になるつもりがないってわかってるからよ。自分が女王になったら、私を何もない僻地に飛ばすか、その辺の下級貴族と結婚させるでしょうね」

「…………」

「女王になるつもりはない。でも、リステルを女王にしたくない……それが姉さんが思う『ラミエル』よ。まだ私がラスピルを支持してるってところまでは気付いてない。私、あの子のこと徹底的に無視してるから……なーんにも興味がない、ってそぶりね」

「…………」

「ま、そういうこと。とりあえず、お仲間と協力して警戒してなさい。姉上は『不慮の事故』を使ってラスピルを暗殺する。イベントはチャンスでもある……」


 クリードは頷いた。

 ラミエルも頷き、話は終わる。


「じゃ、ゆっくり休んでね。明日は休み、明後日から授業だけど、出れる?」

「問題ない。もともと、怪我で休んでいる設定だ」

「ふーん。ところで、ライオンハート公爵家がラスピルを嫁に欲しがってるって聞いたけど……どう思う?」

「興味ない」

「あらら。ま、いいわ。じゃぁね」


 ラミエルは出て行った。

 ライオンハート公爵家もアサシンの家系だ。レオンハルトもライオンハート公爵家を利用しているにすぎない。婚約などでまかせだろう。


「…………学園祭か」


 学園生活にはイベントが多い。

 クリードは、学園のイベントを全てチェックすることを決めた。

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