スキルホルダー・カーニバル開幕

『試合終了!! 勝者セレーネ!! やはり強い!! 十五歳にして『騎士』に匹敵する剣は伊達ではない!! クリード選手、何もできず敗北しましたぁ~~~っ!!』


 スキルホルダー・カーニバル。

 第一試合。クリード対セレーネは、セレーネの勝利で決まった。

 終始、クリードは受けに徹していた。セレーネは確かに騎士に匹敵するほど強い。だが、クリードなら目を閉じても四秒以内に殺せる程度の実力だ。

 クリードは、わざと攻撃を受け敗北した。セレーネの真剣を浅く肩で受け、場外となり敗北。

 そのまま怪我の治療を受け、自室でのんびり休むことにした。


「…………よし」


 もちろん、休むはずはない。

 アサシン装備を身に着け、音もなく部屋を出た。

 夜間ならともかく、日中での隠密行動はかなり危険が伴う。クリードは、いつもより周囲を警戒する。

 カーニバルの会場は、『修練場』だ。ここはスキルホルダーがスキルの訓練をしたり、稽古をする場所である。観客席も充実している。

 今日はほとんどの生徒がこの修練場に集まり、カーニバルを観戦している。

 クリードは、修練場の柱を駆け上り、ドーム状になっている屋根から場内を見回す。


「…………いた」


 ラスピルだ。

 レオンハルト、ルーシアもいる。

 普段通り話しているようだが、アサシン二人は周囲を警戒していた。

 それを確認しつつ、クリードは別の場所を見る。


「…………生徒会」


 生徒会。そして風紀委員会。

 一般観客席ではなく、特別室で観戦していた。 

 生徒会役員も数名、特別ゲストとしてカーニバルに参加する。

 会場内は、数千人の生徒たち。

 この中に、【理解】と【栄光】がいる。

 ラスピル暗殺を企む、閃光騎士団の『十傑』が二人。さらに【峻巌】のゼオンもいるのは間違いない。

 だが、関係ない。

 クリードの任務は、ラスピルの護衛。そして、その脅威を排除すること。

 クリードは、呼吸を整え……スイッチを切り替えるように呟いた。

 

「……任務開始」


 ◇◇◇◇◇◇


「で……ヤルのか?」

「ああ。遅効性の毒を使う……効果は七日後に出る『時止め草タイムストップ・ミント』の猛毒だ。ラスピル王女は七日後、原因不明の心停止でこの世を去る」

「ふーん」


 とある控室。

 ゼオンは大きな欠伸をしながら、槍を持つ青年と話していた。

 大きく長い槍は振り回すのも大変だろう。

 対するラスピルの武器は細剣。懐に入られたら一巻の終わりだ。

 だが……それが真の狙い。

 青年の指先に、小さな針が接着されていた。


「この槍を見れば、懐に入って戦う選択肢を取るだろう。だがそれが狙い……やぶれかぶれに見せかけ、この針を注射する。あとは適当に負けておしまいだ」

「時止め草ねぇ……そんなモン、どこで手に入れたのよ」

「ふふ、『地下』で育てていたのさ。先日、ようやく一枚だけ葉が開いてな。希少な苗から育てるのに四年もかかった」

「ふーん……んで、オレは?」


 ゼオンはつまらなそうに言う。


「お前は保険だ」

「ほけん?」

「ああ。アサシン……なんらかの手段を講じてくる。お前はいざという時に、アサシンを始末しろ」

「へいへい。やっと面白くなってきたがよ……ほんとに来んのか?」

「さぁな。だが、カーニバル中はどうしようもあるまい。どこにアサシンが潜んでいるのか知らないが、どうあがいてもラスピル王女から離れなくてはならない時間がある」

「つまり、対戦中ってことか」

「ああ。さらに、ラスピル王女に当たる生徒は勝ち進んだとして総勢十八名。この中から、誰が『閃光騎士』だとわかる?」

「全員殺せばいいじゃん」

「それができないのがアサシンだ。ふん、話はここまで……ゼオン、後は頼むぞ」

「へいへい」


 青年は、槍を持って控室を後にした。

 残されたゼオンは、首をコキコキ鳴らす。


「どうせなら……アサシンと遊びたいぜ」


 ゼオンは、誰もいない控室でニヤリと笑った。


 ◇◇◇◇◇◇


 クリードは全てを聞いていた。

 怪しいと思う人物は、初めから特定していたのだ。

 この場では危険だが、暗殺をするしかない。そう考え、容疑者の控室前に潜んでいたのが、案の定……閃光騎士団の『十傑』で間違いのない会話だった。

 ラスピルの次の相手は、この中にいる。

 クリードは『カティルブレード』を展開。青年が部屋を出ると同時に暗殺を決めた。

 そして、ドアが開く。


『───させると思うか?』

「!?」


 クリードの背後に、顔をすっぽり覆うコートを着た何者かがいた。

 【栄光】か【理解】か……そんなことを考えている暇はない。

 クリードは背後に向かってカティルブレードを突き出すが、誰もいない。

 さらに、部屋のドアが閉じた。槍を持った青年が歩き去る。


「ッチ」

『貴様の相手はこっちだ』

「───!?」


 すると、クリードの身体が吹き飛ばされた。

 控室のドアが勝手に開き、クリードは室内を転がる。

 すると、ジュースを飲んでいたゼオンがいた。


「あぁ? っは、ははははは!! アサシンじゃねぇか!!」

「───ッ」

「なんだなんだ。お前から会いに来てくれるたぁよぉ!? へへへへ、いいね、やろうぜ!!」

「……っ」


 クリードは控室のドアを見る。だが、そこに気配はない。

 狙いはクリードの足止め……このままでは、ラスピルの試合が始まる。


「ッシャァァァ!!」


 ゼオンのナイフが飛んできた。

 クリードは身体を捻って躱す。恐ろしいことに、ゼオンは強くなっていた。


「さぁさぁ、遊ぼうぜ!!」


 クリードは、舌打ちを堪え……目の前のゼオンに集中した。

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