第二王女ラミエルとの協定

「なるほどね……第二王女ラミエルとは」

「意外ねぇ? でも、これで王位継承戦はやりやすくなったんじゃない?」


 クリードは、第二王女ラミエルとの会話をレオンハルトとルーシアに報告した。

 場所は、男子寮地下。護衛もあるので、ここにあつまるのは十分以内と決めている。必要な話だけをして解散するのが決まりだ。

 ルーシアは、飴玉を舐めていた。


「クリードが言うくらいだし、信用はできるっぽいのね。じゃあ、情報集めは王女にある程度お任せして、あたしはなるべくラスピルに付いてよっかな」

「いや……まだ完全に信用できない。お前はお前で情報を集めろ」

「でも、『誓いの刻印』が刻まれているんだろ?」

「そうだとしてもだ」


 クリードは警戒していた。

 第二王女ラミエル。まだ信用はできない。

 

「あ、そういえばさ。カーニバルの締め切りが近いな。ふふふ、目立つチャンス、ラスピルにカッコいい所見せられそうだぜ」

「ふふ~ん? じゃあ朗報。ラスピル、あんたのことそこそこ気に入ってるかも」

「お、いいね。任務とはいえ、あんな可愛い子に気に入られるの悪くない」


 レオンハルトとルーシアはケラケラ笑っていた。

 アサシンといえど、感情はある。昔のアサシンは感情のない人形のような者が多かったそうだが、今の『創造主』の方針で、教育方針を変えたのだとか。

 クリードは、第二王女ラミエルのことを考えながら、カーニバルのことも考えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから数日後。学園内は『スキルホルダー・カーニバル』の話で一気に盛り上がった。

 参加者は訓練に励み、このころになると噂話も多く聞こえてくる。

 マルセイは、わざわざ放課後にクリードとトウゴを誘い、カフェでコーヒーを奢ってくれた。


「知ってるかクリード。優勝候補にラスピルちゃんが入ってるんだぜ?」

「そうなのか?」

「ああ。それとあのいけ好かないイケメンも。さらに隣のクラスの『剣星』レベッカちゃんに、Aクラスで有名な公爵家の長男コジロウ。さらに───……」


 こういう情報も、あながち侮れない。

 ルーシア、レオンハルトというアサシンがラスピルと行動するようになった今。クリードはマルセイやトウゴに付き合い、情報収集する時間を取れるようになった。

 驚いたのは、マルセイだけじゃない。トウゴの方もだ。


「噂っスけど、伯爵家の長女セレーネちゃん、十六歳ながら騎士のスカウトを受けたとか。さらにBクラスのエドモンド、レアスキルを持ってるって噂っス……スキルの開示は自由だから、大抵はスキルを隠すっスけど、エドモンドはスキルを公表して『オレに勝てる奴はいない』みたいに振舞ってるらしいっス」


 トウゴは、かなりの情報通だった。

 いくつかの情報を裏どりしたが、どれも正確で正しかった。学園内の噂はトウゴに聞けば正しい、それがクリードの判断だ。

 話を聞き、クリードはコーヒーをおかわりするために立ちあがる。そして、コーヒーをカップに注ぎ……転んでしまった。


「うわっ!?」

「おい、なにしやがる!!」

「すまない。転んでしまった」


 コーヒーが、上級生の上着にかかってしまった。

 謝るが、なかなか許してもらえない。それを見たマルセイとトウゴがクリードの元へ。

 すると、上級生がため息を吐いた。


「とりあえず、風紀委員会まで来てもらう。反省文を書いてもらうぞ」

「わかりました」

「お、おいクリード」

「悪いな。今日はここまでだ」


 上級生と一緒に、クリードは風紀委員会へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


「すまないね。自然な呼び出しをするにはこれしかなかったんだ」

「かまわない」


 クリードは、第二王女ラミエルと向かい合っていた。場所は風紀委員長室で、二人きり。

 そう、コーヒーをこぼす一連の出来事は、ラミエルに合うため、事前に決めた芝居だった。

 第二王女ラミエルが呼び出す。それだけで目立つので、自然に会うためには『罰則』という形で、風紀委員会に呼び出すのが自然だ。

 ちなみに、上級生はラミエルの部下だ。クリードがアサシンということは知らないが、ラミエルに忠誠を誓った騎士である。

 ラミエルは、さっそく話を始めた。


「さっそくだけど……カーニバルの締め切りで、参加者名簿が風紀委員にきた」

「風紀委員に?」

「ああ。参加者の集計をして、それを学園長へ提出するのは風紀委員会の仕事だ。校長がクジで抽選をして、トーナメント表が作られる。恐らく……いや、間違いなく、閃光騎士団の介入があるだろう」


 ラミエルは、コーヒーを啜りながら椅子に寄り掛かる。


「最も確実なのは『事故死』だ。いくら王族だろうと、トーナメント中の死は『事故』で片づけられる。姉上ならともかく、まだ未熟なラスピルが事故死しても不思議じゃない。問題は、ラスピルがトーナメントで誰に当たるかだ」

「その『誰か』が閃光騎士団の十傑ってことか?」

「まだわからない。だからこそ、先手を打つ」

「……どうするんだ」


 クリードは腕を組み、首を傾げる。

 ラミエルは、コーヒーを飲み干して立ちあがった。


「参加者名簿は今日、学園長室へ届ける。それから学園長が一人でくじを引き抽選を行い、トーナメント表を完成させる。トーナメント表は当日発表……それまで、内容を知るのは校長だけだ」

「回りくどい」

「ふふ。つまり……トーナメント表をすり替えるのさ。校長が作成したトーナメント表と、私が作成したトーナメント表を入れ替える。私の作ったトーナメント表なら、ラスピルを優勝まで導ける。もちろん、敗北の可能性もあるがな」

「なるほど……第三王女ラスピルの相手は」

「もちろん。私が選んだ。閃光騎士団の手が入っていない人間だから安心だ」

「…………」

「というわけで、クリード。きみに仕事だ」


 ラミエルは、机の引き出しを開けて折りたたまれた羊皮紙を取り出す。

 それを封筒にしまい、クリードへ渡した。


「学園長室へ潜入し、トーナメント表をすり替えてくれ」

「…………了解した」


 ラミエルからトーナメント表を受け取り、クリードは頷いた。

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