潜入、再会、再開、新手

 クリードは、アサシン装備一式を身に纏う。

 その様子を見ているのはレオンハルトだ。


「最強のアサシン、か……」

「……?」

「組織じゃ噂になってる。任務達成率100%のエージェントコード04が、最強のアサシンだってね」

「興味ない」

「そう言うと思った」


 レオンハルトは肩をすくめる。そして、自信満々に言った。


「張り合うつもりじゃないけど、対人戦最強はこのオレだ。クリード、今度手合わせどうだい?」

「任務に関係ない」

「……そう言うと思った」


 レオンハルトは、残念そうに肩をすくめた。

 時間は深夜。これからクリードは学園長室へ潜入。学園長室が作ったカーニバルのトーナメント表をすり替えるのだ。

 ラミエルの作ったトーナメント表なら、ラスピルが勝とうが敗北しようが、閃光騎士団の介入はない。

 クリードは、レオンハルトに言った。


「第三王女ラスピルの護衛に回っておけ」

「了解。実は、これからルーシアとラスピルの三人で夜のお茶会するんだ。ルーシアとラスピル、夜だってのに……羨ましい?」

「別に。俺は護衛なんてしたくない」

「……そう言うと思った」


 クリードは、フードを被って隠し扉から外へ出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 学園長室までの地図は頭に叩き込んである。

 クリードは、最短最速で学園長室へ。

 学園長室は、本校舎一階にある。かなりの広さで、応接スペースや大量の蔵書などが治められている本棚があった。

 今の時間。教師は誰もいない。学園長も、今日は教師の接待を受けているので戻ってくることはない。

 ドアには鍵がかかっている。


「…………」


 クリードは、無言で開錠ツールを取り出し、学園長室のドアを開錠する。

 無音でドアを開け、身体を滑り込ませ、再びドアを閉めて鍵をかけた。

 室内は暗い。壁にあるスイッチを押し、ランプを点灯させる。窓には黒いカーテンがかけられているので光が漏れる心配はなかった。

 クリードは、小さく息を吐く。


「───よお?」

「!?」


 油断はなかった。

 真横からナイフが飛んできたので、それらを全て掴み床に落とす。

 飛んできたナイフに、見覚えがあった。


「ひっさしぶりだなぁ? アサシンよぉ?」

「…………」


 ゼオンだった。

 野外演習時、クリードが殺したはずの男だった。

 なぜ、生きている。


「なぜ、生きている……そんなこと言いたそうだなぁ?」

「…………」

「ま、オレも死ぬかと思ったぜ。だけどよ、死ぬ寸前に思いついたんだ。オレの『血』を『模倣コピー』したり、オレの『命』をコピーして死にかけの身体に張り付けたり……そんなことしてる間に、下っ端どもがオレを回収、傷の手当てしてくれたんだよ」

「…………」


 クリードは、舌打ちを堪えた。

 命のコピー。軽く言うが、それは恐ろしいことだった。

 ならば、今度は首を撥ね飛ばしてやる。そう思い、ナイフを抜く。

 すると、別の気配を感じた。


「おいおいおいおい!! 出てくんじゃねぇよぉぉぉ~~~?」

『うるさい。一度敗北した貴様にチャンスを与えたのは誰だと思っている?』

『【峻巌】を倒すほどのアサシン。確実に始末する』


 騎士服に仮面をかぶった二人だった。

 声が全く同じだった。仮面には変声機が仕込まれている。

 クリードは舌打ちしかける。


「【理解ビナー】と【栄光ホド】だ。わりーなアサシン、タイマンじゃねぇ代わりに、こいつらの正体教えて───」


 次の瞬間、一人がゼオンを殴り飛ばした。

 殴られたゼオンはケラケラ笑いながら立ち上がる。全くダメージがない。

 クリードは、今の動きを記憶する。この二名に関する情報だった。


「…………」

『ッチ……始末するぞ』

『ああ。ついでに、正体も見極めよう。ゼオン、手を貸せ』

「へーへー……ったく、オレの流儀はタイマンなんだがなぁ」


 クリードは両手にナイフを持ち、心の中で舌打ちした。


 ◇◇◇◇◇◇


「ヒャッハッァァァァァっ!!」

「───ッ!!」


 ゼオンのナイフ攻撃。だが、この動きは何度も見た。

 攻撃をかわしながら、残りの二名の動きを見る。武器やスキルを使わないのか、素手による攻撃を繰り返し、ゼオンのサポートに徹している。

 学園長室内では、派手な戦闘行為はできない。相手も同じことを考えている。

 その証拠に、ゼオンの投げたナイフを回収したり、ナイフが机や壁を傷付けないように振舞っていた。


「───っ」


 まずい。

 クリードは、このままではゼオンを倒せないと確信。倒すどころか、クリード自身に危険が迫っていた。

 まさか、ここで『十傑』の三人から妨害があるとは思っていなかった。

 任務は、トーナメント表のすり替え。


「…………」

「ヘイヘイヘイ!! アサシンンンンン~~~ッ!!」

「───ッチ」


 クリードは、舌打ちをしてゼオンと距離を取る。

 そして、部屋の窓を一瞬で開け、学園長室から離脱した。

 敗北だった。

 だが、クリードにとって敗北などどうでもいい。

 問題は、十傑蛾三人いたこと。

 つまり……奴らの狙いも同じ。


「トーナメント表か……」


 そう呟き、再び舌打ちをして部屋に戻った。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 早朝から正門前に巨大な掲示板が準備され、そこにトーナメント表が張り出された。

 

「よぉーし! 気合が入ります!」

「ラスピル、すっごいやる気ね……」

「だな。ま、オレと当たっても恨まないでくれよ?」

「ふふん。レオンハルトくんこそ、私に当たったら泣かないでね?」


 単純な勝ち抜き戦のトーナメントだ。

 だが、問題は組み合わせ。

 クリードは、自分を誘う視線をわずかに感じ───校舎の窓から見ているラミエルを見つけた。

 ラミエルは、ほんのわずかに口を動かす。


『すぐに来い』


 クリードは、はしゃぐマルセイとトウゴを放置してラミエルの元へ。

 ラミエルがいたのは、会議室だった。

 クリードを見る眼は厳しい。


「どういうこと?」

「入れ替えは不可能だった。昨晩、学園長室に潜入したら、『十傑』が三人待ち構えていた」

「さ、三人……? クソ、あのトーナメント表……学園長が作ったものじゃない。閃光騎士団の目的もトーナメント表の入れ替えだったのね」

「……俺の落ち度だ。どうすればいい」

「…………ラスピルの相手、よく見て」


 ここからトーナメント表はかなり遠い。だが、二人にはよく見えていた。

 ラスピルの相手は───。


「……これは、どういうことだ?」

「…………嫌な予感ね」


 クリードは、あることに気付く。

 ラスピルの対戦相手。

 そして、勝った場合に当たる相手。

 まさかと思い、ラミエルに質問をする。


「…………まさか、そういうことなの?」

「可能性はある。出来過ぎている」

「どうする?」

「……先手を打つ」


 クリードは、暗殺をすることを決意。

 敵は【理解ビナー】と【栄光ホド】……波乱のカーニバルが始まろうとしていた。

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