優勝。そして

『勝者、レオンハルト!!』


 審判の声が会場内に響くと、割れんばかりの歓声に包まれた。

 優勝決定戦は、レオンハルト対ラスピル。

 第三王女ラスピルの実力はレオンハルトと拮抗……だが、『加速』の速度に対応できず、ラスピルは敗北した。

 優勝したレオンハルトには、多くの女生徒ファンが付いたという。

 そんな中。クリードは自室でのんびり……していない。


「死体は薬品で溶かせ。その後は油と一緒に凝固させ、本部で焼却しろ」

「かしこまりました」


 『執事』を呼び、オルバとリディアの死体を処理していた。

 二人の死体はゴミ収集場のダストボックスに入っている。死体を木箱に詰め、『執事』とその配下数名で運んで行った。

 それを見送り、クリードは自室へ。

 アサシン装備を全て外し、身体に包帯を巻いてベッドへ。

 ベッドに入ると同時に、ドアが乱暴に開かれた。


「おっすクリード!! 暇してるだろ? 大会の結果発表いくぜ~っ!!」

「マルセイ氏。クリードくんは怪我人っス。静かにいきましょう静かに」


 マルセイとトウゴが入ってきた。

 さっそくクリードに結果を話す二人。


「レオンハルト、またファンを獲得したっスねぇ」

「ギギギ……気に入らねぇ!! ああ、オレが戦闘スキル持ってたらギタギタにしてやるのに!!」

「……第三王女ラスピルは?」

「ん? 気になっちゃう? ラスピルちゃん、レオンハルトと決勝で当たってさぁ。けっこういい試合してたぜ」

「うんうん。レオンハルトの能力が『加速』で、ラスピルちゃんは付いていけなくて負けちゃったっス……あのスキル、反則っスよ」

「まぁ、ラスピルちゃんもいい線いってたよな。王女様ってスゲーのな」


 二人の話によると、第三王女ラスピルとレオンハルトはいい関係になっているようだ。

 今頃、互いの健闘を称え合っているだろう。そこにルーシアも混ざっているに違いない。

 閃光騎士団『十傑』は3人始末した。ゼオン、リステルを除き残り5人。


「…………」


 クリードは、二人の話を聞きながら思う。

 一度、ラミエルに報告をするべきだろう、と。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜。

 祝勝会を行うらしく、マルセイとトウゴは張り切って出かけて行った。

 場所は食堂。今日は特別に貸し切りらしい。

 主役はレオンハルトとラスピル。祝いの席で油断したところを『刺して』くる可能性もある。ルーシアとレオンハルトには最大限の警戒をするように伝えた。

 クリードは、怪我のため参加できず……というのは噓。

 アサシン装備を身に着け向かったのは、大会終了後の演習場だ。

 ラミエルに呼び出され、念のためフル装備で向かっていた。

 修練場に到着。誰もいなく、門は施錠されている。

 罠の確認をするため、クリードは周囲を見回りつつ約束の場所……。


「…………?」


 と、そこで妙な何かを見つけた。

 試合会場でもあった舞台中央に、人がいた。

 ラミエルとの約束場所は、使われていない用具倉庫だったはず。

 クリードは、そっと観客席に移動し、その人物を見た。


「───……な」


 そこにいたのは……仁王立ちしている第一王女リステルだった。 

 誰かを待っているのか。

 クリードは、最大の警戒をする。


「待っていたぞ、アサシン」

「!?」


 リステルは、クリードの位置を正確に把握していた。じゃなければクリードの方を向いて話したりしない。クリードは目を見張る。


「出てこい。お前がいるのはわかっている……来ないのなら、こちらから行くぞ!!」

「ッ!?」


 リステルの手には、巨大な『槌』が握られていた。

 大きい。全長5メートル以上あり、槌の部分だけでも幅3メートルはある。

 女性の細腕で、小枝でも握るように持っていた。


「ぜいやぁぁっ!!」

「っ」

  

 それだけじゃない。

 速かった。

 試合会場で見たリディアと同タイプ。だが、格が違う。

 リディアの速度が10だとすれば、リステルの速度は80はある。

 クリードは、全力で回避する。

 槌が観客席を破壊した。衝撃の余波で半径5メートルの地面に亀裂が入り、椅子が砕け散る。

 リディアを遥かに超える破壊力だった。


「言っておく。私の能力は……リディアの比ではないぞ!!」


 振られる槌。

 空振りだけで衝撃波が発生。衝撃波を回避できず、クリードの身体に響く。

 少しずつ、クリードの動きが鈍りだす。


「同胞の仇……ここで晴らさせてもらうぞ!! だらぁっしゃぁぁぁぁぁ!!」

「っぐ!? っが───」


 ズドン!! と、槌がクリードの腹に突き刺さった。

 クリードは吐血。ノーバウンドで10メートル以上吹き飛び、壁に激突した。


「……っち。小細工を」


 リステルは、歯ぎしりをしながら槌を振る。すると、絡みついていた『影』がブチっと切れた。

 直撃の瞬間、クリードの『影』が槌に絡みつき、威力を殺したのだ。

 だが、完全には殺せなかった。

 クリードは腹を押さえ、こみ上げる血を必死にこらえる……痕跡を残すわけにはいかないという想いからだった。


「だが、もう終わりだ……同胞の命を奪った罪、ここで償ってもらおうか」


 クリードは腹を押さえる。

 このままではまずい。だが……足が動かなかった。

 一かバチか、相打ちを狙いナイフを抜く。


「そこまでよ」


 そんな時───リンと響く声が。

 現れたのは、第二王女ラミエルだった。


「姉さん、何をしているのかしら? 生徒会長が私闘とは……大会はもう終わったのよ?」

「フン。見てわからないのか? 賊が侵入した。見回りをしていた私が処理をするところだ」

「賊?……その賊はどこに?」

「なに?……ッチ」


 賊こと、クリードは消えていた。

 ほんの一瞬だった。

 ラミエルに気を取られたリステルの隙を突き、影を後方に伸ばして壁にくっつけ、そのまま思いきり引っぱったのだ。これによりクリードは消えた。

 

「ラミエル。貴様、アサシンと繋がっているようだな」

「あさ、しん?……なにかしらそれは?」

「…………まぁいい。あの程度のアサシン、私には何の障害にもならん」


 そう吐き捨て、リステルは歩きだした。

 そして、一言だけラミエルへ告げる。


「この国の女王になるのはこの私だ。ラミエル、邪魔をするなら貴様も消す」

「あら怖い。肝に銘じておくわ」


 そう言って、姉妹の距離は離れた。

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