レオンハルトの戦い

 レオンハルトは、控室で装備のチェックをしていた。

 すると、音もなくドアが開き、影のようにクリードが入ってくる。

 まさか激励?───そんなわけがないと思いつつ、クリードを見る。

 クリードは、全く表情を変えずに言った。


「次の対戦相手だが」

「ああ。生徒会のリディアさんだ……何かあったのか?」

「生徒会役員。全員が『十傑』の可能性がある」

「…………冗談、ではないな」


 クリードがこんな冗談を言うはずがない。

 レオンハルトは、一瞬でアサシンの顔になり、クリードと向き合った。

 

「先ほど、第三王女ラスピルの対戦相手だった【理解】を暗殺した。これで生徒会メンバーは三人目……残りの『十傑』も生徒会役員だと考えるべきだ」

「となると……」

「お前の次の相手だ」


 レオンハルトの次の相手は、生徒会役員のリディアだ。

 野外演習のときもいた。背の低い、外見年齢が十歳ほどの少女だ。だが、外見など当てにならない。敵なら殺す。それだけだ。

 レオンハルトは、クリードに確認した。


「オレはどうする?」

「見極めろ。恐らく、お前を倒しに全力で来るはずだ」

「あぁ~……勝たなきゃ、ラスピルと戦えないしな」

「戦いで見極めて合図を出せ。試合終了後に、俺が始末する」

「了解」


 それだけ言い、クリードは退室した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


『さぁ、準々決勝第一試合!! 一年生期待の星レオンハルト対、生徒会役員のちびっこリディアの戦いだ!! リディアよ、小さいくせにそのデカい斧はなんだぁ~~~っ!?』


 実況の言う通り、リディアは大戦斧を担いでいた。

 スキル『腕力パワード』という、全身の筋力が異常なまでに強化されるスキルだ。身長の三倍以上ある斧を担いでいるのに、汗一つ流さない。

 対するレオンハルトは、グラブとレガース。格闘重視のスタイルだった。

 リディアは、レオンハルトに言う。


「お前、棄権しろ」

「え? いやいや先輩、いきなりなんです?」

「悪いが、負けられない事情がある。棄権するならよし。しないのなら……」

「あはは。先輩、まるで人でも殺しそうな勢いっすね。もっと余裕持って行きましょうよ」

「…………忠告はしたぞ」


 リディアの表情は硬い。

 野外演習で見た時とは別人だった。

 レオンハルトは、揺さぶりをかけることにする。


「先輩。なんか怖い顔ですね……何かありました?」

「…………」

「例えば、予定外のことが起きて、自分でやらなきゃいけなくなったとか」

「…………貴様」

「オレ、このトーナメントで目立たないといけないんで、容赦しませんよ?」

「…………知っているのか?」

「は?」

「…………ふん、まぁいい。あたしに勝てると思ってるなら甘い。生徒会役員として、ラスピル様に認められた『スキルホルダー』として、負けるわけにはいかない」


 斧を振り回すリディア。

 かなりの強敵だった。だが、レオンハルトの表情は軽薄な笑みを浮かべていた。

 そして───試合が始まる。


『それではぁ!! 試合開始ィィィィィィィィッ!!』


 試合が始まった。

 リディアは斧を肩に担ぐと、両足が膨張する。

 血管が浮き上がり、ミチミチと爆発しそうだった。

 そして、地面が爆ぜ、リディアは斧を振りかぶり突進……そのままレオンハルトを斧の腹で叩き、場外へ吹き飛ばそうとしていた。

 そして……リディアは聞いた。


「あんた、『十傑』?」

「───ッ!?」


 ニヤリと、レオンハルトは笑う。

 それだけで、その反応だけで十分だった。

 レオンハルトは迫るリディアに向け、人差し指を突き出す。

 

「『加速アクセル』」

「!?」


 レオンハルトが消えた瞬間、プツンとリディアの意識が途切れた。


 ◇◇◇◇◇◇


『試合終了ぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!! わずか3秒!! たった3秒の攻防!! 何が起きたのかさっぱりわからなかった!! 勝ったのは……レオンハルトだぁぁァァァァァァ!!』


 リディアが倒れ、レオンハルトは両手を振って観客に応えていた。

 レオンハルトの能力は『加速』だ。

 圧倒的速度。それこそ、リディア以上の速度。

 リディアを揺さぶり、リディアが『十傑』と確信、加速し、喉を人差し指で突いて意識を断ち切った。

 レオンハルトは、右手を上げる。


「…………」


 それを見ていたクリードは、すぐに動きだした。


 ◇◇◇◇◇◇


「はぁ、はぁ……ど、どうしよう」


 敗北したリディアは、泣きそうな顔で控室へ向かっていた。

 敗北。つまり……ラスピルを狙えない。

 レオンハルトへ勝利し、事故を装って物理で殺すつもりだった。かなり乱暴な方法だが、オルバの毒も使えなくなり、もう手が残されていなかったのだ。


「アサシン……ここまでやるなんて。リディア様に報告しなきゃ……あのレオンハルトとかいうの、ただの生徒じゃない。あいつ、あさし」


 ぶちゅ。

 胸に何かが生えてきた。


「っぉ」

「…………」

「ぁ、ざ……」

「任務完了」


 クリードは、心臓に突き刺した『カティルブレード』を抜き、一瞬でリディアを布に包んで抱え、そのまま近くの窓から飛び出した。

 ほんの一瞬。

 圧倒的な、暗殺だった。

 そんな中、控室では……。


「ふぁぁ~~~……退屈だぁ」


 ゼオンが、戻ることのない【栄光ホド】のリディアを待っていた。

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